ハリモグラ退治と次の獲物
「そうだよな! やっぱりそうなるよな!」
顔を覆って叫んだ俺を見て、ハスフェルとギイが鼻で笑ってる。うう、へたれの俺をお前らと一緒にするなって。
あの背中にある、50センチはあろうかという太い針を見て割と本気でビビったのだが、ハスフェル達は平然としている。
彼らの後ろから恐る恐る覗くと、出て来た巨大なハリモグラは全部で五十匹ほど。しかしその動きは鈍く、のそのそと言った感じだ。
細長い鼻先を地面に当てながらのそりのそりと歩いてるだけで、こっちに向かって針を飛ばす事も、丸くなって吹っ飛んでくる事もなかった。
「あいつらの正式名称は、カメレオンエキドナ。通称ハリモグラ。何故そう呼ばれてるかは見りゃあ分かるよな。名前の通りに地面に穴を掘って潜る事が出来る。
笑ったギイの説明に、苦笑いして頷く。
「動きは鈍いが、あの針には気をつけろよ。攻撃するなら槍が良い」
恐らくそうだろうと思っていたので、収納しているミスリルの槍を取り出して構える。
「うかつに近づくとあの針にやられるからな。この辺りから槍で突いてやればいい」
そう言いながら、槍の穂先の反対側、石突と呼ばれる部分でハリモグラを軽く叩いた。
「うわあ、針山になった!」
刺激を感じたハリモグラが、体を丸くするように蹲って一気に背中の針を膨らませる。
身体に沿うみたいに横倒しに倒れていた長い針が、見事なまでに身体に対して垂直に膨らむ。
「ああなると、しばらく動かない。その隙に一気に胴体部分を突くといい。ああ、今回は従魔達は危険だから触るんじゃないぞ」
まん丸な巨大な針山になった針モグラを見て、珍しく思いっきりドン引きしている従魔達に俺達は揃って吹き出した。
「確かに、噛み付いたり叩いたりして攻撃するお前達じゃあれは無理だな。今回は構わないからそこで見ててくれよな。その分、ケンが働いてくれるとさ」
ハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも笑ってるし、俺も思わず笑いながらマックス達を振り返った。
「残念だけど、今回はお前らはお休みみたいだな。たまには俺が頑張るから、お前らそっちで休憩しててくれていいぞ」
槍を見せながらそう言うと、それぞれのリアクションで謝ってくれた。良いって、たまには俺も働くよ。
「私は大丈夫ですよ」
得意気に進み出たのは、巨大化したセルパンと、ファルコとプティラの飛行コンビだ。
「あ、そうなのか。大丈夫なら参加してくれても構わないけど、針には気をつけろよ」
そう言って、槍を構えた。
「先に行きますね!」
セルパンがそう言って前に出る。
「あ、おいおい大丈夫か?」
慌てて後ろをついて行くと、なんとセルパンはあの巨大なハリモグラを頭から丸ごと飲み込んだのだ。
「ええ? おい、ちょっと待てって! 飲み込んで大丈夫なのかよ!」
その瞬間、セルパンの口から長い針がボトボト落ちて来て、その後に巨大なジェムを吐き出した。
うわあ、これまた超シュールな光景……。
「飲み込んだんじゃなくて、噛み付いて毒針を突き刺してやったんです。これくらいの大きさならイチコロですよ」
おう、そうだったね。セルパンってあの大きさだけど毒蛇だったよ……。
衝撃の事実を思い出して固まってると、ファルコとプティラはそれぞれ巨大化して大きな鉤爪でハリモグラを引っ掛けて転がし、無防備な腹側を足で掴んだ。そのまま軽々と舞い上がる。そして俺達から少し離れた場所に、上空からハリモグラを落としたのだ。当然落下の衝撃でそのままジェムになって転がるハリモグラ。辺りには巨大な針がこれまたゴロゴロと転がってる。
「回収して来ま〜す」
それを見てスライム達が嬉しそうに跳ね飛んでいった。
「おう、皆すごいな。じゃあ俺も負けてられないぞっと」
そう言って、こっちに向かって近寄って来たハリモグラを軽く叩いた。丸まって動きが止まったところを教えてもらった通りにミスリルの槍で力一杯突き込む。
呆気なくジェムと素材になって転がったよ。
「ううん、ハリモグラはあんまり可愛くないなあ、じゃあテイムするのはハリネズミにするか」
小さくそう呟き、またこっちに向かって近寄って来た針モグラを叩いた。
「五面クリアー! もうそろそろ良いんじゃないか?」
足元に落ちた巨大な針を拾ってそういうと、槍を収めた三人も苦笑いして頷いた。
「そうだな。これだけあれば素材もかなり集まってるだろう。じゃあ次へ行くか」
確かに、一匹の落とす針の数はかなりあったと思うから今回だけでも相当数が集まってるだろう。
一段落したのに気づいて、岩陰で休憩していた従魔達が集まってくる。
「じゃあ次に行くんだってさ。だけど次もハリネズミらしいから、お前らはまたお休みかもな」
マックスの背中に乗りながらそう言うと、マックスは悔しそうに鼻で鳴いた。
「いつも大活躍なんだから、たまには休んでてくれて良いんだって」
慰めるつもりでそう言ったんだがどうやら逆効果だったらしく、尻尾をぶんぶんと振り回しながら嫌そうに身震いされた。
「ご主人、私達にだって出来ますって。さあ行きましょう! 次は一緒に戦いますよ!」
「いやいや、針はダメだって。万能薬は貴重なんだからさ」
慌ててそう言ったのだが、これもどうやら逆効果だった模様。
シリウスと二匹揃って元気良く遠吠えしたマックスは、勢いよく走り出した。
「うわあ、待て待て! お前どこへ行くのか分かってるのかよ〜!」
「当たり前です! あそこの茂みですよね!」
勢いよく茂みに突っ込む寸前で止まったマックスの背の上で、俺は手綱を握り締めたまま、息を切らせて硬直してたのだった。
「こ、怖かった〜。ハリネズミがいるって言う茂みに、このまま突っ込むのかと思ったぞ」
苦笑いしつつ、同じく隣に突っ込んできたシリウスに乗っているハスフェルを振り返る。彼も笑っている。
「全く血の気の多い奴らだ。だけどさすがにここも、従魔達には無理だと思うけどなあ」
ハスフェルの指差す方を見ると、さっきのハリモグラと変わらない大きさのハリネズミがあちこちをモゾモゾと歩き回っているのが見えて、絶句したよ。
「ううん、あの大きさはテイムするのは無理かな?」
仮に捕まえられたとしても、弱らせる方法がさっぱり分からない。諦めようかと思った時、マックスが勢いよく顔を上げて背に乗る俺を振り返った。
「ご主人、あれをテイムしたいんですか?」
「うん、そう思ってたんだけどさあ、さすがに弱らせるのは無理っぽいから、ちょっとどうしようか考えてたんだよな」
「それなら大丈夫よ! 私がやってあげる!」
いきなり横からニニがそう叫んで前に出る。
「ニニずるい! 私もやりたい!」
一瞬で巨大化したタロンが横に並ぶ。
「ずるい! 私達も参加するわよ〜!」
ソレイユを筆頭にサーバルとジャガーの猫族軍団が全員揃って巨大化して並ぶ。
「で、ご主人、どれにするの?」
猫族軍団全員からキラッキラの目で見つめられて、呆気に取られていた俺は、マックスの背から下りて動き回っている巨大ハリネズミ達を見た。
「ええと、せっかくだから亜種がいいよな」
「じゃあ、あれね! 行くわよ〜!」
いきなりニニがそう叫んで、その瞬間に猫族軍団が全員走って行った。
おいおい、お前らがボール遊びが大好きなのは知ってるけど。まさかとは思うけど、あんな針だらけの巨大なボールで遊ぼうって言うんじゃ……ないだろうな?