昼食と次の獲物
エアーズロックもどきから少し離れた俺達は、休むのに丁度良さそうな大きくて平らな岩の上に場所を決めて、少し遅くなった昼食を此処で食べる事にした。
頑張って戦って疲れているので、ここはしっかり食べておくべきだろう。
って事で、作り置きの肉系のサンドイッチを中心に取り出す。味噌カツサンド、ソースカツサンド、チキンカツサンド、BLTサンドにクラブハウスサンド、屋台で買った焼肉を挟んだバーガーとホットドッグも並べておく。もちろんシャムエル様用にタマゴサンドもね。
カットトマトとクリームチーズにハーブのバジルの葉を刻んで散らし、黒胡椒と岩塩、オリーブオイルで絡めたのも出しておく。初めて作ったけど切って混ぜるだけだから簡単。マギラス師匠直伝の一品だ。
適当にハーブとか買ってて、初めて役に立ったのは内緒だ。彩りも良くて綺麗なので、これも作り置きしておこう。
自分がコーヒーを飲みたかったので、ミルクや激ウマジュースと一緒にコーヒーの入ったピッチャーも並べて出しておく。
マイカップにミルクとコーヒーを入れてオーレにして、タマゴサンドとチキンカツサンド、ちょっと悩んでBLTサンドも取っておく。
「ええ、ジュースは飲まないの?」
激ウマジュースのピッチャーの横で、シャムエル様がものすごく残念そうにそう言うので、小さく笑ってハスフェルを振り返る。
グラスを借りようと思っていたんだが、振り返ったらもう差し出してくれていたよ。
「もう、そのグラスは進呈するからジュース用に一つ持ってるといい。まだいくつもあるから気にしなくていいぞ」
「いいのか。ありがとう」
受け取ったところで笑いながらそう言われてしまい、慌ててお礼を言った。
綺麗にカットされた切子のグラスに、激ウマジュースをたっぷりと注いでから座る。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」
蕎麦ちょこを振り回しながら景気よく跳ね回って味見ダンスを踊る毛玉。もう見慣れたけど、冷静に考えたらめちゃめちゃシュールな光景だよな。
ちょっと遠い目になりつつ、タマゴサンドの縁を落として玉子が入っている部分を丸ごと渡す。
それから嬉々として差し出された蕎麦ちょこに激ウマ混ぜジュースを入れたら、なんと半分以上入った。
あの蕎麦ちょこ絶対におかしい。見た目以上に入ってるぞ。ってか、これってもう絶対に味見ってレベルじゃないと思うんだけどなあ。
ほぼ空になった切子のグラスを見て、俺は乾いた笑いをこぼして、先にジュースのおかわりを入れて来た。
「でもまあ、神様のする事だもんな」
小さくそう呟いて座りながら、嬉しそうにタマゴサンドを齧るシャムエル様のもふもふの尻尾を突っついてやった。
タマゴサンドの残りのパンの耳にリンゴとぶどうのジャムをつけて食べてから、チキンカツサンドに齧り付いた。
半分ぐらい食べたところで視線を感じて振り返ると、もう空になったお皿をシャムエル様が差し出している。
「はいはい、これも食うんだな」
笑って真ん中のチキンの部分を少し切って渡してやる。
「こっちは? BLTサンドもあるぞ」
「じゃあ、それもちょっとだけください!」
嬉しそうにまたお皿を差し出すので、真ん中のところを小さく切って乗せてやる。
「はいどうぞ。あ、オーレはいいのか?」
一口飲んでシャムエル様を振り返ると、早くも激ウマジュースを飲み終えたシャムエル様が、空になった蕎麦ちょこを差し出した。
「ここに入れてください!」
「了解、あ、これならこぼさずに入れられるな」
蕎麦ちょこの口の部分は広いので、盃と違ってマイカップからそのまま注ぐ事が出来た。
うん、オーレもおかわり決定だな。
嬉しそうにBLTサンドを食べるシャムエル様を見ながら、俺も残りのカツサンドとBLTサンドを平らげたのだった。
食事を終えて、少し休憩したら、早々に片付けて出発する。
「で、次はどこに行くんだ?」
「ハリモグラが出るらしい。素材の大針もバイゼンヘ持っていってやれば喜ばれるからな。せっかくだから集めて行くぞ」
「ハリモグラ? ハリネズミの親戚か?」
「まあ似たようなもんだ。え、何。ここは両方出るのか。そりゃあ良い。ぜひ頑張って集めるとしよう」
シャムエル様に何やら耳打ちされて、ハスフェル達は喜んでる。
「ハリネズミはわかるけど、ハリモグラ? あ、あれか、オーストラリアにいるハリネズミみたいなやつ。確か生物学的には全然違う種類のはずだけど、ここでは一緒にされてるんだ。へえ、面白い」
記憶を辿ってやっと思い出してそう呟いた。
ハリモグラって、確かオーストラリアの固有種だったはず。ハリネズミはヨーロッパとかアフリカとかにいる、ペットにもなってたあれだよな。へえ、ハリネズミならテイムしたいぞ。
久しぶりに、テイムする気になった俺は、ちょっとやる気になってハスフェル達の後をついて行ったのだった。
「まず、この辺りにハリモグラが出るらしい。さて、どこにいるかな?」
どんな場所なのか俺も見ようとして、前に出かけて慌てて止まる。うん、用心用心。
針って名前がついてるんだから、当然背中には針の山があるはず。どんなジェムモンスターなのかは、まずは遠くから確認しよう。うっかり近寄って針にぶっ刺されて大量出血とか、絶対洒落にならないからな。
って事で少し離れたところから見ていると、苦笑いしたハスフェルが振り返って手招きしてくれた。
「よしよし、少しは用心する事を覚えたな。ハリモグラはこの裂け目から出てくるみたいだな。それでハリネズミは、この少し先にある茂みに出るみたいだから、ここの後で行こう。そろそろ出るみたいだから、ここはお前も頑張って戦え。扱い方さえ間違えなければ大丈夫だぞ」
にんまり笑ってそう言われても、不安しか無いって。
俺が知ってるハリモグラは。背中側が鋭い針で覆われたまさしく針山状態。確か大きさは30センチくらいのはずだけど……。
「そうだよな! やっぱりこうなるよな!」
岩の裂け目からのそのそと出て来たそれを見た俺は、顔を覆って思いっきり叫んだ。
だって、どう見ても大型犬サイズの巨大ハリモグラが出て来たんだから、叫んだ俺は悪くないよな!