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マギラスさんの店へ行く

「さてと、それじゃあそろそろ出掛けるとするか」

 食べ終わった食器をスライム達に綺麗にしてもらって片付けた俺は、大きく伸びをして三人を振り返った。

 こちらも、使ったマイ食器は片付け終わって、すっかり寛ぎモードだ。

「せっかくですから、私もこっそり覗かせていただきますね」

 ベリーの声が聞こえて、思わず小さく吹き出した。

「良いけど見つからない様にな」

「はい、もちろんですよ。それでは」

 そう言って、笑って姿が見えなくなる。

「そう言えばベリーって蹄があるのに、室内でも大丈夫なのかね?」

 顔を見合わせて苦笑いした俺達は、首を振って立ち上がった。

 あんまり普通にしてるから時々忘れそうになるけど、相手は賢者の精霊だもんな。俺如きが心配するのはおこがましいってもんだよな。

 結局、従魔達も全員揃って行く事になり、またしても大注目の中を揃ってマギラスさんの店へ向かったのだった。




「ああ、いらっしゃい。悪いんだけど少しだけ中で待っていてくれるかい。丁度、食材が届いたところなんだ」

 到着したマギラスさんの店の前には、大きな荷馬車が何台も横付けされていて、スタッフさん総出で大量の食材の搬入している真っ最中だった。



 おお、見事な新鮮野菜を始めとした食材の山!

 ちょっと何があるのか見てみたいぞ!



 なんて思いながら邪魔にならない様に大人しく下がって見ていたが、不意に思い付いてハスフェル達を振り返った。

「今こそ、その筋肉の出番だと思うんだけどなあ?」

 俺の言葉に小さく吹き出した三人は、揃って頷きそれぞれの従魔の手綱を俺に渡した。

「じゃあ、ひと働きしてくるから従魔達の面倒を見ててくれよな」

 笑ってそう言い、マギラスさんの元へ走って行った。

「ええと、勝手に厩舎に入ってて良いかな?」

 建物の横の通路から、いつも使わせてもらっている厩舎に入れるのは知ってる。

「マギラスさん。こいつら、先に厩舎に入れて来ても良いですか?」

「ああ、悪いな。鍵は空いてるよ」

 顔だけ振り返ったマギラスさんが大きな箱を下ろしながら返事をしたところで、ハスフェル達が応援に入り、大量の荷物が荷馬車からガンガン下ろされていった。




「じゃあ、お前らはここで待っててくれよな」

 とにかく厩舎に入って手綱や鞍を外してやり、空だった水桶に水を入れてやる。

 こう言った厩舎の構造は、どこも同じみたいだ。クーヘンの店の厩舎と同じで、水桶の横に水を通す筒が差し出されていて、栓をひねると水が流れ出る仕組みだ。

 嬉しそうに水を飲むマックスの背中を叩いてやり、左腕に掴まっていたモモンガのアヴィを柱にしがみつかせてやる。

「ええと、当然厨房には従魔は立ち入り禁止だよな?」

 だけどスライム達がいないと、食材を出すのに不自由しそうだ。まだ俺の収納力はそれほど大した量じゃ無いからな。

「まあ、リンゴとぶどうは多少は持ってるけど、どうするかな」

 肉も渡したいので、その為にわざわざここまで戻って来るのは不自然に過ぎる。

 すると、鞄の中にいたアクアゴールドがちょっとだけ見える様に顔を覗かせて、俺の見ている前でさらに小さくなった。

 丁度、ピンポン球に羽が生えたくらいの大きさだ。

「ご主人が料理をしている時は、この大きさで鞄の中で平くなって巾着にくっついてるね。これなら、もしも誰かに見られても、巾着に汚れが付いてるって思われるだろうから大丈夫でしょう?」

「おお、そっか。お前もまだ小さくなれるんだ。うん、それなら大丈夫そうだな。じゃあそれでよろしく」

 笑って鞄の口を締め、柱にある金具に一旦引っ掛けておく。




「それじゃあ搬入はまだかかりそうだし、せっかくだからブラシしてやるよ」

 置いてあった大きなブラシを見つけた俺は、マックスとシリウスの脇のあたりから腹側の、赤の他人にはあまり触らせないであろうあたりを重点的にブラシをかけてやった。

「おお、これまた抜けたなあ」

 足元には、二匹分の大量の抜け毛の塊があちこちに転がっている。

 立ててあったほうきとちりとりで手早く集め、どこに捨てたら良いのか分からないのでひとまず端の方に山にしておく。

「次はニニな」

 良い子座りして待ってたニニにも、腹側から胸元を中心にせっせとブラシをかけてやる。

「おお、これまたすごい量が抜けたぞ。そろそろ夏毛が抜ける時期かな?」

 春ほどじゃ無いが、秋の頃も大量に毛が抜けたのを思い出し、もふもふ度最高の首回りにもしっかりとブラシをかけてやった。

「さて、次は誰かな?」

 だんだん楽しくなってきて、ここへ来た目的を完全に忘れていると、何人かの声が聞こえて厩舎担当のスタッフさん達が戻って来た。

「ああ、申し訳ありません!やりますので、どうぞそのまま!」

 俺がラパンに今まさにブラシをかけていると、戻って来たスタッフさんが、慌てた様にそう言って駆け寄って来た。

 別のスタッフさんが、抜け毛の山に気付き、猫車を持ってきて集めてあった抜け毛の山を手早く片付けてくれた。

「お疲れ様です。もう搬入は終わりましたか?」

 ブラシを返しながらそう尋ねると、笑ったスタッフさん達が揃って頷く。

「はい、もう終わりました。届けられた食材を倉庫や冷蔵室に運ぶのは、店の全員で行うのが決まりなんです。今日はお手伝い頂けてありがたかったです」

「特に今日は、根菜類がまとめて届く日だったので、重かったんですよ。いやあ、本当に助かりました」

 別の人も満面の笑みでそう言ってくれて、一人手伝わなかった俺は、なんだか申し訳なくなったよ。





 他の子達の世話をスタッフさんにお願いして、鞄を持った俺は別の人に案内してもらって裏口から店に入った。

 ここは営業するのは夜だけらしく、午前中に店内の掃除、午後からは食材の整理や仕込みをすると聞き、俺はちょっと焦った。

 あれだけの食材が届いたのなら、きっと今頃、厨房では戦争状態だろう。

「うう、忙しい時に無理言って申し訳ない」

 小さく呟きつつ、とにかくついて行った。

 しかし、案内された厨房には誰もいなくて、それはそれは綺麗に掃除されていて、埃の一つもなくピカピカだった。

 入ろうとしたところで気が付き、思わず足を止めた俺は、用を足してくると言ってトイレへ向かい、サクラに全身ピカピカにしてもらいました。



 あの完璧に清掃済みの厨房に、万一にでも従魔の抜け毛を持ち込むなんて、犯罪だもんな。

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