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楽しい試食会?

「お待たせ。さあどうぞ」

 開けっ放しだった扉を叩いたマギラスさんの声に俺達は部屋を出て、案内されて別の部屋に向かった。

 そこには、さっきの人数よりもさらに多くなった、全員白衣のスタッフさん達がいた。そして、大きなテーブルの上はなんとも華やかになっていた。

「うわあ、もしかして、これ全部あの短時間で作ったんですか?」

 思わずそう叫んだ俺の言葉に、皆が笑顔になる。

 机の上は、ちょっとしたケーキ屋のカウンターよりもずっと豪華で華やかだ。

 俺の知識では、残念ながら名前がさっぱりだが、リンゴとぶどうの両方を飾った真っ白なクリームのショートケーキみたいなのもあるし、多分アップルパイっぽいものが一番多い。小さな一口サイズ、丸いケーキ型、クロワッサンみたいなのもある。それからリンゴを花みたいに薄切りにして飾って丸ごと焼いたケーキ。綺麗なグラスの器に入れられたムースやゼリーみたいなのもある。

 そして、苦労して小ぶりのを選んだのだろう、丸ごと巨大焼きリンゴの姿も見える。

 それ以外にも、サラダっぽいのが盛り付けられた皿も見えて、思わず覗き込んだ。リンゴで料理も出来るのか?

 大きなグラスの中にリンゴとぶどうと一緒に入っている、あの赤い液は……もしかして赤ワインですか?



 ううん、しかし試食会だって言ってたけど、これを全部試食したらちょっとカロリーと胃もたれが大変な事になりそうだ。大丈夫かな? 頑張れ俺の胃袋。

 しかも、いつの間にか一緒に作ったあのリンゴジュースとぶどうジュース、そしてミックスジャムも置いてある。

 うう、恥ずかしいからこんなところに一緒に並べないでくれって。



「なあ、あれってもしかして、作ったジュースか?」

 ハスフェル達の嬉しそうな声が聞こえて。俺はマギラスさんを振り返る。

「あそこに置いてあるのは、俺が作ったやつだよ。ケンの作ったのはまだ冷蔵庫に入ってるから、後で持って帰ってくれればいいよ」

 もう、気分は完全に調理実習だ。

「そうなんだってさ。レシピもたくさん教えてもらったから、どこかでまた時間をとって料理をしてもいいかもな」

「おお、楽しみにしてるぞ」

 嬉しそうな三人の言葉に、俺は小さく笑って肩を竦めた。




「とにかく、素材の味が完璧だったので、逆に苦労しましたよ、何を使っても余計なものを付け加えた様な気がしてね」

 やや年配の、いかにもベテランですって感じのスタッフさんが、言っている言葉の割に、楽しそうな顔でそう言って笑っている。

「確かに。素材が完璧だと、結局何をやっても蛇足に過ぎないって気分になるんだよな」

 隣にいる人も、年配の男性の言葉に腕を組んでウンウンと頷いている。周りからも苦笑いが漏れているところを見ると、どうやら皆同意見らしい。

「なんだなんだ。始める前から揃って敗北宣言か?」

 からかうようなマギラスさんの言葉に、あちこちからブーイングが聞こえて、部屋は笑いに包まれた。

「それじゃあ、順番にいただくとするか。言っておくが、否定は駄目だぞ。建設的な意見を頼む」

「うい〜っす」

 妙に気の抜けた返事の後、お皿とフォークとスプーンが配られる。それから小さめのガラスのコップも。

 まずは、リンゴジュースが配られる。全員ほぼ一口程度だ。成る程。これなら全種類食べても大丈夫そうだな。

「おお、これは美味しい」

「これで砂糖無しなのか?」

「ほお、見事なものだな」

 ハスフェル達が感心した様に頷いている。俺は、目を輝かせているシャムエル様にカップをこっそり渡してやり、残りを一気に口に入れた

 鼻に抜けるリンゴの甘い香り……。何これ、めっちゃうまいじゃんか。よし、これは絶対に量産しておこう。

「で、こっちがぶどうジュースだ」

 グラスに新たに注がれたぶどうジュースは、見事な濃い紫色をしている。

「ああ、だめだ、美味しい以外の感想が出てこない」

 ギイの呟く様な感想に、ハスフェルとオンハルトのおじいさんが、二人揃ってものすごい勢いで何度も頷いている。

 今回も、先にシャムエル様に飲ませてやってから、俺も残りを一気に飲み干した。

「おお、これも美味しい。確かにそうだな。美味しいしか感想が出て来ない……」

 天井を見上げてそう呟く。

「確かにこれはどっちも美味しいね。是非とも量産しておいてください。よろしく!」

 右肩に現れたシャムエル様が、ちっこい手で俺の頬を叩く。

「はいはい、もちろん作るから叩くなって。そのちっこい手で叩かれると地味に痛いんだよ」

 小さな声でそう言って、もふもふの尻尾を突っついてやる。

 尻尾を取り返して、一瞬で机の上に戻ったシャムエル様は、目を輝かせて鼻をひくひくさせている。



「次はどれかなあ」



 机の上でいつもの味見ダンスを踊り始める。一応人目は気にしている様で、手ぶらでのダンスだ。

「じゃあ、これからかな」

 マギラスさんが持った、大きなナイフで、綺麗に飾られたムースみたいな大きな丸いケーキを綺麗に切り分けていくのを、シャムエル様は目を輝かせて見ていた。



 しかし、丸いケーキって、あんなに細かく等分に切れるんだな。

 ちょっと感心したよ。

 円形の外側部分が1センチちょいくらいしかないのに、綺麗に三角に切ってるって、こっちの方が芸術だろう!

 次々にお皿に乗せられる試食を、俺はシャムエル様に手伝ってもらいながら順番に食べていった。

「へえ、同じアップルパイでも全然違うんだな。食感とか風味とか」

 今食べ比べているのは、五人が作ったいろんなアップルパイだ。

 一口サイズのもの、某ドーナッツ屋で見た様な長方形の形の物。半円形のものもある。それから丸い大きなサイズを切り分けたのには、なんとアイスクリームが添えられたよ。

「こっちはシナモンかな、スパイスが効いてて美味しい。こっちは優しい甘さって感じだ。ううん、これが一番好みかな? うん、これが一番美味しい」

 自分の美味しいの語彙の少なさに、ちょっと悲しくなったのは内緒だ。

 だけど、これだけは断言する。

 好みの差はあれど、どれもめっちゃ美味しい。



 この時の俺はまだ、どれが一番美味しいか、なんて考える余裕があった。

 だけど少量とはいえ次から次へと渡される試食の嵐に、途中からはちょっと涙目になっていたよ。

 そんな俺に、マギラスさんは気付いていたみたいで、途中から俺の分の試食が明らかに小さくなっていたよ。

 うう、ありがとう、マギラスさん! やっぱり良い人だなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] いくら美味しくても適量が一番。 食べ始めは無限に 食べられる気がするんだけどねー( ̄▽ ̄;)
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