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ウォーターストライダー

「また蛍狩りか」

 マックスに乗せてもらってさっきの小川に戻ってきた俺は、まだ静かな川面を覗き込んで小さく呟いた。

「いや、今日のファイヤーフライの出現は終わりだよ。シャムエルがまだ次が出ると言うんで戻ってきたのさ」

 ハスフェルの言葉に、俺はさっきの茂みを覗き込む。

「へえ、何が出るんだろうな? だけど、残念ながらまだみたいだ」

 ジェムモンスターが出てくる茂みの下の辺りは、少し水が淀んでいて流れが早くない。



 その時、丁度茂みの奥から何かが出てくるのが見えて、俺は慌てて後ろに下がった。



「おい! 何か出たぞ!」

 慌てて剣を抜いた俺の言葉に、同じく剣を抜いた三人が目を輝かせて駆け寄ってくる。

「何だ、ウォーターストライダーか。これなら楽勝だな」

 水面を滑るように出てきたジェムモンスターをひと目見て、ハスフェルがちょっとやる気の無さそうな声でそう言い、オンハルトの爺さんまでが苦笑いしている。俺も出てきたジェムモンスターを改めて見てちょっと安心した。

 ウォーターストライダーって何かと思ってたけど、これは見れば俺でも分かった。要するに巨大アメンボだ。細長い体の大きさが1メートルくらい、水面に広がる針金みたいな細い脚は、その倍くらいの長さがある。脚のせいでかなり大きいように見えるけど、あまり圧迫感は感じない。



「ここで出るのが、よりにもよってウォーターストライダーとはな。これはハズレだな」



 苦笑いしたギイの言葉に驚いて振り返る。

「ええ、ハズレって何だよそれ」

 俺の言葉に笑ったギイは、片手で持ったあの重いヘラクレスオオカブトの剣で、大きなアメンボを一刀両断した。

「残念だがこいつには素材が無いんだよ!」

 そう叫んだギイが軽々と叩き切ったアメンボから、少し大きめの30センチくらいのジェムが転がり落ちる。

 いつもなら続いて素材が落ちるんだが、確かに何も無かった。

「ああ、なるほどな。とは言えジェムは出るんだろう? これは貴重なジェムなんじゃないのか?」

 質問しながら、俺も目の前に流れてきた巨大なアメンボを叩き切る。

 確かに拍子抜けするくらいに簡単だ。呆気なくジェムになって転がるのを見て小さく笑った。

「まあ確かに、珍しい事は珍しいが地味なジェムだよ。貴重なジェムの割りには大した高値は付かない」

「おう、そうなんだ。そりゃあ確かにハズレだな」

 俺もちょっと拍子抜けしたが、せっかくなので取り敢えず出た分くらいは集めようと思う。

 一応やる気になってる俺を見て、ギイはまた出てきた大きなのを真っ二つにした。転がるジェム。

「ただし、普通に使うならこいつのジェムはなかなか使える良いジェムだよ。グラスホッパーよりも火力は強いし長持ちするぞ、遠慮せずにガンガン普段用に使えば良い」

「おお、それは素晴らしい。ぜひともしっかり集めてコンロの燃料に使わせてもらおう。それに、安価で長持ちするのなら、街へ売ってやったら喜ばれるじゃん」

 俺の言葉に、ギイが拍手をして下がる。

 って事で、俄然やる気になった俺は次々に出てくるアメンボを、ひたすら叩き斬って回った



「これって、反撃してきたりしないのか?」

 あまりに簡単すぎて、逆に心配になる。

「大丈夫だよ。強いて言えばその長い足が鬱陶しいくらいだ」

 笑った三人とも剣を収めて下がってしまった。

「おいおい、何で下がるんだよ。まだまだ出てるぞ」

「ここは遠慮するよ。好きなだけ集めてくれ」

「ああ、ずるい、俺に丸投げしたな!」

 笑いながらそう叫んだが、ある意味安全にジェムを集められる貴重な機会なので、もちろん頑張って集めるよ。

 下がった三人の代わりに、従魔達がなだれ込んできて嬉々として大暴れしている。

 今回の俺は一応頑張って戦ったよ。と言っても、ひたすら剣を振り回していただけだったけどさ。



「あ! 色付きジェム発見!」



 少し大きめのアメンボを叩き切った時、転がるジェムの色が違うのに気付いて思わず叫ぶ。

「ああ、そうか、レアジェムの出現率が高いって事なんだな。それなら色付きが出るまで少し働くとするか」

 ジェムコレクターのハスフェルが、そう言って立ち上がり河原に降りてきた。

「何だよ。参加する気になったのか?」

 振り返って揶揄うようにそう言ってやると、剣を抜いたハスフェルがニヤリと笑って頷いた。

「ウォーターストライダーの色付きはまだ持ってないんだよ。せっかくだから自力調達を目指すことにするよ」

 そう言って、まるで草を刈るみたいに軽々とアメンボを叩き切ってるハスフェルを見て苦笑いした俺は、少し下がって笑いながら文句を言ってやった。

「ええ、せっかく人がやる気になってるのに独り占めするなよな〜!」

「ジェムコレクターとしては、自分の持ってない珍しいジェムが目の前にあるんだから、集めないわけがなかろうが」

 振り返ってドヤ顔で言い返されてしまった。確かにそうだな。立場が逆なら俺でも頑張るよ。

 まあそれなら良いかと下がって見ていると、しばらくして薄い緑色の色付きジェムが転がった。

「よし、出たぞ。もうこれで良いよ」

 嬉しそうなハスフェルがそれを拾って下がってくれたので、入れ替わりにまた俺が出てアメンボを叩き斬り続けた。




「ええと、そろそろ一面クリアーかな?」

  若干息が切れ始めた頃、アメンボの出現がピタリと止まった。

 河原を埋め尽くす勢いで転がる大量のジェムを見て小さく笑った俺は、少し下がって座りせっせと集めてくれているスライム達を眺めていた。

「戦ってる間もこまめに集めてくれていたのにな。それでもあれだけあるって事は、数はかなり集まってそうだな。よしよし、これも一割引ジェムに入れてやろう」

 小さく呟いた俺は、置いてあった鞄から水筒を取り出して勢いよく飲み干したのだった。

 お疲れ様でしたー!

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