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二日酔いでグダグダの朝

 ペチペチペチペチ……。

 ペチペチペチペチ……。



 あれ?

 なんだかいつものモーニングコールと違うぞ?

 首を傾げつつ、重いまぶたを開く。

 明るい室内に呻き声を上げつつ、不意に意識が鮮明になった俺は、目を開いて見えた天井の高さに違和感を感じて首を傾げた。

 あれ?

 なんだか天井が遠いぞ?



「やっっっっっっっと起きたね。全くもう」



 耳元で聞こえたシャムエル様の呆れたような声に、俺は笑って腕をついて起き上がろうとして違和感の正体に気がついた。

「あれ? 俺、何で床で寝てるんだ?」

 しかも、何故だか起き上がれない。ええと……この身体のダルさは何事だ?

 結局起き上がれず、もう一度ニニの体に倒れ込み天井を見上げながらため息を吐いた。

「ええと、サクラ……美味しい水を出してくれるか」

 この頭痛と怠さは間違いなく二日酔い。だったらここは美味しい水の出番だよな。

「これだね。はいどうぞ」

 顔の横まで来てくれたサクラが、水筒の蓋を開けて渡してくれる。

「おう、ありがとうな」

 受け取って飲もうとした時、誰かの呻き声が聞こえて俺は文字通り飛び上がった。

「ええ〜! 今の声、誰だよ? 俺の部屋に誰かいるのか?」

 もうちょっとで持っていた水筒を吹っ飛ばすところだったよ。

 床に転がったまま慌てて声のした方を見て、俺はたまらず吹き出した。



 思い出した。

 昨夜はここで飲んでたんだよ。

 そこで俺は多分、あの激うま吟醸酒を飲みすぎて床に転がって沈没したんだ。このダルさはやっぱり二日酔い。

 でもって、あいつらはきっとそんな俺を肴に遅くまで飲んでたらしい。

 そしてその結果。

 全員揃って二日酔いで沈没。

 ハスフェルとギイは、並んで椅子に座ったまま机に突っ伏し状態で潰れてます。オンハルトの爺さんは、一人だけ奥のソファーで寝てたけどな。



「おはようございます。一番に起きたのは真っ先に潰れたケンでしたね」

 笑ったベリーの言葉に、俺も笑って肩を竦めて何とか起き上がって座り込んだ。

「とにかく飲もう」

 そう呟いて、水筒の美味しい水を一気に飲む。

 ああ、このカラカラに乾いた身体に水が染み渡る快感……。

「なんだよこれ、めっちゃ美味え!」

 いや、この水が美味しいのは知ってるけどさ。今の俺には、この水はこの世で一番美味しい水だと思えたよ。

 一気に残りを全部飲み干し、空っぽになった水筒を見てちょっと悲しくなる。

「もっと飲みたいけど、仕方がない。増えるまで待つか」

 どれくらいで水筒の水が復活するのかなんて気にしたことがなかったから、ため息と共に水筒に蓋をしてなんとか立ち上がった。

「顔、洗ってくるよ」

 のっそり、って擬音がつきそうなくらいにゆっくり動いて、なんとか水場へ向かう。



 とにかく目を覚ますために、大きく深呼吸をしてから思いっきり勢いよく顔を洗う。

 服が濡れたって構わない。全部あとでサクラが綺麗にしてくれるんだから。

 顔だけじゃ無く、頭全体を水槽に突っ込んでそのまま頭を水中で振り回す。

 飛んできたファルコとプティラが、跳ね飛ぶ水飛沫に大喜びで羽ばたく音が聞こえる。

「ぷはあ! よっしゃあ、これで目が覚めたぞ」

 水槽の縁に手をついて、勢い良く顔を上げる。

「ご主人、綺麗にするね〜!」

 跳ね飛んできたサクラが、俺を一瞬で包んで戻る。

 もうこれだけで、びしょ濡れだった顔も頭もサラサラだよ。

「いつもありがとうな。じゃあ行ってこい」

 サクラを水槽に放り込んでやり、次々に跳ね飛んでくるスライム達を同じ様に放り込んでやる。

「じゃあまずは、寝ている三人を起こしてやるとするか」

 笑った俺は、部屋に戻って、潰れている三人をとにかく叩き起こした。



「おう、起きる、ぞ……」

 返事だけして、そのまま、また寝てしまったハスフェル。


「うん、さっきから起きてる……」

 そう言いつつ、全く起きる気配の無いギイ。


「おお、さすがにちょっと飲みすぎたなあ」

 オンハルトの爺さんは、そう言って苦笑いしながら起き上がって大きな伸びをしている。

 一緒に床で寝るのに付き合ってくれたニニとマックスを順番に撫でてやり、いつものように他の子達も順番に撫でてやった。

 ああ、やっぱりこのもふもふ達がいると癒されるよ。



「ええと、やっぱり二日酔いの朝はこれだよな」

 何を食べようか考えて、水場から戻って来たアクアゴールドから買い置きの中からお粥の入った鍋を取り出してもらう。

「これは、あおさ海苔みたいなのが入ってたやつだな。よし、これにしよう」

 中身を確認して別の鍋も取り出す。それから、水分補給に作り置きの冷えた麦茶も取り出しておく。

「顔洗ってくるよ。水場借りるな」

 ストレッチの終わったオンハルトの爺さんがそう言って立ち上がり、水場へ向かう。

 いつもより若干動きが鈍いのは、やっぱりまあそう言う事なんだろう。だけど俺の美味い水の水筒は空になってる。神様なんだから、自分で何とかして下さい。




「ええと、俺は好きだけど、あおさ海苔はちょっと好みが分かれるかもしれないから、普通のも出しておくか」

 別の鍋に取り分けたあおさ海苔のお粥を温めながら、もう一種類別のお粥の鍋を取り出してもらう。

「これは鶏団子の入ったのだな。じゃあこれにしよう」

 こちらも別の鍋に取り分け、火にかけておく。



「こら、いい加減起きろ」

 顔を洗って戻って来たオンハルトの爺さんが、まだ寝ている二人を引きずる様にして水場に連れて行ってくれた。

 おお、さすがは神様。オンハルトの爺さんは、もう完全復活してるじゃんか。

 鍋をかき回しながら、机の上に座って尻尾のお手入れをしているシャムエル様を見る。

「本当に、お酒を飲むのは良いけど程々にね」

 俺の視線に気付いて顔を上げたシャムエル様の言葉に、俺はたまらず吹き出した。

「その意見には心の底から同意するよ。だけど、それでも飲んじまうのが酒なんだよなあ」

「駄目な大人の見本だね」

 バッサリ叩き切られてぐうの音も出ず、俺は両手を上げて敗北宣言を出したよ。






「おお、良い香りだな。何の香りだ?」

 ちょうどおかゆが暖まって火から下ろした時、復活した三人が水場から戻って来た。

「おはよう。二日酔いの朝はやっぱりこれだろう?」

 三人の無言の拍手に俺はドヤ顔で胸を張り、自分の分のお粥をお椀によそった。

「こっちが川海苔。ちょっと癖があるから好みが分かれるかも。こっちは鶏団子の入ったお粥。塩は薄めだから、いるなら追加で自分の皿に入れてくれよな」

 割と味が濃いのが好きな彼らに、鶏団子粥の優しい塩味は分からないかもしれないと思って、一応岩塩を砕いたのも出しておいてやる。



 それぞれ、好きな方を取って席に着く。

 俺は用意したままになってた小さい方の机の即席祭壇に、川海苔のお粥を置いて手を合わせる。

「少しですが、川海苔のお粥です。笑ってくれよな。俺達全員出掛ける日なのに、揃って二日酔いだよ」

 少し笑ってそう呟き、改めて手を合わせる。

 いつものように頭を撫でられる感覚の後、収めの手がお粥を撫でていなくなった。

「じゃあ、俺も食おうっと」

 当然のようにお椀を手に待ち構えているシャムエル様に、スプーンにすくったお粥をたっぷりと入れてやる。

「ああ、やっぱり二日酔いの朝は、これに限るね」

 ゆっくりとお粥を味わって頂きながら、俺はそう呟いて気がついた。

「あれ、さっきまで残ってた頭痛が消えてるや。へえ、今頃美味しい水が効いて来たのかねえ?」

 胸のむかつきも、綺麗さっぱり無くなっているので、もうちょっとくらいは食べられそうだ。

「どうする。このまま食ったら予定通りに出掛けても大丈夫か?」

 最後の一口を食べておかわりの鶏団子のお粥をよそりながら、すでに二杯目を食べ終えているハスフェルを振り返る。

「俺達はもうすっかり元気だよ。お前さんこそ大丈夫か?」

 笑ってそう言われたので、鍋に蓋をしながら胸を張った。

「おう、もうすっかり元気だよ。じゃあ予定通りギルドで明細をもらったら、オレンジヒカリゴケの群生地へ出発だな」

「いいんじゃないか。郊外へ出たら転移の扉まで大鷲達に送って貰えばいいからな」

「了解、じゃあ予定通りで行こう」

 顔を見合わせて苦笑いした俺達は、自分のお粥を黙々と食べ終えたのだった。

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