情報共有と豪華な夕食
「なんだって、そりゃあ良い。何処だって?」
夕食のメニューを考えていると、ハスフェル達の何やら嬉しそうな声が聞こえて振り返ると、顔を突き合わせるようにして話していたハスフェルとランドルさんが、それぞれ大きな紙にペンを持って何やら笑顔で書き込んでいる。
「何を書いてるんだ?」
サクラを机に置いて後ろから覗き込むと、どうやら互いの情報をまとめてこの飛び地の即席の地図を描いているらしい。
二人が真剣な様子で話をしながら、簡単に目印になる大きな木や岩場などを書き込み、何が出るのかも合わせて書いて行く。横から覗き込むギイとオンハルトの爺さんとバッカスさんも、地図を指差しながら何か言ってる。
今ハスフェル達が書いているのは、今日俺達が行ったエアーズロックもどきのジェムモンスターが出る場所みたいだ。
「成る程ね。わざわざ別行動にしたのはああいう意味もあるんだな」
感心してそう呟き、サクラの元に戻る。
「あ! じゃあ、あれにしよう、以前作った赤ワイン煮のシチュー。あれならもう出来上がってるから温めるだけだもんな。ええと、いつも使ってる空の寸胴鍋も出してくれるか」
サクラに取り出してもらったのは、赤ワイン煮を作ってある大きな寸胴鍋だ。
一応、ランドルさん達からは見えないように、背中を向けて取り出したよ。だけどまあ、話に夢中になってる彼らは全然こっちを向かないから大丈夫だろうけど、一応用心の為にね。
「仕込んだ後、二回火を入れ直してあるんだよな。ええと、師匠によると、もうそろそろ肉がとろけるくらいになってるはずなんだけど、果たしてどうなってるかな?」
いつも使っている小さめの寸胴鍋に、赤ワイン煮を大きめのレードルで大体四人分やや多めを取り分けて火にかける。やや多めなのは、多分シャムエル様も喜んでたくさん食べるであろう事を予想しての増量だ。
そして、確かに冷めてる状態でも肉がめっちゃ柔らかくなってて驚いた。ううん、これは食べるのが楽しみだよ。
これはパンの方が合うだろうから、今回は俺もパンにする。取り出したのは、定番の丸いロールパンと皮が硬いフランスパンだ。
アクアにフランスパンを二本分スライスしてもらい、ロールパンと一緒に籠に盛り合わせておく。一応横にいつもの簡易オーブンも出しておく。
「野菜が欲しいなあ。ええと葉物のサラダとおからサラダ。あとはトマトがあれば良いな」
赤ワイン煮のシチューの入った鍋をかき回しながらそう呟き、サクラに取り出してもらって、いつもサラダ用に使ってるお椀に適当に盛り合わせてやり、カットしたトマトも一緒に並べておく。よしよし、緑と赤で綺麗な彩りになったぞ。
「あ、茹で卵も一切れ入れておいてやろう」
これはアクアに卵の殻を剥いてもらって、縦半分にカットした茹で卵をトマトの横に並べておく。
ドレッシングは、定番青じそもどきドレッシングだ。
茹で卵の上には、ちょっとだけマヨネーズをスプーンですくって乗せておいてやる。これで彩りは完璧だ。
「おおい、準備出来たぞ」
「ああ、こっちもちょうど出来上がった。感謝するよ。じゃあ次に行ってみる事にするよ」
「おう、俺達の方こそ感謝するよ。カメレオンヘラクレスビートルとカメレオンファイヤーフライはぜひとも手に入れておきたいからな」
「ありったけの収納袋を総動員させてもらうよ」
満面の笑みの二人はそう言って、描いた地図を畳んでいる。
「美味い酒をご馳走さん」
最後に声を揃えてそう言って、嬉しそうにテントへ戻って行った。
「おお、美味そうじゃないか」
二人を見送ったあと、赤ワイン煮を見た三人が嬉しそうな顔になる。
俺はいつものように、自分の分を簡易祭壇にしている小さい方の机に並べて手を合わせた。
「新作のグラスランドブラウンブルの肉で作った赤ワイン煮だよ。少しだけど、どうぞ」
いつもの収めの手が俺を撫でてから、料理を一通り撫でて消えて行った。
「お待たせ、食べよう。腹ペコだよ」
料理を自分の席に戻して座ると、待っていてくれた三人も一緒に手を合わせてから食べ始めた。
「おお、これは素晴らしい」
「うん、肉がとろけて口の中で無くなったぞ」
「これは美味い。最高だよ」
満面の笑みの三人が、口々にそう言って揃って拍手してくれた。
俺も自分の分を一口食べてあまりの美味しさに目を見張った。確かにこれは美味い。
「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ! 食べたいよったら食べたいよ!」
大きめの小鉢を振り回しながらシャムエル様が超高いテンションで躍りまくっている。
「はいはい、これが食べたいんだな。ほら、落ち着いて座って」
小鉢を差し出しながら、下半身だけでまだタップを踏んでいる。
笑って小鉢を受け取った俺は、大きな肉の塊を一つと、かろうじて原型を留めているじゃがいもと一緒にたっぷりとシチューをスプーンですくって入れてやった。
「パンは、俺は両方取ったんだけど、どうする?」
「両方ください! 半分ずつくらいで良いです」
「はいはい、半分ずつね」
苦笑いして、リクエスト通りにパンを半分に切って別のお皿に乗せてやり、そして当然のようにもう一枚差し出されたお皿には、サラダを一通り取り分けてやる。
それを見たハスフェルが、黙って俺のお皿に追加のロールパンとフランスパンを取ってくれた。
「はいどうぞ。新作のグラスランドブラウンブルの肉で作った赤ワイン煮だよ。こっちはおからサラダな」
目の前に並べてやると、それは嬉しそうに目を輝かせて赤ワイン煮に当然の如く顔から突っ込んで行った。
しばらくもぐもぐやっていたが、茶色のシチューまみれになった顔を上げて俺を振り返る。
「ケン、これ最高! お願いだからこれも定番で作ってください! 美味しい〜!」
そう叫んで、フランスパンを齧ったあと、また赤ワイン煮に顔を突っ込んでいった。
「相変わらず豪快に食べるなあ」
感心するように呟いてから、俺も自分の分の赤ワイン煮を楽しんだ。
「シャムエル様。これパンにつけて食っても美味いぞ」
フランスパンの硬い皮の部分を浸して食べたら、これまためっちゃ美味しかった。
俺の言葉に目を輝かせたシャムエル様が、残っていたフランスパンの皮を全部まとめて小鉢に突っ込むのを見て、俺たちは堪える間もなく吹き出したのだった。
冗談抜きで煮込むだけの簡単料理だから、今度時間のある時にもっと沢山仕込んでおこう。確かにこれは自分で作って言うのもなんだが本当に美味い。
素晴らしい簡単レシピをありがとうございます。マギラス師匠!
大満足の食事の後は、シャムエル様のリクエストで、激うまリンゴとブドウを取り出した。
「あ、エリー、お前って食事は何を食うんだ?」
「昆虫とか果物なんです。昆虫は夜に自力で取りますので、出来ればその果物を少し頂けませんか?」
足下に置いた俺の鞄のポケットから出て来たエリーが、俺が手にしているリンゴを見ながらそう答える。
「あ、果物も食べるんだ。これでいいか?」
一切れ渡してやると、嬉しそうに小さな両手で持って齧り始めた。そっとそのまま机に乗せてやる。
「ご主人、これとっても美味しいです」
もぐもぐとリンゴを齧りながら、嬉しそうに目を輝かせる。
「確かにこのリンゴは美味いよなあ。あ、これって彼らに教えたのか?」
「もちろん。大喜びしていたが、彼らの持っている収納袋は時間停止では無いからそれ程日持ちはしないからな。たくさん取って全部ドライフルーツにすると言っていたぞ。案外器用な奴らだな」
「あはは、確かにそれが自分で出来れば一番良いよな」
感心して笑った後、スライムたちの有り難さを実感したね。
それから、後でシャムエル様から聞いたんだけど、机の上の料理を見たランドルさん達は、羨ましくて二人揃ってテントの中で悶絶していたらしい。
何だよ。知らん顔して戻るから、いらないんだと思って誘わなかったんだよ。言ってくれれば一食ぐらいご馳走したのにさ。