貴重なジェムモンスター達
ジェムの評価に関する文章の一部が下書きのままになってました。作者のミスです、申し訳ありません。
訂正致しました。
「ケン、動くなよ」
突然、真顔のハスフェルにそう言われて、俺は固まる。
「ど、どうしてか……聞いて良い?」
小さな声でそう尋ねると、ハスフェルは黙ってバオバブの木を指差した。
「あそこから降りてきたデカいヘラクレスオオカブトが、こっちへ向かって来てるんだよな。しかも、またしても誰かさん目掛けて」
平然としたその言葉に、予想が的中した俺は泣きそうになった。
「お、お願いしますからお助けくださ〜い!」
頭上で手を合わせて半泣きで叫ぶ俺を見て、にんまりと笑ったハスフェルが剣を抜く。
「頼まれたらやらない訳には行かないよな!」
そう言って、いきなり予備動作も無しにもの凄い勢いで一気に飛び上がった。そのまま俺の頭上を軽々と飛び越えて着地する。
慌てて振り返った俺が見たのは、これまた巨大なヘラクレスオオカブトの上に飛び乗って背中に剣を突き立てるハスフェルの姿だった。
「うわあ……あそこまで近づかれていて全く気付かない俺って、どうよ」
巨大な角とジェムが転がるのを見て呟くと、全員揃って吹き出したし。気付いてたんなら、頼むから教えてくれよな!
「ほら、これもなかなかの素材だぞ」
渡された巨大な角は、最大クラスでは無いが確かに相当の大きさだ。
「おお、これは見事だな」
俺の手元を覗き込んだオンハルトの爺さんが、嬉しそうに手を伸ばしてその角を撫でてくれた。
「じゃあ、交代して順番に狩るとしよう」
ハスフェルが木の前に立つのを見て、俺は慌てて横に回って身構えた。
しばらく無言で待っていると、丸い木の幹にこれまた巨大なヘラクレスオオカブトが現れて、ハスフェルに向かってゆっくりと降りて来た。
頷き合って、俺はゆっくりと動いてその場から離れる。そのままヘラクレスオオカブトの背後に回り、ミスリルの槍を取り出して一気に突き刺すように飛びかかる。目指すは前羽の合わせ目部分の小さな隙間だ。
突き出したミスリルの槍が前羽の隙間に見事に吸い込まれて、直後に巨大なジェムと、これまた大きな角が落ちる。
「うわあ、今回はどれもデカいなあ」
感心したようにそう呟き、槍を収納してから拾ったジェムと角をハスフェルに渡す。ジェムと素材は、正面にいた囮役に権利があるからな。
「おう、ありがとうよ。これまたなかなかの良物だな」
嬉しそうにそう言って受け取ると、一瞬で収納してしまった。
その後はギイとオンハルトの爺さんも参加して、交代しながらひたすらヘラクレスオオカブトを狩り続けた。
「そろそろ一面クリアーかな?」
俺がとどめをさしてハスフェルにジェムと素材を渡した後、ギイと交代して後しばらく待っていたがもう出る様子がない。
「みたいだな。ヘラクレスオオカブトは一日に出る数が決まってるから、もう今日は終わりだな。じゃあ移動しよう」
「ここはもう、他には何か出ないのか?」
マックスに乗りながらバオバブの木を振り返る。
「シャムエルによると、ここはヘラクレスオオカブト専用らしい。出る木の数は多いが一日に出現する数そのものは決まっている。ここは本当に貴重な場所だよ」
その説明に、アクアの中にあるヘラクレスオオカブトのジェムと素材の数を思い出してちょっと遠い目になったよ。今回は従魔達も集めてくれてるもんな。
そんなレアな素材やジェムを、当たり前のようにガンガン集めててごめんよ。
「ヘラクレスオオカブトって、そんなに珍しいのか?」
満足そうに戻って来た従魔達やベリー達と合流して、マックスに駆け寄りながら疑問に思って質問する。
「当然だろうが。ヘラクレスオオカブトはここ以外だと、バイゼンに近い飛び地、それから樹海にある飛び地の三箇所でしか出現が確認されていない。つまり、ここが三つ目の出現確定地だって事さ」
「飛び地特有のカメレオンカラーでなければ、ビートルやスタッグビートル、センティピート辺りのカラーシリーズは地上でも出現例があるので、そこまで貴重と言う訳では無い。いまのところ、飛び地でしか出現が確認されていないのは、このヘラクレスオオカブトだけだな」
ハスフェルに続いてギイが説明してくれる内容に、俺はひたすら感心して頷く。そりゃあ、はぐれのジェムモンスターに遭遇する確率なんて流れ星に当たるくらいの確率だろうから、その素材を持ってるって言ったらそりゃ驚かれるか。
「地下洞窟にしか出ない恐竜のジェムも貴重なジェムや素材だから、どこの街でも一個からでも喜ばれる。貴重さの度合いで言えば、地上に普通に出るジェムモンスターが第一段階。地上でも高地や森の深部、あるいは離島など行くのが困難な地にしか出ない珍しいジェムモンスターが第二段階。それらの亜種が第三段階、地下洞窟に出る恐竜が第四、あるいは第五段階。そしてヘラクレスオオカブトが唯一の第六段階の評価だよ。これはジェムや素材を買い取る際の、共通の基本的な評価基準になっている」
「恐竜だけ二段階あるのはどうしてだ?」
「未発見の恐竜のジェムや素材。それからある程度以上の種の亜種は第五段階評価になる事が多いな」
「成る程、つまりトライロバイトなんかは、それほど珍しく無いから亜種でも第四段階評価?」
「そうだ。確か肉食系の亜種はほぼ第五段階評価のはずだ。ああ、ティラノサウルスは確か第六段階扱いの筈だが、あれはほぼ市場に出ないからなあ」
「へえ、確かにそうだよな」
「まあ、実際の価格評価は相場にも左右されるから、時期や場所によって違いがあるのは当然だけどな」
「色々あるんだな。勉強になるよ」
感心したように呟き、マックスの背に乗った俺はハスフェル達の後について行った。
しばらく走って大きな林を抜けて到着したのは、短い草が所々に生えているだけの、乾燥した砂地が広がるだだっ広い平原だった。
真ん中あたりに、不自然に巨大な一枚岩がドーンと鎮座している。
どこかで見た景色だと思って考えて気がついた。これはあれだ。オーストラリアにある世界最大の一枚岩。エアーズロックにそっくりだ。
「次の目的地はあそこだよ。これも貴重なジェムモンスターだから、是非とも狩っておきたい。しかも、シャムエルの話によると、ここは他にもかなり色々出るらしいから、しばらくあそこで集めるぞ」
嬉々としたハスフェルの言葉に若干嫌な予感がしたが、当然のように全員がエアーズロックもどきに向かって嬉々として全力で走り出したのを見て、俺は全てを諦めた。
「まずいと思ったら、俺はまた離れた所で料理をしよう。うん、そうしよう」