豪華な夕食!
「じゃあ、まずはここにテントを立ててくれるか」
一応、安全なはずの河原側に俺のテントを張り、飛び地側に俺のテントを取り囲むように三人がテントを張ってくれる。
と言っても、俺は最初の柱の位置を決めて立てて持ってるだけ。それを中心に、スライム達があっという間にテントを張ってくれる。
相変わらず、見事なもんだね。
「じゃあここに机と椅子を出してっと」
サクラが来てくれたのでいつもの机と椅子を取り出し、調理器具も一通り出してもらう。
「じゃあ今日は、グラスランドブラウンブルの肉を焼くぞ!」
外からまた三人の喜ぶ声が聞こえる。
「これ、薄くスライスしてくれるか。で、残りはすりおろしておいてくれ。こっちは後で使うからな」
「はあい、じゃあまずは薄切りね」
アクアがニンニクをぺろっと飲み込んで、しばらくすると用意しておいたお皿にスライスしたニンニクをまとめて吐き出してくれた。
「おお、良い感じだ。じゃあすり下ろしたのは、ここに入れておいてくれるか」
小鉢を渡しておき、他の材料もレシピを見ながら確認してアクアとサクラに下準備をしてもらう。
取り出したのはニンニクだ。今回は、一番最初にマギラスさんからちょっと変わったステーキソースのレシピを教えてもらっていたのがあったので、それを作ってみるつもりだ。以前作ってみようとしたら材料が足りなかったんだよな。
なので、まずはステーキ用のソースの準備をする。
「何々、みじん切りの玉ねぎ、あ、これはちょっとでいいんだな」
もらったレシピの紙には一応数字が書いてあり、30Bて書いてあれば30グラムって意味だ。ここではグラムの代わりの単位がベルツなんだよな。それ以外は計量スプーンみたいなのがあって、ほとんどそれでレシピが書かれている。
まあ、俺的には細かくグラムを測るなんて大変だからやってない。マギラスさんも、俺が旅先で料理が出来るようにと、全てグラム数と計量スプーンで何杯。みたいな書き方を併記してくれてる。
うう、気配りまで完璧だよ。マギラス師匠!
サクラが山盛り出してくれた玉ねぎのみじん切りが入ったお椀から、ちょっとだけすくって取り、後は一旦戻してもらう。
「ええと、ヨーグルトとオイル、これはエクストラバージンオリーブオイルでいいな。それから、後はおろしニンニクと粒マスタード、最後が塩胡椒っと」
ボウルに材料を計って順番に入れて、まとめて泡立て器でしっかり混ぜれば完成だ。
「お、ヨーグルトの風味が爽やかだけど、ニンニクと玉ねぎがしっかり主張してていい感じだな。よしよし、今度これも作り置きしておこう。ちょっと変わってて良いぞ」
少しだけ味見をしてみて、案外美味しくてびっくりした。
「まあ師匠が教えてくれるレシピだもんな。ハズレなんて無いって」
小さく笑ってそう呟き、、ちょっと考えてガラスの器に作ったステーキソースをまとめて入れておく事にした。見た目も白だから、爽やかでいいよな。
大きめのスプーンを突っ込んでおけば、各自取ってくれるだろう。
「じゃあ、これを分厚いのを三枚と、普通のを一枚切ってくれるか」
ステーキソースの準備が出来たので、次は肉だ。
机の上の取り出したグラスランドブラウンブルの塊を指差して言うと、アクアがサクッと切ってくれた。
「ありがとうな」
プルンプルンのアクアを撫でてから、切った肉を軽く叩いて筋を切って、しっかり肉用の配合スパイスを振る。
いつもの大きなフライパンにバターをたっぷり入れて火にかける。今は弱火だけど、もちろん肉焼き用の強火コンロだ。
「ここに、まずはニンニクスライスを焼くぞ」
そう言ってスライスしたニンニクをフライパンに入れる。軽く揺すりながら箸でバラバラにする。
一気にニンニクの良い香りが立ち上がる。
「うわあ、めっちゃ良い匂い。今なら人目を気にせず食えるもんな」
にんまりと笑いながらそう呟き、カリカリになるまでまずはニンニクを焼いていく。
題して、皆で臭けりゃ怖くない作戦だ。
カリカリに焼けたら小皿に取り、そのままのフライパンで肉を焼く。当然、ここからは強火だ。
俺が肉を焼いてる間にレインボースライム達が、机の上にお皿を出したり取り出してあったサラダや温野菜の入った皿を並べたりしてくれてる。これは各自好きに取ってもらう分。
「サクラ、パンも適当に出してやってくれるか。俺はご飯が食べたい」
「はあい、じゃあここに出しておくね」
机の端に、炊きたてご飯の入ったおひつと、適当に盛り合わせたパンが入った籠を並べてくれる。
「オーブンも出しておくね」
すっかりパン焼き器と化している、簡易オーブンを見てちょっと考える。
「確か、簡単な焼き菓子のレシピも教えてもらってたな。だけど焼いたら食べるかな?」
「食べる食べる! 私は食べるよ!」
いきなり右肩にシャムエル様が現れて、俺の頬をバシバシと叩いて叫んでいる。
「分かった分かった。じゃ今度焼いてやるから落ち着けって」
笑いながら、トングで分厚い肉をつかんでひっくり返す。
「おお、いい感じに焦げ目が付いてきた」
焼ける肉を見て既に大興奮しているシャムエル様の尻尾は、さっきから振り回されていて俺の首筋に連打されております。
いいぞもっとやれ。
「おお、良い匂いだな」
テントに入ってきたハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも笑顔で頷いてる。
「じゃあ先にパンを焼くか」
そう言ってハスフェルがパンを山盛りにしたカゴに手を伸ばした。
予想通り、ハスフェルとギイはパン、オンハルトの爺さんは自分でおひつからご飯を山盛りによそっている。
「へえ、これはなんだ?」
ギイが、目敏く新しいステーキソースを見つけて覗き込んでいる。
「マギラス師匠に教えて貰ってたステーキソースだよ。ヨーグルトとニンニクと玉ねぎベース。味見してみたけど俺は美味しかったよ。まあ好みがあるので、口に合わなければいつもの玉ねぎ醤油のを出すけど?」
定番の、すり下ろし玉ねぎと醤油ベースのステーキソースは作り置きしてある。
一応それも出そうかと思ったんだけど、三人とも新メニューに興味津々みたいだ。
「よし、焼けたぞ」
俺の好みで、いつもしっかり目に焼いてる。
三人には、分厚いステーキを用意したお皿に乗せてやり、普通サイズを自分のお皿に乗せる。
「おお、油がめっちゃ出たな。よし、これで後でチャーハンを作ろう。これは、後でこのまま使うから洗わないでくれよな」
今にもフライパンを飲み込みそうになっていたアルファに気付いて慌てて止める。
「あ、そうなんだ。じゃあ置いておくね」
そう言ってコンロの上にフライパンを置く。
手を伸ばしてアルファを撫でててやってから、俺はいつものように小さい方の机に作った簡易祭壇に自分の分を並べて手を合わせる。新作ステーキソースはガラスの器ごとお皿の横に並べた。
急ぎで出来合い品ばっかりの時はやらないけど、一から自分で作った分は出来るだけシルヴァ達も食べてもらいたいから、お供えを続けている。
「グラスランドブラウンブルのステーキです。ソースは新作のヨーグルトソースにしてみたよ。気に入ってくれると良いんだけどな」
小さくそう呟いて目を閉じて手を合わせる。
いつもの収めの手が俺を撫でた後にステーキとご飯、それからステーキソースを撫でて消えていく。
「お待たせ、じゃあ食べようぜ」
自分の席へ着き、もう一度改めて手を合わせる。
肉には、新作ステーキソースをたっぷりかけて隣に回す。
「おお、この濃厚な肉の味に、ヨーグルトの酸味が加わってまろやかになってる。なんだよこれ。自分で作って言うのもなんだけど、めちゃめちゃうまいぞ」
「本当だな。これは確かにうまい。いつものソースとは全く違うが、これは良い」
満足そうなハスフェルの言葉に、ギイも満面の笑みで頷いている。
「ほう、これは美味いな。ヨーグルトの酸味が絶妙だ」
オンハルトの爺さんも一口食べて大満足みたいだ。
良かった、新作ステーキソースは気に入ってくれたみたいだ。
「食べたい! 食べたい! 食べたいよったら食べたいよ!」
大きなお皿を振り回しながらシャムエル様が飛び跳ねるように踊っている。うん、ダンスには全然詳しくないので、これが何のダンスなのか俺にはさっぱりだけど格好良いぞ。
「はいはい、ちょっと待ってくれよな」
笑って、ステーキを一切れと、付け合わせも一通り並べてやる。
「で、これが新作のステーキソースな」
肉の上にたっぷりかけてやると、尻尾をぶんぶん振り回して喜んでる。
「わあい、いっただっきま〜す!」
顔面からお皿にダイブして行き、もぐもぐと肉を齧っている。
「ケン、私これ好き! 美味しい! また作ってね!」
いきなりがばりと起き上がったシャムエル様は、それだけを叫ぶとまたお皿に突っ込んでいった。
気に入ってくれて嬉しいんだけど。今、ソースがくっついて顔だけ白くなってたみたいけど……別に良いんだよな?