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とりあえず夕食にしよう!

「暗くなってきたな。サクラ、ランタンも出してくれるか」

 先に出してもらっていた机と椅子を組み立てながら、薄暗くなってきた空を見上げた。

 転移の扉を経由してここまで来たのが多分昼前、そこからあの苔食いモンスターと戦ってどれくらいの時間が経ったのか分からないけど、少なくとも俺の記憶では、遅い朝にお粥を食ったきりだ。

 うん、ここは肉を焼こう。せめてあいつらには元気になってもらわないとな。



 まだ顔を寄せて真剣な顔で話をしている三人とシャムエル様を横目に、俺は手早く料理の準備をした。

 今日は、がっつり肉って事で、グラスランドブラウンブルのステーキだ。

 分厚く切った肉を叩いて筋を切ってから、しっかりスパイスを振っておく。

 肉焼き用の強火のコンロを並べて、牛脂を入れたフライパンに肉を並べて、全員分を一気に焼いていく。

 トングで掴んでひっくり返し、反対側もしっかり焦げ目をつける。

 焼いている間に、別のコンロでワカメと豆腐の味噌汁を温め、茹でておいた温野菜をお皿に盛り合わせる。おからサラダとフライドポテトはまとめて出しておいて、好きなだけ取ってもらうようにした。

「よし、肉が焼けたな」

 コンロの火を止めて余熱で火を通す。

 それから、別のフライパンで、ステーキソースを手早く作る。



「おおい、夕食の準備が出来たぞ。とにかく食べよ……どわあ〜!」

 そう言って振り返った俺は、見えた光景に思わず悲鳴を上げてしまった。

 だって、ハスフェル達の向こうに、イケボの巨大ミミズのウェルミスさんが、ニョッキリと顔(?)を出していたのだ。

 うん、何度見ても衝撃的な見た目だよな。やっぱり。

「ああ、びっくりした。ウェルミスさん。どうしたんですか?」

 俺達が行くのが遅くて、催促しにきたのかと思ったところでふと気が付いた。

「あ、そっか。これってめちゃめちゃウェルミスさんの担当分野じゃん」

 恐らくシャムエル様が呼んだんだろう。

 ハスフェルの肩に座ったシャムエル様が、真剣な様子でウェルミスさんと話をしている。

「ふむ、了解した。この地は我がしばらく面倒を見ておこう」

「急に呼び出した上に無理を言って悪いね、だけど、オレンジヒカリゴケは決して絶やしてはいけない植物なんだ。どうかよろしくお願いするよ」

 シャムエル様の言葉に、ウェルミスさんが笑う。おお、イケボが笑うと破壊力抜群だな。おい。

「ふふ。これは我の仕事だから遠慮はいらぬ。しかし、オレンジヒカリゴケの根がここまで荒れると、我が面倒を見ても元通りになるには数ヶ月はかかるだろう。しかも今から季節は冬になる。晩秋にはこの辺りには霜が降り始め、冬になると、凍てついたこの渓谷には何人たりとも入ることは叶わぬ。それを考えれば、十分な収穫が望めるのは早くても来年の春以降だな」



 イケボ過ぎてうっかり聞き逃しそうになるけど、話してる内容を聞くに、これって結構やばい状況なんじゃないのかと心配になってきた。



「ふむ、来年の春か。これは困った。どうするべきかのう」

 オンハルトの爺さんが、ギイと顔を見合わせて大きなため息を吐いてそう呟く

 その言葉に頷いたハスフェルは、こちらも大きなため息を吐いた。

「やはりそうなるか。となると、オレンジヒカリゴケの生えている別の場所に行く必要があるな」

「そうだな。それしかあるまい」

「おおい、お話はひとまず休憩にして飯にしようぜ。せっかく焼いた肉が冷めちまう」

 玉ねぎとニンニクとすりおろしてお酢と醤油とみりんと蜂蜜で作った、マギラスさん直伝の激うまステーキソースをたっぷりと絡めた肉を皿に乗せながら、わざと大きな声でそう言ってやると、振り返った三人が分かりやすく笑顔になった。

「おお、さっきから良い匂いがすると思ってたんだ。よし、まずは食おう」

 ハスフェルの言葉に二人も苦笑いしながら頷き、それぞれお皿を受け取る。

「パンが良いなら自分で焼いてくれよな。ご飯がいい人はこっちな」

 適当に取り出しておいたパンと簡易オーブンを指差し、自分の分のご飯をよそる。

 味噌汁は全員によそってやり、ポテトとおからサラダも一緒の皿に盛り付けた。

 ハスフェルとギイはいつものようにパンを取り、オンハルトの爺さんはご飯をよそっている。

 俺は、いつもの小さいほうの机で作った簡易祭壇に、自分の分を一通り並べてから手を合わせる。

「今夜はステーキです。オレンジヒカリゴケを収穫に来たら、大変な事になってるんだよ。レオ、大地の神様! 何とかしてください。どうかよろしく」

 大地の神様だもんな。ここは一つ、特にしっかりお願いしておこう。



 だけど、目の前でオレンジヒカリゴケが突然大繁殖するような奇跡は残念ながら起こらず、いつもの収めの手が俺の頭を撫でて、ステーキ定食を順番に撫でてから消えて行った。

 いつもよりも、俺を撫でる時間が長かったような気がするんだけど、気のせいだよな?



「お待たせ、それじゃあ頂こう」

 お皿を自分の席に戻し、座って改めて手を合わせてから食べ始める。

「おお、このステーキソース、美味いな」

 ギイが、大きく切った肉を口に入れ、嬉しそうにそう言って笑顔になる。

 ハスフェルとオンハルトの爺さんも、同じく肉を噛みながら満面の笑みになる。

「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ!」

 新食べたいダンスを踊りながら、シャムエル様がお皿を振り回している。

 何故だかいつもの光景に、安心したらちょっとだけ涙が出そうになって慌てて誤魔化したよ。

「はい、どうぞ」

 真ん中の部分を大きく切ってやり、たっぷりとソースを絡めてお皿に乗せてやる。サイドメニューとご飯も一通り並べてやり、盃には味噌汁をスプーンですくって入れてやる。

「わあい、今日はステーキだね」

 嬉そうにそう叫ぶと、やっぱり顔面からお肉にダイブして行きました。

 まあ好きに食ってくれ。

 笑って自分の分を食べる。

 うん、自分で作って言うのも何だけど、このステーキソースめっちゃ美味い。

 ありがとう、マギラスさん。貴方のことを勝手に師匠と呼ばせていただきます!



 これからどうするのが良いのかなんて、俺には分からないけど、とりあえず食事くらいは美味しくいただかないとな。

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― 新着の感想 ―
[一言] おはようからおやすみまで、きちんと書いてあるのにまたですかと飽きがこないところが大好きです。 あぁーもふりたい(兎ワシャァ)
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