昼食タイム
「なあ、もうそろそろ充分なんじゃないか?」
一面クリアーした後、ほぼ休みなく出てくる蛍を叩き斬り続けて、五面目までクリアーしたところで、俺の腕が限界を超えて悲鳴を上げた。
ここってかなり足場が悪いので、地味に体力削られてるんだよ。正直言ってちょっと休みたい。
「そうだな。確かに腹が減った」
剣を収めたギイの言葉に、ハスフェル達も笑って頷いてる。
「それじゃあ作り置きを出すよ。ええと、ここで食べるか? ちょっと足場が悪いんだけどなあ」
足元の大小の砂利混じりの砂を見ながらそう言うと、同じく剣を納めたハスフェルが奥の茂みを指差した。
「それなら小休止を兼ねて移動しよう。あの少し先に草地があるぞ」
「あ、そうなんだ、じゃあそこへ行くか」
剣を収めた俺がマックスの背に飛び乗るのを見て、三人もそれぞれの従魔達に飛び乗った。
ハスフェルを先頭に、蛍の出る河原を離れた俺達は茂みを飛び越えて目的の草地へ向かった。
「へえ、いい眺めじゃん」
到着したそこは、やや起伏のある草原で奥側に少し高くなった丘がある眺めの良い場所だった。
「あの丘の上が良いんじゃないか。あそこなら見晴らしも良いから、万一はぐれのジェムモンスターが近づいてもすぐに分かるぞ」
からかうように言われて、俺は走るマックスの背の上で思いっきり吹き出した。
「もう勘弁してくれって。ってか、お前らがいるんだから万一何か来ても俺一人じゃないんだから大丈夫だろう? そこは信頼してるよ」
「なんだ。そんなに素直に言われると苛められないじゃないか」
「頼りにしてるよ」
真顔で残念がるハスフェル達に苦笑いした俺は改めてそう言って、三人を赤面させることに成功したのだった。
「じゃあ、いろいろ作り置きを出すから好きに食え作戦だな」
俺はカレーが食べたくなったので、カレーを小鍋に取って温めようとしてちょっと考えて振り返った。
「なあ、誰かカレー食べる奴いるか? いるなら一緒に温めるけど?」
カレーのまだ入っていない片手鍋を見せると、手を挙げかけたギイが、自分用に焼きかけている分厚い食パンを見て考えて固まった。
「カレーはご飯だけじゃなくて、そのパンにつけて食っても美味いぞ」
恐らく、ギイが考えてるであろう事を予想してそう言ってやると、振り返ったギイは嬉しそうに頷いた。
「だよな。じゃあ俺の分も温めてくれるか。大盛りで頼む」
「俺も食いたい! 大盛りでお願いするぞ」
隣では、ハスフェルもフランスパンを持って自己主張している。
「それなら俺も食べるから温めてくれるか。もちろん大盛りでな」
手を挙げたオンハルトの爺さんまでそう言うので、結局全員カレーになった。
ハスフェルとギイはパンだけど、確認するとオンハルトの爺さんはカレーライスがいいらしいので、俺の分と合わせてご飯は二人前用意する。もちろん俺は並盛り、オンハルトの爺さんは大盛りだ。
チキンカツととんかつをそれぞれザク切りにしてご飯の上に乗せておく、ちなみに俺の分がチキンカツだ。
温まったカレーを、二人分はご飯の上にたっぷりとかけて、残りの二人分は大きめのスープカップにカレーだけ入れてやった。
「あ、ちょっと多かったな。足りなければもうちょいあるからな」
元気な返事が三人同時に聞こえる。うん、頑張って争奪戦してください。
自分の分のレタスとおからサラダを取って、いつものように簡易祭壇に一通り並べて手を合わせる。
「チキンカツカレーとサラダだよ。少しだけどどうぞ」
いつもの収めの手が俺を撫でてからカレーとサラダを撫でて消えていった。
「それじゃあ食べましょうかね」
小さく笑って席に着く。
待っていてくれた三人と一緒に手を合わせてから食べ始める。
「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ!」
シャムエル様の今日のダンスは、食べたいダンスだ。
しかも、最後の決めポーズと共に差し出されたお皿は、どう見ても小皿サイズじゃなくなってる。
「まあ、別に良いけどさ」
笑いながら、真ん中の一番肉厚のチキンカツを一切れと、カレーのかかったご飯もたっぷりと入れてやる。カレーもスプーンで追加してご飯にかけてやった。
「サラダは? ああハイハイ、ここだな」
いつもの小皿を差し出されて、レタスを小さく切っておからサラダと一緒に盛り付けてやる。特製青じそドレッシングをかけてやれば完成だ。
「わあい、これ、美味しいんだよね」
嬉しそうにそう言うと、やっぱり顔面からカレーにダイブして行った
カレーが目に入ったら痛そうだな。なんて考えながら、少なくなったチキンカツカレーを食べたよ。
デザートに、激ウマリンゴを切ってやりながら、ふと疑問に思ってハスフェルを振り返る。
「なあ、ちょっと聞いてもいいか?」
「おう、どうした?」
リンゴを食べながらハスフェルがこっちを見てくれたので、俺もリンゴを齧りながら地面を指差した。
「さっきの河原からここまでって、少し距離があったけどハスフェル達は迷わずここに来たよな。飛び地の地理を……つまり、何処に何があるかってのを知ってるのか?」
少なくとも、この場所は初めて来る。記憶にある限り前回はここには来ていない。
俺の言いたい事が分かったらしく、苦笑いして首を振った。
「いや、ここへ来るのは初めてだよ。俺とギイは探索の能力を持ってるからな。周辺を調べて、草地を見つけて来たんだよ」
簡単に言われて頷きかけて目を瞬く。
「それって、地下迷宮に入った時にマップが出たマッピングみたいなものなのか?」
「実際のマップが出るわけじゃないが、何となく分かるようになる。地形や安全性。それから地脈の吹き出し口もな」
成る程。今までもあちこちへ連れて行ってくれた際、ここにジェムモンスターが出ると簡単に教えてくれたので、俺はてっきり彼らはこの世界にめちゃくちゃ詳しくて、全部知ってるんだと思ってたよ。だけど普通に考えたら、そんなのあり得ないって分かるよな。
つまり今までも、その探索の能力で辺りを探って案内してくれていた訳か。
感心していてふと思った。
「俺のマッピングは、ここじゃあ使えないんだな」
一応ここも閉鎖空間だと思ったんだが、残念ながらここは郊外の森の延長扱いだから、マッピングは使えないんだって。残念でした。
「さて、ご馳走さん。美味かったよ。それじゃあ時間的にもそろそろ次が出ているはずだから、一度見に行ってみるか」
立ち上がったハスフェルのお皿を、スライム達があっという間に先を争うようにして綺麗にしてくれる。カレーの時って、食べ終えた皿への反応がめちゃめちゃ早いんですけど、どうしてなのかね?
やっぱりカレーって美味しいのかな?