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特別価格で大放出!

「全くお前らは、何をやっておるか」

 オンハルトの爺さんの呆れたような声に、床に転がって笑い転げていた俺達は、お互いに縋るようにして何とか立ち上がった。

「はあ笑った笑った。お前らって、実はこう言う、ちょっとした攻撃に案外弱いんだよな」

「誰でもそうだろうが。そんな事言うなら、お前もやってやる」

「やめろ! お前のそのデカい手でやられたら、冗談じゃあ済まないって!」

 俺を捕まえようとするハスフェルの丸太みたいな腕から慌てて逃げて、額を両手で覆ってオンハルトの爺さんの背後に隠れる。

 また全員揃って吹き出す音が聞こえ、俺は振り返ったオンハルトの爺さんに確保され、デコピンされて撃沈したのだった。




「さて、これは難題だな。どれを貰う?」

「ううむ、確かにこれは難題だな。どれを落としても悔いが残りそうだ」



 遊んでいた俺達がようやく落ち着いて座り直し、ギルドの職員さんがいれてくれたお茶をのんびりと飲んでいる間中、エルさんとアルバンさんは、顔を突き合わせて真剣な顔でどれを買うかの相談をしている。

 副ギルドマスターの爺さん達も、揃って腕を組んで机に並べられた見本のジェムと素材を眺めたり手に取ったりしてさっきからずっと唸っている。

 これは、放っておいたらいつまで経っても決まらなさそうだ。



 苦笑いした俺は、机の下でハスフェルの腕を突っついた。



『なあちょっといいか?』

 聞かれたく無い相談だったので、トークルーム状態になるように、全員に向かって念話で話しかける。

『おう、わざわざどうした?』

 ハスフェルが、お茶を飲みながら知らん顔で応えてくれる。

『あのさ。ちょっと相談なんだけど、予算的には、もう充分すぎるくらいに口座に入ってるから、シルヴァ達も一緒に集めてくれた、あのとんでもない量の定番の小動物や昆虫、爬虫類のジェムと素材なんかは、割引価格で出してやっても構わないか?』

 俺の提案に、驚いたようにハスフェルがカップを置いて俺を見る。

 ギイとオンハルトの爺さんも聞こえているので、同じく驚いて俺を見ている。

『いやだって、正直言って皆のおかげで、アクアとサクラの中にはとんでもない数のジェムと素材があるんだよ。バイゼンヘ行った時の為に、地下迷宮や、あの飛び地での貴重な素材やジェムは置いてあるから、逆に定番のジェムとか素材なんかは、今必要なところへ回してもらいたいんだよ。俺が持ってても、文字通り宝の持ち腐れだしな』

『良いのか?』

『良いのか?』

『あれは、お前の為にと皆が集めたものなんだぞ』

 真顔の三人に言われて、俺はもう笑うしか無い。

『俺は構わないよ。自分で使う量なんてたかが知れてるし、正直な所、ちょっと持て余してるって言ってもいい量だからね。放出して役に立つならそれが良いよ。だけど、タダで渡すとそれはまた要らぬ軋轢を生みそうだしさ。それで考えたんだよ』

 俺の言葉に、三人が同時に頷く。

『例えば俺が、ここでタダで大量のジェムを寄付していけば、他から、ここにも寄付してくれと言われる可能性は否定出来ないだろう?』

 俺の説明に、また三人が小さく頷く。

『だからさ。それなら今だけは大量にジェムや素材があるから、有るだけ割引しますって言った方が良いと思うんだよな。例えば定番のジェムなら、ギルドの評価価格の何割引とかって、先に決めておけば良いと思うんだけど、そう言うのって……この世界でも有りだよな?』

『成る程。あらかじめ上限有りだと言っておけば、いつ止めるのも自由だな』

 感心したようなハスフェル達の言葉が届く。



 実を言うと、クーヘンの店のジェムの価格も、ギルドが売ってる価格よりも安めに設定されているのだ。

 それに、普通なら安いとは言え手数料を払って割ってもらうジェムをあらかじめ割っておき、単価を下げてバラ売りしたり、手数料分をサービスした値段で一個分のジェムを既に割って販売する。いわば薄利多売を狙っているわけだ。



『ジェムや素材の割引きなんて聞いた事が無いから、それこそ評価価格の一割引いてやるだけでも泣いて喜ぶと思うぞ』

 苦笑いするギイの言葉に、オンハルトの爺さんが笑って頷いている。

『ええ、半額とまでいかなくても、四割ぐらいは引くつもりだったのに』

 俺は卸価格で売るつもりだったんだが、それは三人から真顔で止められた。

 何事にも、やって良い事と悪い事があるらしい。まあ、確かに相場の値段は無視しちゃ駄目だって事だよな。

『じゃあ、一割引で言ってみるか』

『良いと思うぞ』

 三人が揃って頷いてくれたので、俺は顔を上げてエルさん達を見た。



「あの、ちょっと提案があるんですけど、よろしいですか?」

 俺の言葉に話すのをやめた二人が、揃って同時に振り返る。

 何そのシンクロ率。



「ええと、実を言いますと、仲間達のおかげで相当量のジェムが手に入って、目標にしていた口座の残高も達成しちゃったんですよね」

 にっこり笑ってギルドカードを見せる。



 嘘です。

 別に金額を決めて貯金してたわけじゃ無いけど。冗談抜きで山程有るので良い事にする。



「なので、感謝の特別価格にしようと思うんですけど、如何ですか?」

「と……特別価格だって?」

 あれ、何故だかビビってる?

 俺の予想に反して、二人とも、いや副ギルドマスターの爺さん達まで困ったように俺を見ている。

『おおい、彼らの間で特別価格って言うと、祭り当日なんかに一部の店がやる、とんでもなく高い便乗値上げの事を言うんだよ。ここははっきり割引価格って言ってやれ』

 笑ったオンハルトの爺さんの念話が届き、俺は慌てて言い直した。

「ああ、言い方が悪かったですね。ここは感謝を込めてギルドの評価価格の、に……いえ、一割引にしようと思うんですけど、如何ですか?」

「一割も引いてくれるのか!」

 二人揃って物凄い食い付きっぷりです。

 後ろの爺さん達は、何故だか揃って雄叫びなんか上げてるし。



「心から感謝するよ。それじゃあ数をまとめるから、もう少し待っててくれ!」

 目を輝かせたエルさんにそう言われて、結局俺達は、揃って二杯目のお茶を飲む事になった。




 長い相談の結果、冒険者ギルドと商人ギルドに船舶ギルドまで加わって買い取り連合が組まれ、大量のジェムと素材を特別割引価格で販売する事になった。

 山積みになったジェムと素材の山を見て、皆、もうこれ以上無いくらいに大喜びしてくれたので、何だか、ものすごく良い事をした気分になったのは内緒だよ。

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