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西アポンの朝市

 ぺしぺしぺし……。

 ふみふみふみ……。

 カリカリカリ……。

 つんつんつん……。

「うん、起きるよ……」

 もふもふのフランマに縋り付いていた俺は、無意識にそう返事したきり、やっぱり二度寝の海にダイブしたのだった。



「おやおや、寝てしまいましたね」

「本当にもう、相変わらず寝汚いなあ」

 呆れた様な声が耳元で聞こえて、俺はぼんやりと覚醒した頭で考える。

「だって……起きるのがもったいないくらいに、寝心地が良いんだよ、ここ……」

「おお、寝たまま抗議したよ」

 面白がる様な声に、うっすらと目を開ける。

 シャムエル様と、ベリーが二人揃って面白そうに覗き込んでいるのと目が合った。

「ほら、もふもふの寝床は、また今夜の楽しみに取っておきなさい」

 ちっこい手で額を叩かれ、呻き声を上げて胸元のフランマに顔を埋める。

 うん、このふわふわは後頭部だな。



 あれ、平気で俺の胸元に潜り込んでるって事は、もう例の発情期は終わったのか?



 不意に思い当たり慌てて起き上がろうとしたが、緩んだ俺の腕からするりと抜け出したフランマは、素知らぬ顔で庭に出て行ってしまった。

「おはようございます。やっと起きましたね」

「うん、おはようございます」

 まだ寝ぼけていたが、ベリーの声になんとか返事をする。だけどもっと寝ていたくてニニの腹毛に潜り込もうとした。

「これ、いい加減に起きなさい!」

 いきなりちっこい手で思いっきり頭を叩かれて、俺は思わず呻き声を上げて更に潜り込んだ。

「ご主人起きて〜!」

「起きて〜!」

 ご機嫌なソレイユとフォールの呼ぶ声に反応しなかったら、いきなり首筋にいつものジョリジョリが来ました!

「うひゃあ、起きる起きる!」

 慌てて飛び起き、物凄い勢いで喉を鳴らす二匹を順番に撫でまわしてからおにぎりの刑に処してやった。

 腹筋だけで起き上がり、思いっきり伸びをする。

「おはよう。おお、すごい伸びっぷりだな」

 振り返ると、俺が起きたのでニニも起きたらしく、こちらも思いっきり伸びをしたところだった。

 うん、さすがに俺はあそこまでは伸びないよ。



 いつもの様に水場で顔を洗い、サクラに綺麗にしてもらって跳ね飛んでくるスライム達を順番に水場に放り込んでやった。ファルコとプティラも一緒に流れてくる水で水浴びをしている。

 うん、綺麗好きなのは良い事だね。



「そう言えば、西アポンの宿泊所に止まるのって初めてだな。今までっていつも東アポンに泊まってたもんな」

 装備を整えながら、ふと気がつく。

「あ、じゃあこっちの朝市や屋台も初めてじゃん。初めて八百屋でトマトを見つけたのって、確かここだったよな。よし、じゃあ午前中は朝市に行ってみるか」

 剣帯を装着して剣を取り付けたところで、ハスフェルから念話が届いた。

『おはよう、もう起きてるか?』

『おう、おはようさん。今準備が終わったところだよ。朝はどうする? こっちにも屋台は出てるんだろう?』

『もちろんあるぞ。じゃあ行くか?』

『おう。ついでに朝市も見たいぞ』

『じゃあ行こうか。出て来いよ』

『了解』

 笑った声が途切れる。

「ええと、屋台で何か食ってそのまま朝市に行くけど、お前らはどうする?」

「行く行く〜!」

 ニニの声に、慌てた様にマックスも飛び起き、結局全員で出かける事になった。



 廊下で合流して、そのままハスフェルの案内で屋台の出ている広場へ向かう。

「おお、ここも盛況だな」

 真っ先に目に付いた、大きな塊肉を焼いている店を覗いてみた。

 どうやら、焼いた肉を削ぎ切りにして、パンで挟んだのを食べるみたいだ。

 朝からボリューミーかと思ったが、美味しそうだったのでチャレンジしてみる。

「はい、魔獣使いの兄さん。毎度あり」

 満面の笑みの店主が、がっつり削いだ肉を、これでもかとばかりに挟んでくれた。

 うう、これは朝からちょっと多かったかも……。

 笹の葉みたいなので巻いて、そのまま手渡ししてくれたよ。

 コーヒーの屋台で、マイカップにたっぷりと入れてもらい、広場の端で食べてみる。

「おお、美味い。スパイスが効いててめちゃ美味い。多いかと思ったけど、これはいけるな」

 飛び跳ねるシャムエル様にも真ん中部分を齧らせてやりつつ、あっという間に完食した。

「これ、作ってもらえるかな」

 今までに無いパターンだ。これは確保するべきだろう。

 さっきの屋台へ向かい、お願いしたら満面の笑みで引き受けてくれた。

 で、作れるだけ作ってもらい。合計四十個ほど確保出来ました。よしよし。

 定番のサンドイッチ系もいくつか見つけて買い込み、ハスフェル達も一緒に朝市の会場へ向かった。



「おお、東アポンよりも規模が大きいんじゃ無いか?」

 通路の両側には、それぞれの店にあふれんばかりの品々が文字通り積み上がっている。

 新鮮な野菜をはじめ、根菜類や果物等々。目に付いたものを手当たり次第に買い込んでいて、俺はある店に吊るされていたそれに気づいて目が釘付けになった。



「ああ、ニンニク発見!」



 そう、思わず叫んだそれは、紛う事なきニンニクだったよ。

 実は以前、カデリーの朝市でちょっとだけ売っているのを見つけたんだけど、生だった上にあんまり状態が良くなかったので一個だけ試しに買って見たんだ。

 だけど、どうやら保存状態が良くなかったらしく、宿に帰ってバラして見たら半分近くがダメになってて、結局少ししか使えなかったんだよ。

「これはどうだ?」

 真剣に吊るされたそれを見ていると、店番のおばさんが満面の笑みで近寄って来た。

「それは自慢の自家製の白ニンニクだよ。良く乾燥させてあるから、保存も効くし、そのまますぐに使ってもらえるからね」

 そう言って棚の裏に置いてあった箱から、見本のニンニクを取り出して見せてくれた。

「あ、良い感じですね。これ、あるだけまとめてもらっても構いませんか?」

 今まで何処も売っているところを見なかったので、出来れば確保しておきたい。

「ああ構わないよ。なんなら全部買って行っとくれ」

「あ、じゃあそれでお願いします!」

 驚くおばさんに、俺は金の入った巾着を取り出して見せた。

「嬉しいね。もちろんどうぞ」

 そう言って、持って来ていた分を本当に全部売ってくれた。

 検品しながら、そこで今までどこの街でもニンニクが見つからなかったって話をしたら、おばさんが意外な事を教えてくれた。話を聞いて、納得したね。

 なんでも、ニンニク自体は珍しいものでは無いが、自家栽培が殆どで、あまり売っているのは無いのだそうだ。なので売っている物は、今の様に吊るして乾燥させたもので、長期保存が出来る様にしてあるそうだ。

「あ、なるほど、家で栽培しちゃうんだ」

「以前はそうじゃなかったんだけどね。少し前に、生のニンニクが美容に良いって噂が出てね、一斉に皆が作り出したんだよ。それで、乾燥したのが売れなくなっちゃったんだよ。今ではすっかり市場では見なくなったね。だけど、あんたみたいに冒険者の人や、行商で移動している商隊(キャラバン)なんかは欲しがるんでね、こうやって乾燥ニンニクを作って持って来てるんだよ。何処の街でも、一軒くらいは扱ってる店があると思うから、欲しけりゃ頑張って探すんだね」

 けらけらと笑うおばさんにお礼を言って、とりあえず買ったニンニクの束は全部まとめて鞄に押し込みました。



「さて、それじゃあ一旦宿に戻って荷物の整理をして、昼を食ったらマギラスさんのところだな」

 なんとなく買い物に付き合ってくれていたハスフェル達に笑ってそう言い、ひとまず宿泊所に戻る事にしたのだった。

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