カツカレーバイキング!
「さてと、何にするかな」
一旦食事のために河原の手前まで戻った俺達は、河原の横にある草地をスライム達に草刈りしてもらって、机と椅子を取り出す場所を確保したところだ。
太陽の無いのっぺりした空を見上げてため息を吐いた俺は、跳ね飛んできてくれたサクラを前に考える。
「この後まだもう一戦するみたいだし、何かボリュームがあって食が進むメニューが良いよな。ええと……よし、カツカレーにしよう。俺が食いたい。あ、カツをいろいろ出しておけばいいな」
色んなカツのバイキングは、テンション上がりそうだ。
「ええと、じゃあまずはカレーの大鍋と、白ごはんのおひつ。あと、作り置きのカツを全種類四枚ずつ取り出してくれるか」
「了解。まずはこれがカレーだよ」
ドンと取り出された大きな寸胴鍋には、たっぷりの作り置きの定番カレーが入っている。ちなみにこれには普通の牛肉が入っている。
取り出した小鍋に、大鍋から作り置きのカレーを取り分けて温め直すために火にかける。
「アクア、皆がカツを取る時に切ってやってくれるか」
取り出したカツは全部そのままだから、食べる時に切らないと駄目だ。って事で、それはアクアにやってもらう。
「はあい、じゃあ切るのを担当します!」
ニュルンと触手が出てきて、敬礼するみたいに構えて戻った。何だそれ、ちょっと可愛いぞ。
「じゃあ、ここに並べていくね」
サクラが、取り出したカツ各種を種類別にお皿に乗せて並べて行く。
取り出した種類は、チキンカツ、チーズを挟んだチキンカツ、トンカツ、チーズを挟んだトンカツ、ビーフカツ、ブラウンボアカツ、チーズを挟んだブラウンボアカツ、それから自分が食べたかったので、鶏ハムも用意する。
「野菜も食えよな。っと」
そう呟いて、葉物の野菜サラダとおからサラダも並べておく。
ドリンクは、この後戦う事を考えてアルコールはやめて、冷たい麦茶と緑茶を用意しておいた。それからちょっと考えて、激うまリンゴも取り出して、サクラに皮を剥いてもらった。
カレーの鍋を焦げないように混ぜながら、そろそろ呼んでやろうかと三人を見ると、さっきまで飛び地を見ながら何やら真剣な顔で相談していた三人が、カレーの匂いに釣られて戻ってきたところだった。
「おお、これは美味そうだ。なるほど。好きなカツでカレーを食うんだな」
嬉しそうなハスフェルの言葉に、頷いてやる。
「そうだよ、色々あった方が何だか楽しいかと思ってさ」
揃って拍手した三人は、置いてあったお皿を取りサラダを取り分け始めた。
自分で出来る準備は、各自でやってもらうと楽でいいよ。
お椀に入れて形を作った山盛りのご飯をお皿に取り出す。
パカっと伏せて外すと綺麗に型抜きされたご飯の出来上がりだ。
それを見て、嬉しそうに目を輝かせるハスフェル達。
「はいどうぞ。おかわりは自分でやれよな」
笑って、ご飯の乗ったお皿を渡してやる。
俺がやるのはここまでだ。後は好きに取って食え。
カレーをご飯の上に半分かかるようにたっぷりと入れた俺は、少し考えてブラウンボアのカツを一枚取ってアクアに切ってもらってご飯の上に乗せた。
サラダは別のお皿にたっぷり取り、サイコロに切った鶏ハムをサラダの上に散らした。
マイカップに冷えた麦茶を入れれば、準備完了。
さあ食べようと席に着いたら、机の上にはお皿を持ったシャムエル様が待ち構えていた。
「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ!」
何やらよくわからないステップを踏んでいる。ぴょんぴょんと飛び跳ねつつ、尻尾を左右に叩きつけるように振り回している。
最後はくるっと一回転してキメのポーズだ。
シャムエル様のダンスがどんどん進化している。そのうち、ブレイクダンスとかでも踊り出しそうな雰囲気になってきたぞ。
そっち方面には残念ながら全く才能のなかった俺は、実は結構、シャムエル様のダンスを見るのを楽しみにしている。
「はいはい、今日も格好良いぞ」
そう言いながら笑ってお皿を受け取り、ご飯をスプーンで丸く取って盛り付けてカレーもたっぷりとかけてやる。具も少しずつ入るように小さく切って入れてやり、ボアカツの真ん中のを一切れそのまま乗せてやった。
「はいどうぞ。ボアカツカレーだぞ」
もう一枚お皿を出されたので、苦笑いしてサラダもちょっとずつ取り分けてやる。
「はいどうぞ、ってどこへ行くんだよ」
サラダを乗せたお皿を渡そうとしたら、カレーのお皿を持っていたシャムエル様がいない。
慌てて周りを見ると、なんと三人のところを順番に回って色んなカツを貰っていた。
どれだけ食うんだよ、おい。
戻ってきたお皿は、各種カツが一切れずつ全部乗っている。
「おお、すげえ山盛り。よく全部乗ったな」
堪えきれずに笑いながらそう言い、嬉しそうに振り回されている尻尾を後ろから突っついてやる。
「へっへ〜ん! 夢のカツカレー全部乗せ! 出来上がりました〜!」
何故だかドヤ顔のシャムエル様にそう言われて、俺は堪える間も無く吹き出したよ。
後ろでは、カレーを食べていた三人も揃って吹き出した。しかもカレーを食っている最中だったものだから、咽せて咳き込んで色々と大変な事になっていた。
「大丈夫か? 気を付けて食えよ」
素知らぬ顔でそう言ってやり、改めて手を合わせてから食べ始める。
「うん、予想通り。ボアカツの濃厚さはカレーに合う。おお、これは素晴らしい組み合わせだぞ。あ、じゃあ今度カレーソースを作ってボアカツサンドを作ってみよう」
「ふおぉ! それは美味しそう。今すぐ食べたい!」
カレーまみれになりながら、両手で掴んだボアカツを齧っていたシャムエル様が振り返って嬉々としてそんな事を言ってる。
「いや待て、今は食事中だって。それはまた今度な」
「残念。じゃあ作ってくれるのを楽しみにしてま〜す」
嬉しそうにそう言うと、あっという間に食べ尽くしたボアカツの端っこを飲み込み、今度はチキンカツをカレーに浸してから食べ始めた。
もう、両手も口元も胸元も、カレーだらけで大変な事になってる。
「三歳児くらいの食事風景って、知らないけどこんななのかね?」
苦笑いした俺は、唯一カレーまみれになっていない無事な尻尾を突っついてから、自分の分のボアカツカレーと鶏ハムサラダを黙々と平らげた。
「ご馳走様。どのカツも美味しかったけど、カレーに一番合ったのはボアカツだったと思うね」
山盛りのカツカレーをかけらも残さず平らげたシャムエル様は、そんな感想を言いつつ、カレーまみれになっていた自分の体を一瞬で綺麗にしてしまった。
浄化の能力も、いつも世話になってるけど改めて見るとすげえよな。デザートの激うまリンゴを一切れ渡してやりながら、密かに感心していた。
さて、この後は何が出るのかね?