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果物の山

 ひとまずヒスター村までブライアン村長と一緒に戻った俺は、ちょうど帰って来たマックスと村を出たところで合流して、日が暮れる前に街へ戻った。

 どう見ても白猫にしか見えないケット・シーは、ニニの背中に乗せてもらって伏せて小さくなっている。

 落ちないかと心配したが、アクアとサクラが支えているから大丈夫なんだってさ。よしよし、皆仲が良くて良い事だね。


 街の近くまで来て街道に入ってすぐに、端を一列になって歩いていると、あのロリエ親子と再会した。

 猫好きな息子さんは、俺たちに気付くなり、いきなり声を上げてニニの胸元に飛びついて来た。

 だけど、今度はニニも平気で受け止めてご機嫌だ。

「おっきい猫さん、大好き!」

 もふもふのニニの胸毛に埋もれてご満悦だ。

「さっきまで、アルブルの村に行っていたんですよ」

 俺の言葉に、ニニを撫でていた母親が驚いたようにマックスに乗った俺を見上げる。

「ヒスター村とリーワース村の合同で、冒険者ギルドに調査の依頼をもらったんです。それで、俺達が行っていたんですよ」

「ああ、シェルさんがそんな事を言っていましたね。あの、何でも果樹園が荒らされたとかで、盗賊団がいるんじゃ無いかって話だったんですけれど……」

 おお、そんな話になっていたんだ。

 事情が分かった今となっては笑い話だが、原因が分からなければ、まあそうなるか。

「ご心配無く。原因が判明して排除しましたので、もう大丈夫ですよ」

 その言葉に、母親は嬉しそうに笑った。

「まあそうだったんですね。ありがとうございます。さあ、早く帰らないと日が暮れてしまうわ」

 子供の背中を叩くと、二人は満面の笑みで手を振ってくれた。

「またねー、おじちゃん」

 去って行く親子の姿を見送りながら、子供の言葉に密かに打ちのめされてました。


 おじちゃんって言われちゃったよ……。

 まあ、あの少年から見たら、確かに父親世代だけどさあ……地味にダメージ大きいんですけど!



 またしても日が暮れるギリギリで街へ滑り込んだ俺は、まずギルドへ顔を出して後二泊延長する事を伝えた。

 窓口で延長を頼んで二泊分の金を払おうとしたら、一泊分で良いと言われて半分返された。

「ええ? どうしてですか?」

 一泊分の金を巾着に戻しながら尋ねると、昨日の外泊は前回と違ってギルドの依頼で行っていたので、宿泊所に戻れなかった分、追加で一泊させてくれるらしい。

 なにそれ、めっちゃ良心的じゃん。ホワイトギルドと密かに呼ぶ事にした。


 そして、宿泊所へ戻ろうとすると、奥から慌てた爺さん改めギルドマスターが出て来た。

「待っておったぞ。宿泊所の横にある倉庫に、大量の果物が届いてるから、持てるだけありったけ持って行ってくれよな。それから、お前さん宛の荷物も届いてたから一緒に置いてあるから確認して片付けといてくれ。明日も追加の果物を届けてくれるそうだから、もし多いようなら、止めるから言ってくれよな。これが倉庫の鍵だ。あの方は倉庫におられるよ」

 最後の一言は、小さな声で俺だけに聞こえるように言って、鍵を渡してくれた。

 おお、さすがにギルドマスターは仕事が早いね。

「了解です、確認しておきます」

 手を上げて応えると、今度こそギルドを後にした。


 そのまま、宿泊所の横にある大きな倉庫へ行くと、渡された鍵を使って大きな扉を開いた。

 中は、煌々と幾つものランタンの明かりが灯されていて、とても明るい。

 全員入ったのを確認してきっちりと扉を閉めると、扉の前にマックスが扉を塞ぐようにして座ってくれた。

「ありがとうな。それなら、もし誰か来ても大丈夫だな」

 もしも外から扉を開けられても、そいつが見るのはでかいマックスの背中だけって訳だ。

 目を細めて犬みたいに鳴いたマックスに笑って手を振り、倉庫を見回した。

 奥の壁に揺らぎが見える。

「ただいま。すごいなこれ。本当にありったけ持ってきてくれたんじゃないか?」

 積み上がる幾つもの箱の山を見て、思わず吹き出した。

「おかえりなさい。ええ、おかげでかなり回復しましたよ」

 揺らぎがかき消えて、隠れていたベリーが姿をあらわす。


 驚いた事に、小学生ぐらいだったベリーは、青年と呼べるくらいになっていたよ。

 今日一日、腹一杯果物を食べたお陰で、かなり回復したみたいだ。

「元の姿ってどんな感じなんだ? ギルドマスターより爺さんだったりするのか?」

 髭もじゃの爺さんだったりすると、それはそれで悲しいな。なんて考えていたら、肩に現れたシャムエル様にまたしても冷たい目で見られた。


 おい、ちょっと待て。俺が何考えてるのか分かるのかよ。


「賢者の精霊相手に、失礼な事考えてるんじゃないよ。全く」

 呆れたようにそう言うと、積み上がった果物の箱を見上げて笑っている。

「またずいぶんと張り切ってくれたんだね。でも有難いよ、これだけあれば、恐らく元に戻れるね」

「それは良かった。じゃあ、まずは順番に洗ってサクラに飲み込んでもらうか」

 腕まくりをした俺は、箱を一つ降ろして壁際に作られた水場へ運んだ。リンゴがぎっしり入った箱は、はっきり言ってかなり重い。

「ええと……これ全部洗ってたら、二日あっても終わらないぞ」

 我に返ってベリーを見ると、彼は笑って首を振った。

「幾つか確認しましたが、このままで大丈夫ですよ。もしも気になるようなら食べる時に洗います」

「そうだな。じゃあそうさせてもらおう。ええと、この木箱って返さなきゃいけないのかな? 箱ごともらえるなら、それが一番なんだけどなあ」

 思わず呟いて考えていると、ベリーが俺の背中を叩いて教えてくれた。

「ああ、箱はどちらでも構わないと言っていましたよ。もしも要らないなら、空にして置いておけば撤収してくれるそうです」

 サクラに聞くと、箱ごと入れても必要なだけ取り出してくれるらしい。

 おお、スライムの収納能力、いつもながら優秀過ぎるよ。

 って事で、中身を確認しながら、順番に列ごとに飲み込んでいってもらった。

 お茶の缶も順番に渡し、食器と籠は水で綺麗に洗ってから飲み込んでもらった。

 驚いた事に、あれだけ有った果物の山が、綺麗さっぱり無くなったよ。


「一応確認するけど、まだ大丈夫だよな?」

「余裕だよ、って言うか収納は無限大なんだからね」

 サクラに聞いたつもりだったけど、答えてくれたのは肩の上にいたシャムエル様だった。

「あはは、そう言ってたな。じゃあ、鍵を返して部屋へ戻ろう。腹が減ってきたよ」

 倉庫を出ようとして、ふと思い付いた。

「なあベリー、お前の郷って何処にあるんだ?」

 鞄から地図を取り出して尋ねると、側に来たベリーが地図を覗き込んで驚いて俺を見つめた。

 あ、これって、あの詳しい地図が見えてるんだな。

 シャムエル様を見ると、ドヤ顔で頷かれたのでちょっと吹き出したよ。

「シャムエル様からの特別仕様の地図なんだ。気にしないでくれ。それで郷の場所が何処か分かるか?」

 改めて覗き込んだベリーは。あの等高線が真っ黒に入った、西側の最果ての山の奥を指差した。


「おいおい、そんな所までどうやって行くんだよ」

 思わず呆れたように呟くと、ベリーは小さく笑って真っ黒の山の手前辺りを指差した。

「ここまで行ってくだされば、郷へ入る方法があるんです。詳しくは申し上げられませんが、ここまでお願いします」

 多分、隠し通路か何かがあるんだろう。じゃあ目的地はそこか。

 正直言ってかなり遠い、まっすぐ向かっても、恐らく数ヶ月単位でかかるだろう。

「急ぐ訳ではありませんから、どうかあまり気になさらず貴方の好きに進んでください。せっかく安定した外の世界へ出たのですから、私も色々と見てみたいです」

「良いのか?」

 一応、肩にいるシャムエル様に聞いてみる。

「君達と一緒なら問題無いよ。彼らにも、回復した世界を確認してもらう事は必要だからね」

「まあ、その辺はさっぱりわからないからお任せするよ。それじゃあ、当初の予定通りに、まずはヘラクレスオオカブトの角で剣を作ってもらう為に、ドワーフの工房都市を目指すってので良いか?」

 それなら、街道沿いに移動すれば、他の街へも立ち寄れるだろうから、もしも果物が無くなっても追加で購入出来るだろう。道中、ジェムモンスターを狩りながら行けば、購入資金だって手に入るだろうからな。

 よし、当初の目的が決まったところで、今度こそ宿泊所へ戻って俺の食事にしよう。


 倉庫に鍵をして、ギルドへ戻って受付で鍵を返す。

「どうだ。足りたか?」

 ギルドマスターが出て来てくれた。

「ええと、箱ごと全部頂きましたけど」

「じゃあまだ大丈夫だな。明日も運んでもらうように頼んでおこう」

 受付嬢から鍵を受け取り、満面の笑みになった。

「遠慮せずに持って行ってくれよな。今日一日だけで、どれほど勉強になった事か。良ければ明日もお願いしたいんだが、どうだ?」

「ええと……」

 ちらりと振り返ると、揺らぎは大きく頷いた。

「ああ、良いみたいですね」

 俺がそう言うと、ギルドマスターは嬉しそうに笑って一礼すると奥へ戻って行った。


「それじゃあ失礼しますね」

 奥で手を振る爺さん達に手を振り返して、とにかく宿泊所へ戻った。


 なんだか疲れた一日だったよな。

 新たに仲間になったケット・シーを紹介しようとして、気が付いた。あ、そう言えばケット・シーの名前を聞いてなかったや。

「なあ、お前さん。名前は?」

「はい、申し遅れました。タロンと申します」

 ニニの背中から飛び降りた白猫は、綺麗に前足を揃えて座り、可愛い声でそう名乗った。

「おお、ケット・シーではありませんか。出かける時にはいませんでしたよね。いつから仲間に?」

 驚くベリーに、今日の出来事を話してやる。マックスも驚いたように一緒に聞いていた。

 ごめん、紹介するのをすっかり忘れていたよ。


 とにかく装備を脱いで身軽になって、簡単に肉を焼いて野菜とパンと一緒に夕食にした。

 あと二日、もうちょっと料理や飲み物の仕込みをして、ジェムももう少し売っておくか。

 明日の段取りを考えながら手早く後片付けをして、ベッドで早くも寝ているニニの腹に潜り込んだ。

 横にマックスが、背中に巨大化したラパンがくっ付き、更に胸元に白猫のタロンが潜り込んで来た。ベリーはニニの背中にくっ付いている。

 更にパワーアップしたもふもふパラダイス空間に埋もれて、疲れていた俺はあっという間に熟睡したのだった。

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