ステーキの夕食!
「結局、カメレオンセンティピートの胴体部分の素材を落としたのはあの、デカい一匹だけだったな。あれって全部俺がもらっても良いのか? ハスフェル、素材のコレクションはしてないのか?」
ミスリルの槍を収納した俺は、振り返ってハスフェルに質問した。
「ああ、それなら一番小さい分でいいから一つ譲ってくれるか。カメレオンカラーの殻は持っていないんでな」
「あ、そうなんだ。了解。じゃあ、出すから好きなの取ってくれよ」
目の前に飛んでいたアクアゴールドを捕まえながらそう言い、オンハルトの爺さんに見てもらった結果、五個あったうちの一番小さいのをコレクション用でハスフェルに渡すことにした。
ギイは持っているし、オンハルトの爺さんは別にいらないと言うので、残りの四つはそのまま俺がもらう事になった。
「余裕があるなら、これを二つ渡して防具を作ってもらえ。良いじゃないか。集めた素材で最強の武器と防具が出来るぞ」
笑ったオンハルトの爺さんの言葉に目を見張った。
「オリハルコンとミスリルを元にして、ヘラクレスオオカブトの角で剣を作ってもらい、カメレオンビートルの前羽で盾、頭部で兜、角では槍、そしてこれで胸当てを作って貰えばいい。恐竜の素材も山のようにあるんだから、籠手や脛当て程度ならそれで十分良い物が出来る。これだけの素材を渡してまとめて注文したらどうなるか。バイゼンのドワーフ達の狂喜乱舞する様子が目に浮かぶな」
笑いながら嬉しそうにオンハルトの爺さんがそう言い、それを聞いたハスフェルとギイも揃って笑いながら頷いている。
「俺が、ヘラクレスオオカブトの剣を二本注文した時も、大変だったからな」
デネブに乗ったギイがそんな事を言うので、マックスに乗りかけていた俺は思わず振り返った。
「ええ、ギイの持ってる剣って、ヘラクレスオオカブトの剣なのか?」
「ああ、そうだよ、知らなかったか?」
「今初めて聞きました。へえ、それなら後でその剣見せてくれよ」
すると何故か、ギイはオンハルトの爺さんと顔を見合わせた後、俺を見て困ったような、何とも言えない顔になった。
「俺は別に構わないが、お前、その言葉は迂闊に人に言うなよ」
「へ? 何が?」
マックスに飛び乗ったところでそんな事を言われて、首を傾げながらもう一度振り返る。
「この話は後でしよう。とりあえず戻るぞ」
同じくシリウスに飛び乗ったハスフェルの言葉に、俺たちはその場を後にした。
今夜は、飛び地の入り口の河原横の草地に戻ってテントを張って休む事になった。見張りは、従魔達がやってくれるから楽でいいよ。
「さてと、昼はカレーだったから、何にするかな」
俺は和食が食いたいんだけど、頑張ってムカデと戦ったハスフェル達は肉が食いたいだろう。
それならステーキだな。肉を焼くだけなら簡単だし。
「なあ、ステーキでいいか?」
机と椅子を取り出しながら大きな声で尋ねると、それぞれテントを張っていた三人から元気な返事と一緒に拍手が聞こえてきた。
まあそうだよな。肉は正義だもんな。って事で、夕食はステーキに決定。
俺のテントは、優秀なスライム達があっという間に組み立ててくれたので、俺はサクラから取り出したコンロを机に並べてフライパンを乗せておく。
今日は、普通の牛肉だ。
「どこから見ても見事なサーロイン。うん、これぞステーキにするための肉です! って感じだな」
アクアに頼んで、三人の分はガッツリ分厚く、俺はそこまで分厚くなくてもいいので標準サイズでカットしてもらう。
軽く叩いて筋を切ってから、肉用のスパイスと岩塩を振ってから焼き始める。
コンロは肉用の強火のコンロだ。
付け合わせは、温野菜の盛り合わせと、わかめと豆腐の味噌汁。それからマカロニサラダも取り出しておく。
ちょっと細めのマカロニがあったので茹でておき、茹で卵とグリーンピースもどき、ハム、それからニンジンを細かく刻んで茹でたのと一緒にマヨネーズで和えただけだ。味付けもシンプル塩胡椒。色々と汎用性の高い付け合わせだ。
焼いている間に、ハスフェルとギイは自分の分のパンを焼いている。俺とオンハルトの爺さんはご飯だ。
各自好きに付け合わせを取った皿に、焼けたステーキを乗せてやる。
ソースは作り置きしてあった、マギラスさん直伝の玉ねぎ入り和風ステーキソースだ。
自分の分のご飯と味噌汁をよそり、即席祭壇に一通り並べて手を合わせる。
「今夜はステーキです。少しだけど、どうぞ」
小さくそう呟き、目を閉じる。
いつもの収めの手が俺の頭を撫でた後、ステーキを撫でて消えていくのを見送った。
「あんまり分厚くなくてごめんよ、さすがにあの量は、俺には無理だって」
お皿を下げながら、小さな声で呟く。
シルヴァ達も凄い量を食ってたもんな。大人数だった時、どれだけ大量に料理していたか思い出して苦笑いしていると、目の前にまた現れた収めの手が、いわゆるOKマークを作って消えていった。
「そっか、これで充分ってか。それなら良かったよ」
小さく吹き出し、自分のお皿を席に運んだ。
「お待たせ。それじゃあ食べよう」
座りながらそう言うと、全員揃って手を合わせてから食べ始めた。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ!ジャジャン!」
いつもの如く、お皿を持って踊るシャムエル様。
どうやら今日のダンスは、尻尾を相手に見立てた社交ダンスみたいな感じだ。
最後は片手に持ったお皿を突き出すように俺に差し出し、もう片方の手は尻尾の先を持っている。
「はいはい、今日も格好良いぞ」
笑ってお皿を受け取り、ステーキの真ん中部分を一切れ大きく切ってやる。付け合わせも一通り一緒に盛り合わせ、ご飯も横に塊にして乗せてやる。
盃に味噌汁を入れれば完成だ。
「はいどうぞ、ステーキ定食だな」
目の前に並べてやると、嬉しそうに尻尾を振り回している。
「それじゃあ、いっただっきま〜す!」
最近のお気に入りらしい妙なリズムのいただきますの後、ステーキを鷲掴んで嬉々として齧り始めた。
この光景は、どう見ても……肉食のリス。
深く考えたら怖いので、気にしない、気にしない。これは神様なんだって。
苦笑いして首を振り、自分の分のステーキを切って口に入れた。
ううん。シンプルに焼いただけだけど、やっぱり肉は美味いなあ。