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昼食と赤ワイン煮

 久し振りのカルーシュの屋台に、俺のテンションはちょっと上がった。

「そうそう、この妙にアジアンチックな感じが良いんだよ。よし、まずはあれを買ってみよう」

 俺が突進して行ったのは、まるで肉まんのような、白い大きな団子みたいなのを店先に積み上げ、大きなセイロで蒸している屋台だ。

「鶏肉と豚肉があるけど、どっちにするね?」

 愛想の良さそうな小柄な爺さんが、俺の視線に気づいてセイロの蓋を開けてくれた。

 真っ白な湯気が立つ。

「それじゃあ両方、一個ずつください」

 この大きさなら、俺でも二個は余裕でいける。ならここは迷わず両方だよな。

 断言した俺に笑って、爺さんは木製のお皿に両方取り出してくれた。

「持って帰るなら、皿を出してくれたらそこに入れてやるぞ?」

 なるほど、見ているとお皿を持参して乗せてもらってる人もいる。

「いや、まずはそのままそこで頂くよ」

 受け取りながらそう言って、屋台の隣に置いてある椅子に座る。

 食べてみて美味しかったら、これも買いだな。ってか、もう買った時点で美味い予想しかしない。



 冬になるとコンビニで売ってた、山谷屋の肉まんとか、あんまんとかピザチーズまん、あれって、たまにめっちゃ食べたくなるんだよな。俺は定番の肉まん派。残業帰りに食べたくなったりしたよ。

 ちょっと懐かしい思い出に浸りつつ、もらった肉まんをじっくり見てみる。もっちりとしたふわふわの外側部分が、めっちゃ美味そうだ。

 コンビニで売ってたあれよりちょい小さいくらいだから、これなら二個ぐらい食っても余裕かも。



 遠慮なく片手で掴み、大きな口を開けて齧りついた。

「ん、これは塊の鶏肉がゴロゴロ入ってる、おお、照り焼き味じゃん。これは美味い。具沢山照り焼きチキンまん、だな」

 大満足で二口目を食べようとしたら、肩に座っていたシャムエル様に頬を叩かれた。俺が一口齧った途端に、慌てたように立ち上がって、尻尾をぶんぶんと振り回している。

「それは初めて見るね。食べたい食べたい!」

 耳から頬のあたりに、もふもふの尻尾が叩きつけられる。良いぞもっとやれ。



「食、べ、たい! 食、べ、たい!」

 何やらよく見えないが、新作、食べたいダンスが始まった模様。

 しかも味見じゃ飽き足らず、とうとう、食べたい、ってダイレクトに欲求し始めたぞ、おい。



「はいはい、じゃあ手が塞がってるからこのままどうぞ」

 でもまあ、神様のする事だもんな。欲しいと言われれば仕方あるまい。

 苦笑いして、持っていた照り焼きチキンまんを差し出してやる。丁度俺が齧った部分から中身の鶏肉が見えている。

「わあい、いっただっきま〜す!」

 妙なリズムでご機嫌でそう言うと、肉まんの皮の部分を掴んで真ん中の具の部分に顔面ダイブしたよ。

「これは美味しいね。皮もいただき!」

 しばらく無言でもぐもぐと食べていたが、2センチ角くらいの大きな鶏肉の塊を引っ張り出して齧りながら顔を上げ、掴んでいた皮の部分も勢いよく引っ剥がす。

 どうやら照り焼きチキンまんは気に入ったらしく、ボコっと具ごと一塊り、神様に強奪されました。

 おお、俺まだ一口しか食ってないのに、もう残りが半分弱になった。

 だけど、嬉しそうに両手で抱えるみたいにして、照り焼きチキンまんを食べるシャムエル様は堪らなく可愛い。

 ああ、そのもっふもふな頬っぺたを、ちょっとだけ俺にもふらせてください!

 内心で悶絶しつつ、残りの照り焼きチキンまんを平らげた。



「じゃあ、こっちが豚肉って事だな」

 よく見ると、こっちは上の部分に渦巻きが作られていて、形が少し違う。

「まあそうだよな。具を包んじまったら中は見えないから、変えておかないとどっちがどっちか分からなくなるよな」

 小さく笑って、こっちも大きく一口齧る。

「おお、これは紛う事なき肉まんだね。ふっくらジューシー。よし、これは絶対買っておこう」

「食、べ、たい!食、べ、たい!食べたいよったら食べたいよ! 食べたいよったら食べたいよ!」

 前半は、リズムに合わせて飛び跳ねながら、後半は早口言葉みたいに一気に言って、くるっと回ってポーズを決める。どうやら新作ダンスが決定したみたいです。

「はいはい、こっちも食いたいのな」

 もう諦めて、一口齧った肉まんを差し出してやる。

「さっきのと中身が違うね。じゃあいっただっきま〜す!」

 またしても、そう叫んで顔面からダイブして行きました。

 そして予想通りこっちも塊で強奪され、俺はほぼ一つ分くらいしか食べれませんでした。解せぬ!




 さっきの屋台に戻り、出来上がってるのをありったけ貰った。一応買い占めても大丈夫か確認したら、大喜びで良いって言ってくれたよ。

 って事で、まとめてお金を払い、鞄から大きめのお皿を取り出してそこにガンガン並べてもらう。一応、屋台の影でそれをせっせと鞄に押し込んだよ。

 それを見た爺さんは、もう目玉が転がり落ちるんじゃないかって思うくらいに驚いてたけど、俺が笑って口元に指を立てたら、嬉しそうに笑って同じく指を立ててくれた。うん、良い人だね。

 それから、もう少し見て周り、以前も買ったおでんの屋台を発見したので、空いた鍋一杯にたっぷりと全種類入れてもらった。

 おまけだと言ってもらった、味の染みたコンニャクを齧りながら広場を見渡す。

 三人とも好きにあちこちで立ち食いしている。見ていると、時々買って収納しているから、あいつらも非常食の追加をしてるみたいだ。

 時間停止の収納持ちだと、こういう時は便利だよな。

 もうちょっと何か食べたかったので、見て回って焼きもろこしを買った。

 うん、あの醤油の焦げた良い匂いは反則だよな。

 これも、食べながら時々シャムエル様にも齧らせてやる。食べ終わった頃に、丁度三人とも戻ってきた。

「じゃあ戻るか。ジェムと素材を渡したら、もう今日は休憩かな?」

「そうだな、まあ、たまにはゆっくりすると良い」

 のんびりそんな話をしつつ、揃ってギルドへ向かう。

 しかし、まだ協議中との事だったので、宿泊所にいるからと職員さんに伝言して宿に戻った。

 話し合いが済んだら呼んで貰えば良いからな。




 そして何故だかやっぱり俺の部屋に皆集まる。まあ良いけどね。

 時間がありそうなので、俺はマギラスさんに教えてもらったグラスランドブラウンブルの赤ワイン煮を作ってみる事にした。

 と言っても、下準備は簡単。サクラとアクアに頼んで玉ねぎはくし切り、ニンジンも大きめに乱切り、それからニンニクをひとかけら細かく刻んでもらい、トマトも完熟のやつを細かく刻んでもらう。

 取り出したのは、あの業務用金物屋で買った厚手の寸胴鍋だ。

 それに油を引いて、大きめのぶつ切りにして塩を振って下味をつけておいたブラウンブルの肉の表面を焼いていく。これは中まで火は通さなくても大丈夫。表面に焦げ目がつけばいい程度だ。

 焦げ目がついたら肉を取り出しておき、そのままの鍋に玉ねぎとニンニクを入れもう少し追加で油を入れて火にかけて炒めていく。

 マッシュルームみたいなキノコがあったので、それも適当に放り込んで一緒に炒める。玉ねぎがしんなりしたら、刻んだトマト、水と赤ワイン、それから乱切りのニンジンも入れて中火にかける。

 煮立ってきたら弱火にして、そのまましばらく煮込んでおく。

 全体にトロッとなったら、取り出してあった肉を戻して中火で煮込む。でもって沸いてきたら、弱火にしてじっくり煮込めば完成だよ。

 そのまま蓋をしておいておき、余熱で肉をじっくりと柔らかくしてもらう。

 丁度そこまで終わったところで、タイミング良くギルドマスターのアーノルドさんが顔を出した。

「ああ、終わりましたか。じゃあ行きますね」

 使った道具は手早く片付け、鍋はそのままにして、アーノルドさんと一緒にギルドへ向かった。

 何故だか、従魔達まで全員ついてきたよ。どうやら退屈していたらしい。

 って事で、大所帯で奥の部屋に案内された。



 さて、カルーシュのギルドは、どれくらい買ってくれるんだろうね。

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