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ジュースとサングリア

「ご馳走さん。それじゃあ、また行ってくるから留守番よろしくな」

 ハスフェルの声に、ギイとオンハルトの爺さんも笑って手を挙げ、従魔達と一緒にまた走り去っていった。

 全員の後ろ姿が何だかウキウキしているように見えたのは、多分、俺の気のせいじゃないと思う。



「まあ、楽しそうで何よりだよ。さてと。それじゃあまた俺はジュース作りを始めるか」

 苦笑いして肩を竦めた俺は、一番デカい銅の鍋を取り出しながら考える。

「ああそっか。考えてみたら、作業する子達はいるんだから鍋一つでチマチマ作る必要は無いよな」

 そう呟き、大きい方から順に三つの銅の鍋を取り出して、また乱切りにしたりんごを全部の鍋でせっせと茹で始める。

 茹でたら後はスライム達が手分けしてやってくれるので、俺はひたすら火の前で鍋をゆすり続けた。

 後半は、ぶどうを取り出して、もちろんぶどうジュースも大量生産。

 業務用金物店で大量買いしたガラス製のピッチャーを、今回のジュース作りでほぼ全部使ってしまった。




「あ、ハスフェルに赤ワインをもらっておけばよかった。サングリアをこのりんごとぶどうで作ったら絶対美味いぞ」

 考えたら、飲みたくなってきた。

 後片付けをしていてふと思いついてそう呟く。



『なあハスフェル、今忙しいか?』

 また今度にするかとも思ったんだが、やっぱりどうしても作って飲みたくて、こっそり念話でハスフェルを呼んでみる。

『おう、どうした?』

 意外とすぐに返事が返ってきて安心する。

『今、話してても大丈夫か?』

『ああ、今ジェムの回収作業中だ。今回もなかなか楽しい事になっているぞ』

 その声の後、ギイとオンハルトの爺さんの笑う気配もする。トークルーム開放状態だ。

『あはは、そりゃあご苦労さん。あのさ、マギラスさんからレシピをもらったサングリアを作りたいんだ。せっかくサングリア用の大きな蓋付きボトルも買ったんだから、作ってみようかと思ってさ』

『ああ、そりゃあ良いな。サングリアなら俺も飲みたい。是非お願いするよ』

『俺も飲みたいぞ!』

『俺も俺も!』

 オンハルトの爺さんとギイも、サングリアと聞いて自己主張している。

『了解。だけど、俺は残念ながらワインは持ってないんだ。近かったら取りに行くけど、今どこにいるんだ? さっきの木のところか?』

『残念ながら別の場所だよ。ふむ、どうするかな。もう次が出るんだが……』

 あそこなら、ここからすぐだからラパンとコニーについて来て貰えば俺一人でも大丈夫そうだ。

 そう思って呼びかけたのだが、残念ながら別の場所に移動していたらしい。

『それなら私が持って行ってあげましょう』

 いきなり聞こえたのは、ベリーの声だ。

『良いのか?』

『私の足ならすぐに戻って来られますからね。では後ほど』

 笑ったベリーの気配が消え、他の三人の気配も消える。



「おお、それじゃあサングリアの準備もしておこう。ええと、りんごとぶどうと、オレンジ、あとは何を使おうかな」

 サクラが、果物の色々入った箱を出してくれたので、それを見ながら何を使うか考える。

「あ、蜜桃があるな。よし、これも使おう」

 蜜桃は、一応サクラに確認してもらって一番硬そうなのを使う事にした。

 加工するのに使うのなら少々硬くても大丈夫だけど、やっぱりそのまま食べるなら、桃は絶対に完熟してる方が良いもんな。

 まあ、硬いと言っても出してもらった蜜桃は、十分に柔らかいと思うけどさ。



 鼻歌まじりに見本の果物を切って、あとはサクラとアクアに任せておく。

「お待たせしました」

 軽やかな足音をたてて、ベリーが駆け寄って来た。

「おう、わざわざ悪かったな。ありがとう」

「では、ここにおいておきますね」

 そう言って取り出したのは、一升瓶の倍はありそうな巨大なワインの入った瓶だった。

 しかも、赤と白それぞれ十本ずつ。

 物には程度ってものがあるぞ、おい。一体どれだけ仕込めと言うんだ?

 小さく吹き出して、それぞれ一本ずつだけ残してあとはサクラにいったん預かっておいてもらう。

「それでは、確かにお届けしましたよ」

 笑顔でワインを置いたベリーはそれだけを言うと、あっという間に戻って行ってしまった。

 何でも、次も楽しいのが出るから早く戻らないと駄目なんだってさ。

 すみませんねえ、忙しい時にわざわざ届けてもらって。




「それじゃあ、作りますよっと」

 スライム達に綺麗にしてもらったサングリア用の大瓶に、まずは切った果物をまとめて入れる。

 マギラスさんのレシピの注意書きには、甘い果物が多い場合は、砂糖は控えるようにとの指示がある。

「甘い果物ばかりだもんなあ。じゃあ半分くらいにしておくか」

 レシピの半量のお砂糖を入れて赤ワインを一気に注ぐ。

 赤ワインの瓶が半分ぐらいになるまで入れて、ようやく満杯になった。

「おお、このサングリア用の瓶もかなり入るんだな」

 感心したようにそう呟き、しっかりと蓋をする。

「ええと、二日くらいこのまま置いておきたいんだけど大丈夫か?」

「二日くらいだね、了解!」

 アルファが、一瞬でサングリアの瓶を飲み込む。

「ちょっと時間が掛かりま〜す」

 モニョモニョと動いているアルファを撫でて、俺は赤ワインでもう一度サングリアを作り、白ワインでも同じレシピで作っておいた。

 アルファの横で、ゼータとベータとガンマが同じくそれぞれ瓶を飲み込んでモニョモニョと動いている。

 他の子達には、その間に使った道具を綺麗にしてもらう。スライム達全員に仕事をさせてやらないといけないから、結構気を使うよ。




「よし、これでしばらく大丈夫だろう。じゃあ、あいつらが帰って来たらすぐに食えるように、何か用意しておいてやるか」

 机の上を片付けながらそう呟き、塩むすびを取り出して、グラスランドブラウンボアの薄切り肉を巻きつけて、肉巻きおにぎりを作る。味付けは甘辛い照り焼きソース。

 これは大量に出来たから、残ったらそのまま保存行きだな。

 それから同じくグラスランドブランボアの肉をやや分厚めに切って、大量の照り焼きと生姜焼きを作っておく。

 これはそのまま食べても良し、ご飯に乗せて丼にしても良しだ。

 そこまでやったところで、ちょうどガサガサと足音が聞こえて、ハスフェル達が返って来たと思った俺は振り返った。



 そして、見えた光景にすぐに反応出来なかった。



 だって、テントのすぐ横にいたのは、どう見ても、巨大な恐竜のようなオオトカゲだったのだ。

「これって見た事あるやつだ。何だっけ……確か、コモドドラゴンとか、コモドオオトカゲって呼ばれてるやつだよな……めっちゃ凶暴なやつ。あ、これまたしても、死亡フラグかも……」

 剣は装着しているものの、フライパンとお箸を両手に持ったままの無防備な俺は、数メートルの距離で巨大なオオトカゲと正面から無言で見つめあっていたのだった。

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