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買い物三昧再び

「じゃあ先に行くね」

 ニニの背中からスライム達がポーンと跳ねてマックスの背中に飛び乗って来た。

「おう、いってらっしゃい」

 雑木林の中に駆け込むニニを見送って、俺達はリンゴを引き取りにまずはヒスターの村へ向かった。


「ああ、いらっしゃいましたよ!」

 嬉しそうな村の女性の声に、俺はマックスの背から降りる。

 村長の家の前には、大きな木箱に入ったリンゴが全部で五十個近く積み上がっていた。

 おう、こんなにあったのか。

 ここで気が付いてさすがに困った。村中の人達が満面の笑みで見つめる中で、鞄にこれを全部入れるのは、幾ら何でも不自然だよな。

「こんなにあったんですか。お金は足りましたか?」

 聞いてみると、これでも市場での買取価格よりも高いらしい。

 ちょっと考えて、俺は村長のそばへ行った。

「こんなにあると思わなかったです。ああ、もちろん全部頂きたいんですけど、これって、レスタムの街まで配達してもらえますか?」

「レスタムの街なら、もちろん配達いたしますよ。街のどちらへお届けすればよろしいですか?」

「冒険者ギルドの宿泊所へお願いします。俺の名前はケン、ギルドで聞いてもらえば分かりますので」

「了解しました。ではすぐにでもお届けしておきます」

 恐らく、そう言われる事を予想していたのだろう、二台の荷馬車に村人達がリンゴの箱を手早く積み込むのを、俺は苦笑いしながら見ていた。

「それじゃあ、お願いしますね」

 出発する荷馬車を見送って、俺はまず、紅茶を作っていると言う村へ行ってみることにした。


「まだ、狩りに行かなくて大丈夫か?」

 近いって聞いたから、歩いて行ってもいいかと思っていたが、マックスはニニが帰ってくるまでいてくれるようだ。

「それならまずは、言っていた紅茶の葉を探しに行こうか」

 手を上げて出て行こうとしたら、慌てたように村長が俺の腕を引っ張った。

「ああ、すみません。良ければご一緒します。あの村の村長は少々怖がりな所があって、恐らくその従魔を見たら家に逃げ込んで出て来ませんよ。話を聞けと言って、引っ張り出してやりますよ」

 家の裏から馬を引いて来てくれたので、お言葉に甘えて一緒に行ってもらう事にした。


「しかし、見事な従魔ですね。失礼ですが、一体何処で、これほどの従魔をテイムしたのですか?」

 隣の村だと言うリーワースの村へ行く道すがら村長に聞かれた俺は、影切り山脈の樹海で、とだけ答えた。

「そ、それは……失礼いたしました」

 慌てたような村長の言葉に、いい機会だから少し聞いてみる事にした。

「俺にはよく分からないんだけど、影切り山脈の樹海って、それ程のものかい?」

 俺の言葉に、村長は驚いたように顔を上げて、何度か口を開きかけて大きなため息を吐いた。

「まあ、そこで住んでおられる方にとっては、その環境が当たり前だと言いますからね。ですが、何の取り柄も技もない我々のような人間にとっては、樹海というだけで驚き恐れるものでございますね。噂は色々と聞きますが、実際のところは……?」

 詳しく聞きたい! って、村長の顔に書いてあるけど……ごめんね。話せるような事は何も無いよ。ってか、俺も知らないし。

 苦笑いして首を振って誤魔化しておく。


「君の知る樹海って言えば?」

 小さな声でシャムエル様が耳元で尋ねる。

「俺の知る樹海って言えば、まあ所謂、富士山の麓の青木ヶ原だろうな、色々と都市伝説のある場所だよ」

「まあ、ほぼそのイメージで間違ってないよ。深い緑と、浅い土の下が岩盤の地層が続いているために根が張れず育たない木々、その結果倒木が多くなり、歩く事が困難な苔生した森になる。数は多くないけど獰猛な肉食動物もいるよ。それから樹海の深部には、人間とは別の種族の人々が住んでる。浅いところには、それなりに腕の立つ人間の住む集落もある。ただし、樹海は独特の磁場があって、迂闊に入り込んだら方角が分からなくなって遭難するんだよ。人間は特に方向感覚が鈍いんだよね」

「うん、聞いただけで無理っぽいから、俺は近寄らないようにするよ」

 苦笑いする俺に、シャムエル様は、また爆弾発言をかましてくれた。

「あ、ケンは体内コンパスを持ってるように作ったからね。そうそう迷う事は無いと思うよ」

 はい、心強いお言葉ありがとうございます!

「要は、普通の人が迂闊に入り込んだら一巻の終わりって事だな」

「まあ、大抵はそうなるね」

 うん、やっぱり絶対近寄らないようにしよう。


「ああ、あそこですよ」

 村長が指差す先のなだらかな坂になった山の麓に、こじんまりした村が見えて来た。

 山の麓は切り開かれて、低木樹が綺麗に等間隔に植えられている。恐らくあれがお茶の木なんだろう。

「先に行って事情を説明して来ます。お茶の葉を買いたいのですよね?」

「はあ、どんなのがあるかも知りたいですね」

「分かりました、ではこの辺りでしばらくお待ちください」

 駆けて行く村長の乗った馬を見送り、俺は綺麗な茶畑を眺めた。もしかしたら緑茶があるかも。あったら嬉しいな。

「お待たせ。行って来てくれていいわよ」

 丁度その時、ニニが狩りから戻って来た。

「そうですね。じゃあ行って来ます」

 俺が鞍から降りると、そのままマックスは嬉しそうに走って行ってしまった。おいおい、鞍乗せたままだけど良いのか?

 ファルコも飛び立って行ったので、俺はニニと一緒に大人しくその場でしばらく待っていた。


「あ、出て来た」

 恰幅の良い村長が引っ張って来たのは、これまた見事に横幅が広い初老のおっさんだった。

 うん、二人並ぶと圧がすごい……。

「よ、ようこそ、リーワース村へ。お茶をご所望との事ですが、どういった種類をお探しでしょうか?」

 背後のニニに怯えつつも、一応ちゃんと対応してくれている。

 怖がられないように、ニニは座っててもらう。


「逆にお聞きしたいんですが、ここではどういった種類があるんでしょうか?」

 一口にお茶といっても色々ある。

 日本茶みたいな緑茶、紅茶は、同じ種類の葉を発酵させたものだ。その発酵の度合いによって、烏龍茶などの中国茶にもなる。お茶好きの同僚からかなり詳しく聞かされたから、実は結構詳しい。

「こちらで作っているのは、主に緑茶と紅茶です。もっと発酵の深い黒茶をお探しでしたら、レスタムの街のお店を紹介しますので、そちらでお探しください」

 おお、やっぱり街にも店があるんだよな。一応、後で聞いておこう。

「どちらも欲しいですね。種類は有るんでしょうか?」

 単にお茶って言ってもランクがあるんだよ。使ってる茶葉が新芽だけだったり硬い葉も使ったりね。

 村長が何やら耳打ちすると、爺さんは満面の笑みになった。

「最上ランクの緑茶がございます。それに紅茶も」

 ブライアン村長、絶対言っただろう。俺が金持ちだって。

 うん、分かった。これも地域経済への貢献だよね。良いのがあるなら頂こうじゃありませんか!

 って事で、お茶を作ってる工房へ案内してくれた。


 入り口横に、在庫が積まれカウンターがあり、ここで販売もしてるみたいだ。

「こちらがお勧めの緑茶の新茶です、一番出の新芽だけを摘んだものです」

 出された茶葉は、それは綺麗な緑色をしている。おお、素晴らしきこの香り……。

「それから、こちらが紅茶の初摘みです」

 おお、見るからにダージリンのファーストフラッシュっぽい!

 念の為試飲させて貰ったけど、どちらも確かに美味しかったよ。

 買います買います!

 って事で、デカい缶ごと、紅茶と緑茶を一箱ずつお買い上げ。


 しかも、驚いた事に。デカい缶一つで銀貨五枚だと言う。これ、相当入ってるのにそんな値段で良いのかよ。お茶って良いものは高いんだぞ。

 金貨二枚払って、少し下のランクの紅茶と緑茶もがっつりお買い上げ。

 積み上がったデカい缶の山をどうやって鞄に入れようか考えていたら、レスタムの街なら配達してくれると言うので、これもお願いする事にした。

「ありがとうございました!」

 満面の笑みの爺さんだけでなく、工房の人達総出で見送ってくれたよ。

 うん、良い買い物したね。


 って事で、もう帰ろうかと思ったんだが、マックスがまだ帰っていない。

「そう言えば、今回の依頼って三つの村の合同だって言ってましたけど、もう一つの村って遠いんですか?」

 何となく、二つの村で買い物してるのに、最後の一つだけ行かないってのも気がひけるもんな。

「ああ、すぐ近くですよ。あの村は木彫り細工が盛んなんです。食器を多く作っております」

「ああ、あの親子が売ってたみたいな木のお皿か、それなら欲しいかも」

 あの親子から買ったのは、下拵えや小分けで全部使っちゃったもんな。

「良ければすぐ近くですので、ご案内します」

 ブライアン村長がそう言ってくれたので、もうついでだから行って見る事にする。


 マックスがいないので、のんびり歩いて向かったんだけど、まさかの最後の村で、またしても出会っちゃったんだよな。

 これまた、とんでもないものに……。

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