テイムラッシュ!
「次は何が出て来るのかな?」
ミスリルの槍を握りしめて、ちょっとワクワクしながら俺は雑木林を見つめた。
しばらくして、また雑木林が騒めく。
「お、次が出たみたいだな。どんな子だ?」
俺だけじゃなく、見るとハスフェル達もなんだか楽しそうだ。
その時、さっきのコンゴウインコ達と変わらないくらいの、ものすごい雄叫びが聞こえてきた。
「うわあ、これまた賑やかな鳥だな。どんな鳥だ?」
苦笑いしながら出てきた鳥を見た俺は、思わず拳を握りしめてガツポーズを取った。
「よしよし、やっぱりオウムと言えばと言えばこれだよな」
そう呟いて前に進み出る。
出てきた鳥は、全身真っ白で大きな嘴、そして頭の上には黄色い冠羽と呼ばれるやや細長い羽根が立ち上がった大きな鳥だった。
「あれって何て名前の鳥だっけ、シロたん? あ、違うな……ええと、あ、そうそう、キバタンだ!」
「あれは、カメレオンコッカトゥ。良いじゃないか。あれの羽根も高く売れるぞ」
ハスフェルの言葉に、慌てて振り返る。
「せっかくだから、俺は一羽テイムするぞ!」
宣言して改めてミスリルの槍を構える。
「ご主人、テイムするんですね。じゃあ先に選んでくださいよ」
側に来たニニがそう言ってくれるが、何しろめちゃくちゃうるさい上に、あちこちに飛び回るので落ち着いて見ていられない。
そもそも俺には、さっきのハスフェル達みたいに気配を隠して近づくなんて芸当出来ないって!
大騒ぎする鳥達を前に困っていると、いきなりファルコが舞い降りてきた。
「テイムするんですね。じゃあ一羽確保して差し上げます」
一瞬だけ俺の肩の定位置に留まってそう言うと、そのまままた羽ばたいて舞い上がってしまった。
俺が返事をする間も無く飛んで行ってしまった大きな姿を見て、笑って一旦槍を下ろしてそのまま上空を見上げた。
前に進み出た従魔達の気配に気付いたキバタンが一斉に羽ばたいて舞い上がり、上空を制圧していた従魔達に気付いてまた逃げる。降りてきたところを猫族軍団達が一斉に飛び上がってキバタンを叩き落とすのを、俺はあっけに取られて見ていた。
「何、あのジャンプ力。怖え」
そう呟いた時、ファルコが甲高い声で鳴いて上空に逃げた一羽のキバタンを、あの巨大な両足で確保して降りてきた。
「はい、大きめのを捕まえましたよ。どうぞ、ご主人!」
そう言って、まるで荷物を渡すように勢いよく俺の手元に真っ白なその鳥を落とす。
「うわわ〜!」
慌てて一瞬で槍を収納して手を差し出して、落ちてきた鳥をなんとか受け止めた。多分50センチくらいはある。割と大きい。
見ると、腹側を上にして俺の手の上に落ちてきたキバタンは、多分恐怖に硬直してるんだろう、嘴を少し開けた状態でカチカチになったまま固まっていた。
「よいしょっと」
苦笑いして、ひっくり返してなんとか手の上に乗せて左の手首に留まらせてやってから、右手で頭を掴んで顔を覗き込む。
「俺の仲間になるか?」
ようやく我に返ったらしいキバタンが、大きく身震いをしてから大人しくなった。
「はい、よろしくお願いします! ご主人!」
答えと同時に羽を広げて地面に降り立ち、また光って一気に大きくなる。おお、これまたデカい。そしてその声で分かった。またしても雌決定!
うん、従魔達の女子率がまた上がったみたいです。
「ええと、紋章は何処につける?」
右手の手袋を外しながら聞いてやると、やっぱり胸元を見せながらここにしてくれと言う。
「ここだな。おお、ふかふかで気持ち良いなあ」
ちょっと何度か撫でてから、胸元に手を当てて少しだけ力を込めて押すようにする。
「お前の名前はブランシュ。ブランって呼ぶ事にするよ。よろしくな、ブラン」
フランス語で白って意味だ。うん、そのままのネーミングだね。
また光った後、ぐんぐん小さくなってまたハトサイズになった。尻尾が短めなので、やや小さい印象だ。
「よろしくな、ブラン」
「はい、よろしくお願いします。ご主人」
嬉しそうにそう言うと、大きな嘴で俺の右手の指を甘噛みした。
「テイムおめでとう。その子も亜種だから強いよ」
シャムエル様の声に、もう一度笑って思い切りブランを撫で回してやった。
「おお、可愛いじゃないか。って事で、俺達も頼むよ」
笑ったハスフェルの声に驚いて振り返ると、なんと三人とも白いキバタンを確保してたよ。
「あはは、了解。じゃあ順番にな」
って事で、確保した子達を順番にテイムしてやる。
ハスフェルの子は、名前はカノープス。雄。ギイの子は、レグルス。これは雌だったよ。そして、オンハルトの爺さんの子はアリオト、これも雌だったね。
またしても星の名前で統一。でも、もうそろそろネタ切れかも。
それぞれの子達を腕に乗せて大喜びする三人を見て、もう一度水筒から水を飲んだ俺は静かになった雑木林を見つめた。
「もう終わりかな?」
「どうだろうな。ランドルの話では、かなりの種類が出たと言っていたがな?」
顔をあげたハスフェルの言葉が合図だったかのように、またしても雑木林が騒めく。
「次は何かなっと」
振り返って見えた鳥に、またしても俺のテンションは上がった。
「よし、これもテイムしよう!」
雑木林から飛び出してきた鳥は、ペットとしては多分とってもメジャーであろう鳥、セキセイインコだった。
「だけどやっぱり俺の知ってるセキセイインコよりかなりでかいぞ」
どう見ても、尻尾の先まで入れたら50センチは余裕でありそうだ。しかも、さっきまでと違って可愛らしい鳴き声にちょっと癒された俺も前に進み出た。
今回も、ファルコが上空で確保してくれたおかげで、またしても俺は何もせずにテイムする事が出来たよ。
色は、緑色と黄色の混じった定番の色っぽい子だ。ちなみに出てきたのが全部がこの色だったので、多分原種の色なんだろう。
名前はメイプル。楓の木って意味。特に理由は無いけど、何となくこの子を見た瞬間に思いついた名前だ。
これまた大きくなったら、他の子達と変わらない大きさになった。でかいセキセイインコって、恐竜っぽくってちょっと怖いかも。
ハスフェル達はもう良いと言うので、結局テイムラッシュはここまでになった。
「いやあ、なかなか良い子達をテイムしたんじゃない? どの子も亜種だからかなり強いよ」
従魔達が片付けてくれたセキセイインコのジェムと羽根を集めているのを見ながら、シャムエル様が感心したようにそう言ってくれた。
「へえそうなんだ。あいつらってそんなに強いのか?」
嘴と足の爪くらいしか攻撃できそうな箇所がないと思う。
ファルコみたいに元が肉食って訳でも無いんだから、強いと言われてもにわかには信じられない。俺的には、アヴィと同じで、可愛いをメインに癒しのつもりで集めたんだけどなあ。
「まあ、その辺は実際に見てもらった方が早そうだから、楽しみにしてると良いよ」
何やら含みのある言い方に首を傾げて雑木林を振り返る。
しばらく黙って見ていたが、風にざわめくだけで次が出る様子は無い。
「どうやら今日はもう終わりみたいだな。どうする、かなり時間を取ったけど、このまま次へ行くか?」
正直ちょっと疲れているので、出来ればもう今日は休みにしたい。
三人が顔を見合わせて相談を始め、結局今日はもう終わりにして河原の宿泊場所に戻る事にした。
「おおい、一旦戻るから降りてきてくれるか」
上空にいる鳥達に呼びかけて、大きく深呼吸をした。
「さて、じゃあ戻ったら夕食だな。疲れたし、元気が出るように肉でも焼くか」
小さく呟いただけなのに全員に聞こえていたらしく、三人が揃って拍手するもんだから、俺も一緒になって拍手しながら、肉だ肉だと言いながら顔を見合わせて笑っていたのだった。