やったぜ大量買取!
「それじゃあ、各ギルドで分ける事になったので、全部まとめた数を言うよ」
レオンさんが取り出した紙を見ながら立ち上がる。
アクアゴールドが入った鞄を足元に置いて、俺は座り直した。
「こっちのジェムに関してだが、色は混ぜてもらって良いので、各種類五万個。亜種は二万五千個お願いしたい。素材はあれば一万五千個、もしも数が足りなければあるだけで良い」
レオンさんがそう言いながら指で示しているのは、定番の一割引にした方の数だ。
「あ、それなら大丈夫です。それじゃあまず、こっちを先に出しますね」
幾つ言われるかとちょっと身構えていたが、それくらいなら大丈夫だ。
平然とそう言って取り出そうとすると、慌てた副ギルドマスター達が、何と大きな猫車を大量に持って来てくれた。
工事現場とかでよく見る、一輪の手押し車みたいなアレだ。車輪の後ろに大きな三角形の固定式のスタンドが付いているので、そのまま手を離しても荷台が水平に固定出来るのも同じだ。
「ええと、それじゃあここに出せば良いですか?」
満面の笑みで頷く副ギルドマスター達を見て、俺は鞄を持ち直してジェムをひたすら取り出し続けた。
数は、さっきのレオンさんの声が聞こえていたアクアが数えてくれているので、俺は取り出すだけだ。
あっと言う間に山盛りになる猫車を手早く奥へ移動させて、そこでは呼ばれて入って来た職員さん達まで総出で検品が始まっている。
「ええと、これで普通のジェムは以上ですね。次は亜種のジェムですが……続けて出しても良いですか?」
山積みになっている猫車には、もう空きがない。
「では、こちらにお願いします!」
別の職員さんが持って来たのは、大きな板状の物で、それを手分けして目の前でパタパタと組み立て始めた。
あ、これは見た事がある。運搬業者がよく使っていた折りコンって呼んでたアレだ。
木製の大型の折りコンに、今度は亜種のジェムを大量に取り出して行く。
いやあ、さすがにこれだけの量を一度に出すと何というか……凄い。壮観だね。
素材は、また別に持って来てくれたいつものトレーにこれも大量に取り出して行く。
まあ、素材は有るものと無いものとがあるから、全種類って訳じゃないけどね。
手分けして数えた預り伝票を貰う。ここには俺が赤字で一割引、と書いておいた。
「それじゃあ、次は恐竜のジェムだ。ブラックトライロバイトのジェムは普通種と亜種をそれぞれ五千個、素材の角は混ぜて五千本。シルバートライロバイトとゴールドトライロバイトはそれぞれ千五百個、素材の角も混ぜて千五百個。アンモナイトとシーラカンスのジェムは各三百個。アンモナイトの貝殻も三百。それ以外のトリケラトプスとアンキロサウルス、ステゴザウルス、ラプトル各色のジェムはそれぞれ五十個ずつ。素材は、トリケラトプスの角は各色三十個。アンキロサウルスの棘は各色百二十個。ステゴザウルスの背板は各色百五十個。ラプトルの爪は各色九十個でまとまったよ。どうだ。頑張ったぞ」
得意げに胸を張るギルドマスター達に笑って拍手をして、これまたガンガン取り出して行く。
ほぼ、ハンプールのギルドで買い取ってもらった数と変わらない。また口座の金額が恐ろしい事になりそうだよ。
ううん、それにしても、もうそろそろ深夜の時間帯な気がするんだけど……まあこれが終わるまでは、開放してくれなさそうだね。
諦めて、改めて持って来てくれた猫車に、頑張って全部取り出して行ったよ。
「おお、恐竜のジェムは一つの大きさが違うから、さすがにこれだけまとめて出すと、何と言うか存在感がハンパないぞ」
思わずそう呟くと、レオンさんに笑われたよ。彼にしてみれば、これは夢のような景色らしい。そりゃあ確かにそうだな。
最後に、俺の口座にまとめて振り込んでもらう手続きをして、ようやく解放された時には、正直言って今すぐここで寝られそうなくらいに、疲労困憊だよ。
だって、考えたら朝からハンプールで商談して大量のジェムを渡して、空の旅を経由して全力疾走の駆けっこで西アポンに到着したのは夕方過ぎ。そこからマギラスさんの店で夕食を食べ、ギルドでこれまた大量の商談とジェムと素材の引渡し。そりゃあ疲れて当然だね。
「それじゃあ俺達はもう、休ませていただきます」
「ああ、本当に感謝するよ。ゆっくり休んでおくれ」
恐竜のジェムを手にしたレオンさん達が揃って振り返り、満面の笑みでそう言ってくれた。
お願いだから、夜は休んで下さい。
「はい、それじゃあおやすみなさい」
笑って手を振り、ヘロヘロになった俺は、隣の宿泊所へ戻った。
何だかものすご〜く宿泊所が遠く感じたのは、俺の気のせい……?
「お疲れさん、それじゃあ明日は午前中はゆっくりして、昼を食ったらマギラスの店だな。その様子次第では、もう一泊かも、だな」
「そうだね。じゃあもう本気で眠いから、休ませてもらうよ」
ハスフェルの言葉に、出た欠伸を噛み殺しながら何とか答える。
「おやすみ」
笑った三人の声に手を振り、俺は自分の部屋の鍵を開けて中に入った。
ベリーの足音がして、ランタンに一瞬で火が灯る。
「おお、すごいな」
感心しながら、とにかく防具を外していく。靴と靴下を脱いだところで待ち構えていたサクラの声がした。
「綺麗にするね〜ご主人!」
返事と同時に一瞬で包まれる。解放された時にはもう、綺麗さっぱりだ。
「いつもありがとうな」
こっちを向いている肉球マークを撫でてやる。
「さて、それでは今夜もよろしくお願いします!」
振り返ると、ベッドに既に転がっているニニの腹毛に潜り込む。
すぐに横にマックスが来て俺を挟んでくれる。背中側には巨大化したラパンとコニーがくっ付き、胸元にフランマが勢い良く滑り込んできた。
俺の顔の横に、ソレイユとフォールが並んでくっ付く。タロンはベリーのところへ行ったみたいだ。
「それじゃあ消しますね」
ベリーの声がして、一瞬で部屋のランタンが消える。
真っ暗になった部屋を見て、小さく深呼吸をした俺は、上掛けにしている薄毛布を引き上げて目を閉じた。
「おやすみ。明日はどうなるんだろうな……」
ベリーの笑った気配がしたが、俺はすぐに眠りの国へ気持ちよく旅立っていった。
我ながら、見事なまでの墜落睡眠だね。