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三連勝とカルーシュの街

 街道を離れて森の奥深くまで入ったところで、ハスフェルが大鷲を呼び、そのままカルーシュの郊外まで連れて行ってもらう。もちろん俺達は巨大化したファルコに乗せてもらったよ。

「それじゃ、あの赤い花が咲いてる大きな木まで競争!」

 なんと無く、全員がそれぞれの従魔に乗って並んだところで、いきなりシャムエル様がそんな事を言い出し、俺達はその瞬間に弾かれたように一斉に走り出した。



 目標は、遠目にも分かる真っ赤な花を鈴生りに付けた巨木だ。

 今度は絶対に負けてたまるか!



 多分、高速を走る車より速いんじゃ無いかと思うくらいの物凄いスピード。マックスの本気の全力疾走だ。

 とにかく、もう周りの風景が全く見えない。認識する間も無く一瞬で後ろにふっ飛んでいく。

 俺の真横をハスフェルの乗るシリウスが走り、少し離れたわずかに後ろをギイの乗ったデネブが続く

 オンハルトの爺さんも、ほぼ俺の真横の位置だ。

 完全に団子状態で、俺達は目的の真っ赤な花が咲く大木を通過した。

「だ、誰が一番だった?」

 正直言って、誰が一番だったのか俺には全く見えなかった。

 なので、ここは神様の誰かが見てくれていただろうと思って顔を上げた。

「うわあ、なんとまたしてもエラフィが一番だったよ。二位と三位のマックスとシリウスは完全に同着。デネブは僅差で最下位だったよ。とは言え、もうほぼ全員同着と言っても良いくらいの僅差だったね。それにしても、今回は本当に凄い勝負だったね。もう見ていて大興奮しちゃったよ」

 マックスの頭の上に現れた、嬉々としてそう話すシャムエル様の言葉に俺は天を仰ぐ。

「ああ〜また負けた〜!」

「おっしゃ〜! 三連勝いただきだ!」

 鞍上で手を叩いて大喜びするオンハルトの爺さんを、俺達三人は揃って呆然と見つめていた。

「エルク、凄すぎ」

 半ば無意識の俺の呟きに、大興奮したマックスが飛び跳ねている。

「分かった分かった。悔しいのは俺も同じだ。マックス、頼むから落ち着けって」

 なんとかそう言って、首元を叩いて宥めてやる。

「三度もこれは、ちょっと本気で悔しいぞ」

「全くだ。今の所、短距離だが……エルクって、確か長距離の方が有利なんじゃないのか?」

 ハスフェルとギイの二人は、真顔でそんな話をしている。うん、ちょっと俺も本気で悔しい。だけど祭りの興行的には、この展開は絶対に喜ばれそうだ。なんて、のんびり考えていた。



「次は絶対負けません。ああ悔しい。もう少しだったのに」

 文字通り地団駄を踏みながら、マックスが本気で悔しがっている。

「確かに悔しい。次は絶対に負けませんよ」

「確かにこれは悔しいですね。次こそは勝ってみせます」

 シリウスとデネブまでが、そんなことを言ってこちらも大興奮で跳ね回って悔しがっている。

 それに対して見事三連勝を取ったエラフィは、そんなの当然とばかりに平然と胸を張ってそこらの草なんか食べたりしている。だけど俺には分かる。あれはドヤ顔だ。

 うう、ちょっとマジで悔しいので、次回こそ絶対に勝たせてもらうぞ。

 そしてやっぱり、今回も遅れて追いついて来た猫族軍団の呆れた視線と抗議を受け、誤魔化すように顔を見合わせて笑い合う俺達だった。




 そのまま後はゆっくり走り続け、昼前にはカルーシュの街に到着する事が出来た。

 ううん、地上を移動することを考えると、翼を持った仲間のありがたみを思い知るね。

「おお、おかえり。ハンプールの英雄様ご一行」

 城門の兵士達が、俺達を見て笑顔でそう言ってくれた。

「おかえり、魔獣使い!」

 笑顔でそう言われて、なんとなく流れでハイタッチなんかしたよ。

 ここでもおかえりって、言ってもらえた。なんか嬉しい。

「おいおい、なんだかまた従魔が増えてるじゃねえか」

「ああ、本当だ。すっげえ。エルクの亜種だ……」

「うわあ、俺、エルクの亜種なんて初めて見た」

「すっげえ、デカい角」

 城門の受付にいた兵士だけじゃ無く、周りで警備に当たっていた兵士達や、他の受付の兵士達まで揃って俺達を見ている。皆、目がキラキラだよ。

「あはは、はい、そうなんです。また増えてます」

 誤魔化すようにそう言って、手を振ってくれる兵士達に手を振り返して揃って街に入った。



「じゃあ、ギルドへ行って、一泊だけ宿を取るか」

「そうだな。ここはジェムと素材を引き取ってもらったら、もう良いよな?」

 ハスフェルとギイの会話の最後の言葉は、俺に向かって言われたので笑って頷く。

「まだ作り置きもたくさんあるし、大丈夫だよ。一泊だけして明日そのまま飛び地へ向かおう」

「だな、ああ、それなら先にオレンジヒカリゴケを採りに行かないか? ありったけ収穫してそのまま飛び地へ向かえば、約束の半月先までじっくり好きなだけ狩りが出来る。それで出る時に苗木を貰って、西アポンの郊外の果樹園に植えてやればいい。どうだ?」

「あ、それでも良いな。移動はどうなんだ?」

「オレンジヒカリゴケのある高地へは、三番の転移の扉が近いから、ここの七番の扉からすぐに行けるぞ。向こうで大鷲に頼めばオレンジヒカリゴケの繁殖地の渓谷まで一直線に行けるから、それが一番移動距離が少なくて済むな」

「よし、じゃあその予定で行こう」

「予定は未定だけどな」

 笑ったオンハルトの爺さんの言葉に、俺達全員揃って同時に吹き出したのだった。




「おお、来てくれたか。待っていたぞ!」

 ギルドの建物に到着すると、満面の笑みのギルドマスターのアーノルドさんが出迎えてくれた。

 窓口で、まずは宿泊所の手続きをしてもらう。

「なんだ、一泊だけか?」

 後ろから覗き込んだアーノルドさんの言葉に、ちょっと笑ったよ。

「この後の予定が、色々とあるもんでね。それで、ジェムと素材なんですけど、どうしますか? 大量にありますよ」

「おう、期待してるぞ。じゃあ奥へどうぞ」

 そう言われて、そのまま全員で奥の部屋へ移動する。



「何があるんだ。頑張って予算は確保してあるんだからな」

 目を輝かせたアーノルドさんの言葉に笑って、まずは割引分のジェムの見本を取り出していく。

 後ろで見ていたスタッフさん達が無言になる。

「ええと、この辺りは相当数があるので、数量限定ですけど、ただいま評価価格の一割引の特別割引価格で提供してます」

「一割も引いてくれるのか!」

 やっぱりここでも、物凄い食いつき。

「ええと、他にもこんなのもあります。こっちは割引きはしてませんけどね」

 そう言って、恐竜のジェムと素材を取り出して並べる。

 全員が無言になった。

「……数はある?」

「はい、割引分も数量限定とは言いましたが、いまのところ相当数があるので、まだまだ大丈夫ですよ」

「おい、商人ギルドのリッティを呼んでこい。いますぐ来ないと、儲け話を逃すぞと言ってな」

 アーノルドさんの大声に、スタッフさんが返事をして走って出て行った。

 まあ、これも最近のお約束の展開になりつつあるね。

「それじゃあ、食事してきますので、ゆっくり相談してください。明日の朝には出発しますので、それまでに数を決めてくださいね」

 ちょっと腹が減ってきたので、俺たちは一旦下がらせてもらう事にした。

「ああ、悪いな。じゃあ後で寄ってくれるか」

「了解です」

 笑顔で手を振り、一旦ギルドを後にしてた俺達は、ひとまず宿泊所へ行って、従魔達を置いてから揃って食事をしに広場の屋台へ向かうのだった。

 ここは道が狭いから、大型の従魔は屋台の広場には入れないんだよな。

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