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二人の冒険者

 唐突に目が覚めたのは、このせいだったのか。

 外に誰かいるなんて言われて、俺はちょっと本気でビビった。

 だって、こんな所まで来るって事は、少なくともそれなりの腕の冒険者って事で、そんな奴が、もしもこっちを目障りだと思って攻撃してきたら。

 うう……そんな事になったら俺は逃げるよ。絶対逃げる。



 だけど、この状況で逃げられるか?

 逃してくれるとも思えない。

 だけど、人と武器を持って戦うなんて、俺には無理だって。

 もし、追ってこられたりしたらどうしたらいいんだろう。マックスの脚なら逃げ切ってくれるよな?

 ニニの腹毛に埋もれながら、俺は頭の中で最悪の状況ばかりを考えて本気で泣きそうになっていた。

 へたれの極みだけどそんな事を考えて本気でビビっていると、小さいがテントの外から声が聞こえてきた。



「なあ、あれってやっぱりハンプールの英雄か?」

「絶対そうだよ。ブラックラプトルをテイム出来る奴なんてそう何人もいてたまるかよ。うわあ、やっぱりすげえな。格好良い。なあ、もうちょっと近づいても大丈夫かな?」

「だよな。格好良いよな。うわあ、近くで見たらデカいな」

「しかも、新しい従魔が増えてるじゃねえか。あれってエルクだよな?」



 外にいるのはどうやら男性二人みたいで、声を潜めて話してるけどめっちゃ興奮してるのが分かる。俺の耳には全部聞こえてるよ。

『おやおや、ご指名みたいだからちょっと行ってくる』

 笑ったギイの声が念話で届き、その直後にギイの声がした。

「おいおい、あまりそいつに近づくなよ。噛みつかれても俺は知らんぞ」

 テントから顔を出したギイが、侵入者達に向かっていたってのんびりと声を掛けたのだ。



「うわっ!」



 二人揃ってなんとも情けない悲鳴を上げて飛び上がった後、慌てて謝る声が聞こえて、俺は心底安堵した。

「ああ、お休みのところお邪魔しました」

「お邪魔しました!」

「申し訳ありませんでした〜!」


 最後は二人で声を揃えて謝ってる。どうやら危険な冒険者ではないみたいだ。

 大丈夫そうだと見て俺がゆっくりと起き上がると、マックスとニニも起き上がって大きく伸びをした。

『もう大丈夫だ。出て良いぞ』

 ギイの笑った念話が届き、大きなため息を吐いた俺は態とらしく欠伸なんかしながらテントから顔を出した。

「おはよう。なんの騒ぎだ?」

 当然のように、一緒にマックスがテントの隙間から顔を覗かせる。



「うわあ、あれが一位を取ったヘルハウンドの亜種だよな」

「だよな、うわあデカい」



 そこにいたのは、人間とドワーフの二人組だった。

 どちらも明らかに冒険者だと分かる装備で、しかもかなり良い装備をしている。

「そっか、あんた達があのイバラを切り倒してくれたんだな」

「感謝するよ。おかげで中まで入れた」

 二人揃って開いた右手を挙げているのは、攻撃する気は無いって意思表示なんだろう。しかし、俺は返事をするのも忘れてその人間の男性に目が釘付けになっていた。



 背の高い、いかにも冒険者って感じのむさ苦しい男性だったのだが、装備している鋲を打った豪華な胸当ての左の肩当ての上には、何と一匹のスライムがちょこんと乗っかっていたのだ。しかも、そのスライムの見えるところに紋章は無い。

「もしかして、テイマー?」

 少なくとも、そのスライム以外は辺りにそれらしき従魔はいないので、一応そう話しかけてみた。魔獣使いだったら謝らないとな。

 すると、多分俺より年上の年齢らしきその男性は、俺の言葉に照れたように笑って頷いた。

「ああ、はじめまして魔獣使い。テイマーのランドルだ」

 そう言って右手を差し出してくれた。

「魔獣使いのケンです。よろしく」

「知ってるよ、ハンプールの英雄」

 笑顔で握手を交わしたけど、ランドルさんはカチカチのタコだらけの硬い手をしていた。

「バッカスだよ。よろしくな。魔獣使いの兄さん」

 ドワーフの彼も、同じくカチカチのタコだらけの手をしてる。うん、これは二人とも歴戦の冒険者だね。



「実を言うと俺はもう十年以上冒険者をやってるが、冒険者一年目に偶然こいつをテイムしたっきりでね。テイマーと名乗るのも恥ずかしくて、ギルドに登録はしてるけど普段は鞄の中にいてもらってるんだ。だけどここなら人目が無いから、今は自由にさせているんだよ」

 恥ずかしそうにそう言って、肩にいるスライムを指先で突っつく。スライムも嬉しそうにぷるんと揺れて、指先に擦り寄るような仕草さえ見せた。

「へえ、懐いてるじゃないか」

「ああ、可愛いよ。だけど、今となってはこいつをどうやってテイムしたのかさえも覚えてないんだ。何度か捕まえてみようとしたんだけど、全然ダメでな。もう別に良いかと思って最近はあまり考えないようにしてるんだ」

 彼の左肩の肩当ての上に乗っかっているソフトボールサイズのスライムは、無色透明でアクアと同じ色だ。

「その子の名前は?」

 左肩のスライムを見ながら尋ねると、彼は唐突になぜか赤くなった。

「わ、笑うなよ」

 目を瞬いた俺は、何も考えずに頷く。

 それを見たランドルさんは、渋々と言った感じで口を開いた。



「キャンディ」



 俺は、とっさに腹筋に力を込めて笑うのを我慢した。そのむさ苦しい男の連れてるスライムの名前が、キャンディ。いや、別に良いんだけど、確かにちょっとびっくりはした。

 せっかく俺が笑うのを我慢したのに、隣にいたギイが吹き出してせっかくの気遣いをぶち壊してくれた。

「し、失礼した。これまた可愛らしい名前だな」

 誤魔化すように、ギイがそう言ってランドルさんを見る。

「だろう? 実は俺もよく覚えてないんだが、多分、初めてこいつを見たときに甘そうに見えたんだよ」

 ああ、成る程。俺は水信玄餅だと思ったけど、彼はスライムが飴に見えたわけか。

 こっちで売ってる飴って、いわゆるべっこう飴みたいなのか、氷砂糖みたいに透明なのしか見た事がない。もしかしたら子供向けの店とかには色付きも有るのかもしれないけど、まあ無色透明のスライムを見て飴だと思うのは間違ってないと思う。

「良いじゃないか。ぴったりの名前だよ」

 そう言ってやると、わかり易く笑顔になった。



「へえ、十年以上前からテイマーって、これまた凄い人が来たね」

 突然、俺の右肩にシャムエル様が現れて、感心したようにそんな事を言い出した。

「だけど、スライム一匹だけなんだってさ。どうしてだ?」

 短い腕を組んだシャムエル様は、しばらく考えて首を傾げた。

「ケン程の強い力は感じないけど、スライム一匹って事は無いと思うなあ。充分魔獣使いになれるくらいの力を感じるよ。多分だけど弱らせ方が足りなかったんじゃない?」

「あ、やっぱりそうなんだ。じゃあ……」

『なあ、この二人ってどうするべきだ?』

 念話で三人に話しかける。

『好きにさせれば良い。ここへ来る事が出来る程の腕の冒険者なら、大丈夫だろうさ』



 あ、一緒に行動するとかってのは無いんだ。



 何となく残念だったが、確かにその通りだろう。

「じゃあ頑張って沢山ジェムや素材を集めてくれよな。ここは凄いのが色々出るよ。あ、魔獣使いからのアドバイスを一つ」

 手を振って立ち去ろうとするので、慌てて声を掛けた。

「テイムする時って、一旦戦って、ある程度動けなくなるくらいまで弱らせるか動きを封じ込まないと駄目なんだよ。その上で確保した状態で自分の仲間になるように言ってみると良い。きっと出来るよ」

 目を瞬いたランドルさんは、泣きそうな顔で大きく頷いた。

「何だ、そんな簡単な事で良かったのか。ありがとうケンさん。早速やってみるよ」

 嬉しそうにそう言うと、ギイを振り返った。

「おやすみのところを邪魔したな。それじゃあ俺たちは先に行かせてもらうよ」

 笑顔でそう言うと、そのまま草を踏み分けてあの巨木に向かって行った。

「飛び地で会ったにしては、あり得ないくらいに友好的な奴らだったな」

 テントから出てきたハスフェルが、苦笑いしながら彼らが向かった巨木を見ている。



「じゃあ、俺達も食ったら奥へ進もう。今日は奥地で休んでも良いと思ってたからな」

 ハスフェルの言葉に、俺も頷いて朝食の準備をするためにテントへ戻る。

「テイマー仲間が、もっと増えてくれると良いのにな」

 シャムエル様に笑ってそう言い、俺はふかふかの尻尾を突っついたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まともな冒険者で良かったですね。(*´ω`*)           ケンが初めて会ったテイマーのランドルさん、可愛いスライムを肩にちょこんと乗せて(笑)ちゃんと可愛がっているみたいなのでケン…
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