明日の予定と冒険者仲間
「なあ、もうそろそろいいんじゃないか? かなり素材も集まったみたいだしさあ」
完全に後ろで見学状態になってる俺の言葉に、マックス達が勢いよく振り返る。
「何言ってるんですかご主人! せっかくの飛び地なんですから狩れるだけ狩って行きますよ!」
まるで扇風機みたいに興奮した尻尾が、ものすごい勢いで尻尾がグルングルン回っているマックスがそう答えて振り返る。そりゃあ確かにそうだろうけど、もういいんじゃないかと思うくらいに相当集まったと思うぞ。
だって、さっきよりも出現する数が多い上に、もう六面目がほぼクリアーされているところだ。
ちなみに俺は、たまにマックス達の隙間を縫って背後へ逃げてきたのをやっつけてるだけで、既に三十匹以上をジェムにしてるぞ。
ハリネズミの素材もやはり背中の針なのだが、これまた一匹から取れる針の数が多い上にさっきのハリモグラよりも針が繊細で細い。とはいえ、やっぱり50センチくらいは余裕であるけどね。
「冗談抜きで、このサイズの針って凶器だよな。下手に突き刺さったら確実に逝くよ」
苦笑いして、寄ってきたサクラに足元に落ちていた針を拾って渡した。
結局、ハスフェル達が腹が減ったと言い出したために七面目をクリアーした時点で一旦撤収する事になった。
「ええと、どこで食べる? 河原まで戻るか?」
エアーズロックもどきから少し離れた茂みにいるので、この辺りはあまり大きな木も生えていない。
「そうだな。今日はこれで終わりにして河原に戻るか。それとも、もう一戦やるか?」
あまりに楽しそうに聞かれて逆にビビる。
「ええと、何が出るか聞いていい?」
「カメレオンソルティーの出る場所が近いらしいんだが、どうだ?」
「あ、明日にしない?」
なんだか嫌な予感がしてそう言うと、ものすごく残念そうな顔をされた。
うん、決定。カメレオンソルティがなんだか知らないけど、明日にしよう。
なんとか無理やり話を終わらせて、この場は撤収して河原へ戻る事にした。
案外近かったみたいで、マックスに乗ってしばらく走るとすぐに見覚えのある巨木が見えてきたよ。
「あれ、先客がいる」
苦笑いした俺の言葉に、ハスフェル達も笑っている。
スライム達に草刈りしてもらって、河原のすぐ横のギリギリ安全地帯の草地に作っていた俺達のキャンプ用の場所には、ふた張りのテントが張られていたのだ。って事は、あれはテイマーのランドルさんとドワーフのバッカスさんだな。
「先を越されたな。まあ良い。じゃあ俺達はこっちで休むか」
笑ったハスフェルがそう言い、スライム達がまた少し離れた場所で大喜びで草を刈り始めた。
「美味しい〜!」
「ここの草はすっごく美味しいもんね〜!」
「美味しいよ〜!」
それを見たラパンとコニーまでもが飛び出して草を食べ始めたので、あっという間にさっきよりも大きな広場が出来上がってしまった。
「じゃあ、俺はまたここに張らせてもらうよ」
河原に一番近い場所を確保して、いつもの大型テントを張る。
あっという間にスライム達がテントを張ってくれるのを見ながら、夕食は何を作ろうか考えていた。
「ああ、申し訳ありません!」
俺たちが来たのに気付いたのか、テントから顔を出した二人が慌ててそう叫びながら転がるように俺達のところに走って来る。
「気にしなくて良いぞ。別に看板を立てていた訳で無し。早いもの勝ちだよ」
ハスフェルの言葉に、申し訳なさそうにもう一度謝られた。
だけど、そんな事よりも俺は、ランドルさんの肩に留まった大きな鳥に目が釘付けになっていた。
「ああ、もしかしてその子ってここでテイムしたんですか!」
俺の呼びかけに、ランドルさんは顔をくしゃくしゃにして泣きそうな顔で何度も頷き、駆け寄ってきて俺の右手を握った。
「ありがとう、あんたは俺の恩人だよ。言われた通りにやってみたら、驚くくらいに簡単にこいつをテイム出来たんだ。しかもこいつは必要なら巨大化出来て俺達を乗せてくれるらしい。夢みたいだよ。本当にありがとうございます!」
取った俺の右手を捧げるみたいにして額に当てるランドルさんに、俺も笑顔になる。
「そんなの気にしなくていいよ。テイム出来たのはランドルさんの実力なんだからさ。テイマー仲間が増えて俺も嬉しいって。頑張ってもっと集めて自分の紋章を入れないとな」
「ああ、確かにそうだな。じゃあせっかくだからもう少し頑張ってみるよ」
嬉しそうにそう言って、スライムと並んで仲良く肩に留まっている綺麗なピンク色の鳥を撫でた。
「こいつはカメレオンガラー、ひと目見て綺麗な羽色だったから絶対に欲しいと思ったんだよ」
その鳥は、確かに綺麗な色をしていた。
今は鳩くらいの大きさになっていて、体は鳩よりはやや細めで全体に濃いピンク色をしてる。翼部分と尾羽が灰色、頭の上側は白っぽくなってて、なんとも可愛らしい色合いだ。
ううん、いかにも女性っぽい色合いだけど、残念ながら連れているのはむさ苦しいおっさんだ。だけどあの笑顔。ランドルさんって、実は可愛いもの好き?
思わず凝視していた俺の視線に気付いたのか、ランドルさんは照れたようにちょっと赤くなった。
「別に構わないでしょう。誰に迷惑かけるわけで無し。むさ苦しいおっさんが、その……可愛いもの好きでも」
何だよこのおっさん、可愛いぞ、おい。
ちょっと違う扉を開けそうになって、思わず誤魔化すように笑って顔の前で手を振った。
「全然構わないよ。可愛いのも良いよな。ちなみに俺は、もふもふしたのが好きだぞ!」
そう言って、足元で草を食べていた真っ白なコニーを抱き上げて見せてやった。
ランドルさんがわかりやすく笑顔になる。
「撫でても良いですよ」
俺の言葉に、手袋を外したランドルさんが、恐る恐ると言った感じでコニーをそっと撫でた。
「おお、これは堪らん。最高ですね。ありがとうございます。ウサギもテイムする事にします」
真顔でそう言うランドルさんの言葉に、俺たちは顔を見合わせて同時に吹き出したのだった。
あのピンクの鳥って、確かモモイロインコだよな。ううん、あの色は確かに可愛い。俺もちょっと欲しいぞ。
だって、翼のある従魔ももう一羽くらい欲しいと思ってたんだよな。
よし、何処に出るのか教えてもらおう。
思いついてそれを聞こうとすると、ハスフェルからの念話で、俺が聞くからいいと言って止められた。
どうやらハスフェル達もモモイロインコの出現場所は気になっていたらしい。あの鳥の羽は、装飾用として高く売れるんだってさ。
って事で、俺が食事の準備をしている間に、ハスフェル達と何処で何が出るのか教え合う事になった。
聞くと彼らはもう食事が終わって今から休むところだったらしいので、酒のつまみになりそうなのをいくつか出しておいてやり、俺は夕食の準備をする事にした。
さて、何を出してやろうかね?