モモイロインコをテイムする
「ええと、忘れ物は無いな。よし。じゃあ行くか」
最後にもう一度辺りを見回し、忘れ物がない事を確認してから、俺は準備万端整えて待っていたマックスに飛び乗った。
もう他の従魔達は全員定位置に収まって、出発を今か今かと待ち構えている。
「お待たせ、それじゃあ出発だな」
同じくそれぞれの従魔達に飛び乗った三人を振り返る。
先頭を行くハスフェルの乗るシリウスに並んで、一気に加速して行った。
ハスフェル達はある程度の地理が分かってるみたいだけど、俺は正直言って全然分からない。
マッピングの能力は、ここでは郊外だと認定されるらしく効果が無い。
何となく東西南北程度はわかるけど、彼らのようにどこに何がある、みたいな判断は俺にはつかない。
まあ、そんな時のための仲間なんだから、ありがたく便乗させてもらうよ。
草地を抜け、川を飛び越える。
そのまま足場の悪い斜面を駆け上がって、丘を一つ越えた先にあった草地の先にある雑木林のような場所で一斉に止まった。
「ここがそうなのか?」
丁度止まった位置は目の前の右半分が雑木林になっていて、左半分は浅そうな池が広がっている場所だ。
「ランドルからの情報によると、ここで待っていれば雑木林から出現したジェムモンスター達が、枝沿いに出てくるそうだ。ランドル達は飛び立たれてしまっては手が出せないので、最初のうちは殆ど逃げられてしまっていたそうだ。それで途中からは雑木林の中で待ち構えて、奥から枝沿いに出て来たところを叩き落としてたんだとよ。それで、そのうちの一匹をお前が言ったように叩き落として確保してみたところ、簡単にテイム出来て驚いたらしいぞ」
「ああ、そうだったのか。上手くいって良かったよ」
笑って左肩に留まっているファルコを見上げる。
「じゃあ、上空の制圧は任せて良いか?」
「任せてくださいご主人! プティラ、行きますよ!」
嬉しそうに甲高い声で一声鳴くと、翼を広げて上空に飛び上がった。一気に巨大化する。
ファルコの呼びかけにプティラが嬉しそうに鳴いて応えて、これまた巨大化して舞い上がった。
上空を旋回する二羽。プティラはあまり長時間同じ場所を旋回していると落ちてくるので、時々羽ばたいて大きく横に飛んで、ぐるっと大きく旋回してまた戻ってくる。
全員揃って上空を見上げて笑顔になる。
その時、雑木林のあたりが一斉に騒めき出した。
何やら賑やかな鳴き声と、ヒステリックにギャーギャーと叫ぶような鳴き声。
次の瞬間、緑だった雑木林が見事なまでにピンク色に変わった。
「うわあ、出て来たのは良いけど、これまたデカいなあ」
呆れたような俺の感想に、三人が同時に吹き出す。
だって、頭の先から尻尾の先まで、どう見ても俺の身長より大きい。あれ、翼を広げたら2メートル越え確実だね。
「どうする? テイムするのは止めるか?」
面白がるようなハスフェルの言葉に、俺はムッとして剣の柄を握った。
「んなわけあるかよ。ちゃんとテイムするに決まってるよ」
と言いつつ、手を止める。
「あ、あの高さならこっちかな」
ちょっと考えて、剣はやめてミスリルの槍を取り出した。
俺達の気配を察したのか、羽ばたく音とともに一斉にモモイロインコが雑木林から上空へ飛び立つ。
しかし、その上空はファルコとプティラが制圧している。
慌てたように塊のまま池の方に低空飛行で飛んでくる。
「よし、こいつにしよう!」
俺の方に向かって来た巨大なモモイロインコを、槍の石突で軽く叩き落とす。
そのまま、勢い余って池に転がり落ちたモモイロインコの尻尾を掴んで引き上げてやった。
嫌がるように羽ばたいて逃げようとするが、こっちだって必死なんだよ。しっぽを鷲掴みにしたまま翼の根本辺りを引っ掴んで押さえ込み、大きな嘴で噛み付きに来たので咄嗟に嘴を丸ごと左手で掴んで押さえつけてやった。嘴を掴んだまま軽く左右に頭を振り回すようにしてやると、情けなさそうな鳴き声の後、呆気なく大人しくなったよ。うん、ファルコやプティラの時に比べたら楽勝だったね。
「ええと、もう大丈夫かな?」
首の根本辺りを捕まえて、巨大なモモイロインコの顔を覗き込む。
「俺の仲間になるか?」
「はい、よろしくお願いします。ご主人!」
甲高い声で答えたそれはやっぱり女の子っぽい声。またしても女子率上がったよ。別に、雌を狙って捕まえてるわけじゃないんだけどなあ。
答えた直後に光を放ち、手を離してやるとさらに巨大化してファルコと変わらないサイズになった。
「よし、じゃあ紋章はどこに付ける?」
手袋を外しながら聞いてやると、胸を反らせるようにして大きく膨らませた。ファルコやプティラと同じ場所だ。
「ここにお願いします!」
「じゃあここだな。お前の名前はローザだよ。よろしくな、ローザ」
胸の部分を押すようにしてやると、また大きく光を放って今度は一気に小さくなった。
「あ、俺の知ってるモモイロインコサイズになったぞ」
羽ばたいて腕に飛び上がって来たので乗せてやり、冠羽の立った頭を撫でてやる。
「良いのをテイムしたね。その子も亜種だから強いよ」
「へえ、そうなんだ。よろしくな、ローザ」
シャムエル様に褒めてもらって、嬉しくなって背中も撫でてやった。
「お疲れさん、そろそろ次が出るぞ」
ローザを撫でて和んでいると、笑ったハスフェルの声に慌てて振り返る。今更気が付いたが周りは大変な事になっていた。
あちこちに転がる中サイズのジェムと、巨大な羽根。ほとんどはピンクだが、中には白やグレーもある。
「あはは、全然参加しないうちに一面クリアーしたみたいだな。ごめんごめん」
笑って誤魔化すと、ハスフェル達も振り返って笑った。
「まあ、目的の子はテイム出来たんだから、良かったじゃないか。次は俺のを頼むよ」
「おう、同じで良いか?」
「おい、よろしく」
「俺達も待ってるぞ〜!」
ギイとオンハルトの爺さんの声も聞こえて、皆で笑い合った。
って事で、二面目が出るならまたテイムする気満々だったのだが、雑木林から出て来た鳥達を見て驚いた。
「あれ。色が違うぞ? うわあ、あれってなんて言うんだっけ。海賊が肩に乗せてるやつだ」
俺の叫びに三人が思いっきり不審そうに振り返る。
「何だって?」
あ、このネタはさすがに分からないか。苦笑いして肩を竦める。
「ごめん、独り言だから気にしないでくれ。それより、これまた随分と派手だけどあれで良いか?」
「もちろん!」
「じゃあ、確保は自分でやれよな!」
嬉しそうに大きく頷くハスフェルに俺も笑って言い返してやり、ミスリルの槍を持ち直した。