飛び地に到着!
『おはよう。もう起きてるか?』
いつもの念話で聞こえたハスフェルの声に、従魔達と戯れていて立ち上がったところだった俺は、そのまま伸びをしつつ返事をした。
『ああ、おはよう、今起きたところだ。急いで準備するよ』
『了解だ。俺も今起きたところだから準備出来たら呼んでくれ』
『俺はもう、準備出来てるぞ』
『俺も出来てるぞ』
タイミングよく二人の声が乱入してきて、そっちにも返事をしてから顔を洗いに水場に出た。
同じく顔を洗いに出て来たハスフェルとそのまま水場で会ってついもう一度挨拶をして、お互いの顔を見合わせて笑い合った。
小さな水場だったので交代で顔を洗ってからサクラに綺麗にしてもらい、ハスフェルも顔を洗ったのを見てからスライム達を放り込んでやる。ハスフェルのスライム達も一緒に水浴びをした後、そのまま一緒に俺のテントに戻った。
「じゃあ、今日はこのまま飛び地へ行くのか?」
「その予定だ。とにかく飛び地に入ったらウェルミスを呼び出して事情を説明しよう。いざとなったらレオに頼んで育成の要員を増援をしてもらわないとな」
適当にサンドイッチを出しながら聞いたその言葉に、俺は思わず顔を上げる。
「って事は、レオが来てくれるのか?」
ホットコーヒーのピッチャーを取り出して、机に置きながらハスフェルを振り返る。
「いや、あの姿の彼はあくまでも人間だよ。今回のような場合には、向こうで指示を出して彼の眷属をこちらの世界に寄越してもらう形になるだろうな」
「あ、そうなんだ。なんだ、また会えるのかと思ってちょと嬉しかったのにな」
誤魔化すようにそう言うと、何故だか笑った三人からまた頭を撫でられた。
「ほら、さっさと食え」
照れ臭くなって、側に来ていた三人をそう言って追い払った。
自分用にタマゴサンドと野菜サンドを取って、マイカップにコーヒーを注いでから席に着く。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! じゃじゃん!」
待ち構えていたシャムエル様の、いつもの味見ダンスを見ながらタマゴサンドの真ん中部分を切り分けてやる。
盃にはコーヒーを入れてやり、嬉しそうに食べ始めたシャムエル様を見て和みながら自分のサンドイッチを食べた。
なんと無く無言のまま簡単に朝食を済ませ、手早く片付けて撤収すると、とにかくこの場を移動する。
大鷲達とファルコに飛び地に一番近い森まで送ってもらい、あとは前回と同じく金色ティラノサウルスになったギイが、バキバキと硬いいばらの茂みを叩き折って無理やり道を作りながら先頭を進み、その後ろを同じく巨大化したブラックラプトルのデネブと、同じく巨大化したプティラが更に踏み固めて進み、後ろに続く俺達が歩きやすいようにしてくれた。
これは、巨大な鉤爪を持つ恐竜を従魔にしている俺達ならではの進み方だ。
しかも驚いた事に、前回俺達が切り開いて無理やり通った時に作った道は、あっと言う間に伸びてきたいばらによって完全に埋め尽くされていて、もう影も形も無くなっていた。
「前回来てからそれほど時間が経ってるわけじゃないのに、もう道が塞がってるって、どれだけここのいばらの成長は早いんだよ」
マックスの背中に、半ば張り付くように伏せながら進む俺の愚痴に、ハスフェルとオンハルトの爺さんも苦笑いしている。
「まあ、それだけここが貴重な飛び地だって事さ」
「それは分かるけどさあ……なあ、今回は本当に安全なんだろうな。もうこれだけ悪いことが続くと、俺は嫌な予感しかしないんだけどな」
「もうここは大丈夫だって言ってるのに。相変わらず心配性だねえ」
マックスの頭に乗ったシャムエル様に自信満々でそう言われても、不安しかないのは俺がヘタレなせいなのかね?
かなりの時間をかけて、ようやく見覚えのある石だらけの水枯れした河原みたいな場所に到達した。
「よし、じゃあ行くとするか」
ギイはいつもの姿に戻り、デネブとプティラもいつもの大きさに戻ってもらう。
デネブに手早く鞍を装着したギイが騎乗するのを見て、俺たちは飛地へ足を踏み入れた。
「あ、見覚えのある木だ!」
巨大な木があちこちにある草地に到着した俺は、周りを見回しつつ手前の木に近寄った。
「確か前回はここでカブトムシとか、てんとう虫とか、甲虫類が主に色々出たんだよな。そうそう、ヘラクレスオオカブトも集めたな。セミもいたっけ。それで今回は、何が出るんだ?」
そう呟きながら見上げた木には、特に何も見当たらない……ような気がする。
もっと近寄ろうとして、ふとある事を思い出して足を止める。
「確か、めっちゃデカいヘラクレスオオカブトにガンつけられたのって、こういう状況じゃなかったっけ……?」
今の俺は、あの時と同じくかなり木に近づいている。そしてハスフェル達はかなり離れた場所にいる。
これは、何となくまずい気がする。
出来るだけそっと後ろに下がろうとした時、頭上で絶対見たくない影が動くのが見えた。
「そうなるよな。前回がカブトムシだもん。絶対こいつも出るって!」
叫んだ俺が見たのは、樹皮と同化するような色で、平べったい体をした巨大なクワガタムシだった。
あの大きく湾曲した巨大なハサミは、絶対俺の腕の倍以上あるって!
「うわぁ、俺、またやっちゃったかも……」
迂闊な自分の行動を後悔してももう遅い。
あの時のヘラクレスオオカブトと同じで、俺は完全に頭上のクワガタムシにロックオンされている。
これってきっと、ヘラクレスオオカブトと同じで、正面側で剣を抜いたら駄目なやつっぽい。
『なあ! デカいクワガタが出たんだけど、どうしたらいいのか教えてくれよ!』
必死になって、ハスフェル達に念話で助けを求める。
一応『助けて』じゃ無くて『教えてくれ』って言ったのは、いけそうなら自分で戦うつもりもあったからだ。
『おう、ちゃんと把握してるから大丈夫だ。お前はそこを動くなよ。それから、絶対に剣は抜くなよ』
笑みを含んだ頼もしいハスフェルの答えに、俺は涙目になりつつ頷く。良かった、やっぱり剣は抜いたら駄目だったみたいだ。
背後でごく小さな足音が聞こえた直後、俺はいきなり襟首を掴んで後ろに引っ張られて放り出された。
悲鳴を上げる事も出来ずに、そのまま後方に吹っ飛ぶ俺。
入れ替わるように剣を抜いたギイが、俺のいた場所から真上に跳んだ。ものすごい跳躍力だ。
そしてそのまま、クワガタの背中に見事に剣を突き立てる。
前回のヘラクレスオオカブトと戦ったハスフェルと同じく、そのまま下に落ちて来た。
その後を追うように、巨大なジェムと二本の湾曲したハサミが落ちてきたのだった。
「おお、すっげえ!」
待ち構えていたスライムクッションに、背中から突っ込んだ姿勢のままでその一部始終を見た俺は、思わずそう言って拍手をしていた。
「全く、お前は相変わらずだな。もう勝手に一人で動かないように、ふん縛ってマックスに括り付けておくべきじゃないか?」
笑ったギイの言葉に、ハスフェルとオンハルトの爺さんが揃って吹き出す。
「どうもすみませんでした〜!」
俺は文句を言おうとしたのだが、反論出来る要素が一つも無いのに気付いて大声で謝った後、一緒になって大笑いしたのだった。
オタクなアラサー女子が異世界転生する
「ドラゴン商店は素材屋さん」
我慢出来ずに、勢いで書き始めてしまいました!
こちらは週2、3回程度の、のんびり更新にする予定です。お時間のある時にでも、読んでいただけると嬉しいです。
どうぞよろしく!