テイムするぞ!
「じゃあ、テイムはするから確保はよろしく!」
「おう、任せろ!」
俺の言葉に、まずはハスフェルが頷いて進み出る。
雑木林の枝に鈴生りに留まっているのは、真っ赤な羽色をした大きな鳥で、翼の先の部分が黄色と青になってるし尾羽も長い。某海賊映画で見たあの鳥だ。
「ええと、なんて名前だっけ?……あ、そうそうコンゴウインコだ!」
納得して槍を握る。
「あれはカメレオンマコー、あるいはパロットとも言うな。特にあれは様々な色があって、色別にそのままレッドパロットとかブルーパロットと呼ばれてるな。しかし、ここまで大きいのは初めて見たぞ」
妙に嬉しそうにハスフェルがそう言うと、気配を消してゆっくりと雑木林に近寄っていく。
「へえ、あれだけ近寄っても気付かれないって凄えな」
感心して黙って見ていると、ハスフェルはしばらく黙ってコンゴウインコ達を見ていたが、いきなり動いた。ある一羽に狙いを定めて、手を伸ばしていきなり飛びついたのだ。
驚いた真っ赤な鳥達が一斉に羽ばたいて逃げる。しかし、ハスフェルの大きな手は目的の鳥をしっかりと掴んでいて離さない。
物凄い叫び声を上げてコンゴウインコが暴れて、鳴きながら大きな嘴で掴んでいるハスフェルの手を噛もうとする。しかし、さっきの俺と同じように左手で嘴を上から押さえつけるみたいにして掴んでしまう。
抵抗を封じられて嫌がって羽ばたくコンゴウインコ。だけど、ハスフェルの大きな手に掴まれていて逃げる事が出来ない。
その後もしばらく抵抗していたが、諦めたようで大人しくなった。
「もう大丈夫みたいだな。じゃあ頼むよ」
嘴を掴んだまま、ハスフェルがそう言って振り返る。
「おう、それじゃあ、俺の仲間になるか?」
横で見ていた俺は、覗き込むようにして声に力を込めてそう言う。
甘えるように可愛い声で鳴いたコンゴウインコは、離してもらった嘴を大きく広げて返事をした。
「はい、よろしくお願いします! ご主人!」
おお、こいつはどうやら雄だったみたいだ。
返事をしたその瞬間、ピカッと光ってそのままぐんぐん大きくなる。
「おお、これまたデカくなったぞ」
真っ赤で尾羽も長い鳥が巨大化するとちょっと恐竜っぽい。めっちゃ迫力あるよ。
多分、いつも運んでくれてる大鷲ぐらいありそう。いや、尾羽が長い分こっちの方が大きく見えるくらいだ。
「それで、名前は何にするんだ?」
ハスフェルを振り返ると、嬉しそうに口を開いた。
「じゃあ、アンタレスで頼むよ」
おお、すぐ答えたって事は先に考えてあったんだな。でもってやっぱり星の名前シリーズだな。よしよし。
「ええと、紋章はどこにつけるんだ?」
右手の手袋を外しながら聞いてやると、真っ赤なコンゴウインコは嬉しそうに胸を反らした。
「ここにお願いします!」
「ここだな。お前の名前はアンタレスだよ、よろしくアンタレス。だけど、お前は俺じゃ無くて別の凄い人の所へ行くんだからな」
そう言って、希望通りに胸の部分に右手を置いてそう言ってやる。
またピカッと光った後、今度はぐんぐんと小さくなってモモイロインコのローザと同じくらいの大きさになった。鳩の体を細くして尾羽を長くしたみたいな感じだ。これなら連れて歩いてもあまり圧迫感は無さそうだ。
笑った俺は、小さくなったアンタレスを右手に乗せてやる。
「ほらおいで、この人がお前の新しいご主人だよ」
右手を上げて、ハスフェルの目の前まで持っていってやる。
「新しいご主人ですか?」
「ああ、よろしくな。ハスフェルダイルキッシュだ。ハスフェルって呼ばれてるよ」
ハスフェルの差し出した大きな腕に、嬉しそうにアンタレスが飛び乗る。
「よろしくお願いします! 新しいご主人!」
軽く羽ばたいて、ハスフェルの太くて長い指に頬擦りする。
「おお、これはまたふわふわだな。よろしくな。アンタレス」
笑顔のハスフェルがそう言い、自分の左肩に乗せる。
「じゃあ、お前の定位置はここだな」
ハスフェルが身につけている胸当ては、俺のよりもかなり大きくて肩当ても大きい、アンタレスの大きな爪でも大丈夫みたいで、嬉しそうに肩当てに掴まって羽繕いなんか始めたし。
「上手くいって何よりだな。で、こっちはそろそろ次が出るんだがな」
苦笑いするギイとオンハルトの爺さんの声が重なり振り返ると、またしても散らばるジェムと真っ赤な羽根、時々青と黄色の羽根も見える。
「あはは、テイムしてたらその間にまたしても二面クリアーかよ。悪いなあ」
「構わないよ。俺達もほとんど何もしてないよ。今回は従魔達が大張り切りで頑張ってくれて集めてくれてるんだよ」
その言葉に不意に気が付いた。さっきまで俺の左腕に留まっていたモモイロインコのローザがいない。
慌てて上を見ると、ファルコとプティラと一緒になってローザも巨大化して上空を舞ってたよ。
凄えな。こうして見ると、ローザは翼が少し小さいようだけど、体の大きさで言ったらファルコにだって殆ど負けてないぞ。
それを見たハスフェルの肩にいたアンタレスが、大きく羽ばたいて一気に舞い上がった。そのまま巨大化して上空の鳥軍団に合流する。三羽の鳴き声にアンタレスの豪快な鳴き声が重なる。
「挨拶してるみたいだな」
呆気に取られて舞い上がるその姿を見送った俺達は、顔を見合わせて同時に吹き出した。
「じゃあ、上空の戦力も強化された事だし、次はギイか?」
「ああ、頼むよ」
嬉々として進み出るギイを見て、俺も今度は少しくらい参加出来るかと思って槍を構えた。
三面目に出て来たのは、同じコンゴウインコの色違いで、背中側が青で、腹側が黄色のルリコンゴウインコだった。
ギイが確保して俺がテイムしたルリコンゴウインコを渡してやり、名前はギイの希望でカストルと命名。雄。
その次の四面目には、全身濃い真っ青なスミレコンゴウインコってのが出た。
真っ青のスミレコンゴウインコは、オンハルトの爺さんに渡してやりポルックスと命名。これも雄だった。
偶然だけど、青の色違い二羽が双子座の星の名前になったよ。ぴったりの名前になったな。
「いやあ、これは可愛い。青と黄色の羽が綺麗だな」
「うん全くだ。これも素晴らしい青い色だな」
ギイとオンハルトの爺さんもそれぞれ新しく従魔になった鳥達を撫でて嬉しそうに互いの鳥達を自慢し合ってる。
こうやって並べると、確かにどの子も綺麗だよ。
結局、後の二回もテイムしている間に従魔達が大張り切りしてくれたおかげで、今日の俺は全然狩りに参加してない。まあ良いけどさ。
水筒から水を飲みながら、ゆっくりと深呼吸をする。
「一日で四羽か。こんなもんか?」
一応、一日にテイムできる数は決まってるって言われたから、一気にテイムする時には気を付けてる。
「まだ大丈夫だよ。今のケンなら二十羽くらいまでは余裕かな。まあ普通の人間だったら十羽くらいが限界だけどね」
右肩に座っていたシャムエル様にそう言われてちょっと考える。
「まだ、何か出るのかな?」
上空を制圧してくれる鳥達も、数がいた方が良いかと思ったからだ。まあ、飛ぶ時もファルコの負担が軽くなりそうだしな。
後一羽か二羽くらいならテイムしても良いかと考えて、そろそろ次が出そうな雑木林を見て構えた。
よし、綺麗な色の鳥だったら、もうちょっと頑張ってテイムしよう。