カメレオンスタッグビートル
「ほら、これはお前さんの取り分だ」
笑ったギイが、地面に転がっていた巨大な二本のクワガタの角と、これも大きなジェムを拾って俺に渡してくれた。
「ありがとうな。そっか、ヘラクレスオオカブトと一緒で、正面側にいた人に所有権があるわけか」
「おう、そうだよ。だからそれはお前さんのものだよ。それじゃあまた交代で確保するか」
「そうだな。一面クリアーするまでまずは順番で行こう。またケンが襲われたら大変だからな」
ギイの言葉に、ハスフェルは手前の大きな木を見上げながら、そう言ってまだ笑っている。
「それじゃあ、貴方達はここで集めてくださいね。私とフランマは向こうへ行きます」
嬉しそうなベリーの声が聞こえて、姿を表しているフランマと一緒に、離れた場所にある別の大きな木に走って行ってしまった。
「ええと、お前らは?」
振り返った後ろには、マックス達がやる気満々で並んでいる。当然猫族軍団とセルパンも全員巨大化している。
「じゃあ私は、あっちへ行きますね!」
興奮のあまり、スキップでも踏んでいるみたいに飛び跳ねて尻尾ぶん回しているマックスは、そう言って勢いよく少し離れた大きな木に突進して行った。
「ああ、ずるい! 私達も参加しま〜す!」
そう叫んだニニ達猫族軍団が、大喜びで先を争うようにしてマックスに続いて走り去った。
セルパンとファルコとプティラも、ニニ達を追いかけて一緒に行ったみたいだ。
ラパンとコニー、それからモモンガのアヴィは、少し下がったところでオンハルトの爺さんと一緒にいる。
「ごめんねご主人、あれの相手は私たちにはちょっと無理みたいです」
しょんぼりとラパンとコニーがそう言い、アヴィも申し訳なさそうにオンハルトの爺さんの腕にしがみついている。
そうだよな。あのデカい角を相手にするのは、草食チームにはちょっと荷が重そうだもんな。
「気にしなくていいぞ。うちは戦力過剰だからさ。じゃあお前達は、そこで彼の面倒を見ててやってくれよな」
いつの間にか、オンハルトの爺さんは自分の椅子を取り出して座り、完全に寛ぎモードだ。
「はあい、じゃあ一緒にいま〜す」
嬉しそうにそういうと、座っているオンハルトの爺さんの足元にくっついて丸くなった。
水筒を取り出したオンハルトの爺さんは、それを見て嬉しそうに笑ってる。
「うああ、あのもふもふを今すぐ抱きしめたい!」
「今回の角も、後で見てやるから良い物だけ残して後はバイゼンで売ってやれば良い。きっと大喜びされるぞ」
丸くなったラパン達をもふもふしたくて無言で悶絶していると、オンハルトの爺さんがそう言って水筒の蓋を開けた。
深呼吸をして頷いた俺は、さっきギイが渡してくれたクワガタの大きな角を思い出して考えた。
「なあ、そういえば単なる疑問なんだけど、あの角は何になるんだ? あれだけ曲がってたら剣にはならないよな?」
大きく全体に湾曲しているクワガタの角も、ドワーフの技術で何かしたら真っ直ぐになるのだろうか?
「スタッグビートルの角は、シミターと呼ばれる大きく湾曲した剣になるんだ。特殊な武器だから誰でも扱えるものではないが、威力は高いぞ」
そう言って、一瞬で三日月型の剣を取り出して見せてくれた。
「形から、三日月刀とも呼ばれているぞ」
「へえ、変わった形だな。確かに使いこなすのは難しそう」
見せてもらいながらそんな話をしていると、呆れたようなハスフェルの声が聞こえた。
「おおい、次はお前だぞ。いらないのか?」
話をしてるうちに、ハスフェルとギイはもう一匹ずつ倒したらしい。
「ほら、行ってこい」
背中を叩かれて、大きな声で返事をして慌てて木の下へ向かった。
「さて、何処にいるかな」
木の下から見上げていると突然樹皮が動き出した。カメレオンシリーズだから、樹皮に同化していると、自分から動くまでほとんど分からないレベルだ。
鑑識眼のおかげで見失う事はないが、視線を外すと何処にいたか分からなくなりそうなくらいに見事に同化している。
「出た。おお、これも大きいぞ」
嬉しそうなハスフェルの声が横から聞こえる。
見上げたままゆっくりと下がると、距離を積めるようにクワガタがゆっくりと木から降りてくる。
誘き出すように下がったところで、横からハスフェルが一気に襲いかかり、見事に串刺しにした。
さっき程ではないが、これも大きな角とジェムが転がる。
「これまた大きいな。お前らのはどうだったんだ? 大きかったのか?」
もし小さいのなら、交換しても良いかと思ったのだが、二人とも笑って見せてくれた角は、最初のと変わらないくらいのかなりの大きさだった。
「って事で、これはお前さんの分だ。じゃあ次はお前が攻撃だ」
「了解。ええと槍が良いよな」
ミスリルの槍を取り出しながら横に下がる。
しばらく待っていると、また次が出た。
「うわあ、これまたデカい!」
のっそりと動いたクワガタは、平然と仁王立ちしているハスフェルに向かってゆっくりと降りてくる。
俺は、ハスフェルに向かうクワガタの後ろから近寄り、背中の前羽の隙間を一気に串刺しにする。
巨大なクワガタは、呆気なくジェムと素材になって転がった。
交代で、順番にジェムと素材を確保してもうヘトヘトになった頃、出現がピタリと止まった。
「もうそろそろ一面クリアーかな?」
地面に突き立てた槍にもたれかかりながら、上を見上げて深呼吸をする。
「なあ、腹減った」
もしかしなくても昼抜きでこの労働。はっきりいって俺の体力はもうほぼゼロです。
「確かに、到着したら何か食ってから始めようと思っていたのになあ」
「誰かさんが、いきなり襲われるし」
「全くだ」
俺の言葉に、座り込んでいたハスフェルとギイだけでなく、オンハルトの爺さんまでもが揃ってそんな事を言う。
「ええ、別に好きで襲われたわけじゃないぞ」
「いやあ、ここまで続くと、わざとじゃないかと疑うよなあ」
「全くだ全くだ」
ギイとオンハルトの爺さんの言葉に、ハスフェルと俺は堪える間もなく吹き出して大笑いになった。
「じゃあ河原まで戻って飯にしよう。そのあとは例のリンゴとぶどうのある場所へ行ってみるか」
「苗木を受け取るのは、帰る時じゃないと駄目なんだから、あそこへ行くのは最後でいいんじゃないか?」
「それなら良いのがいるから案内するよ。ここは広いからね」
いつの間にか戻って来たシャムエル様にそう言われて、いったん食事の為にここから離れることにした。
戻ってきたマックス達も、どうやら思いっきり暴れられたみたいで満足そうだ。
「飛び地の素材がどれだけ集まってるのか、考えたらちょっと気が遠くなりそうだな。バイゼンへ行くのが楽しみだよ」
アクアゴールドを撫でてやりながら、マックスの背中に飛び乗ってまずは河原へ戻って行った。