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贈り物の交換

「なあ、今度は買うからさ。俺でも身に付けられそうな物って何かあるか?」

「駄目ですよ、贈り物にしないとお守りになりません。もう一つ、以前私が作ったドラゴンのペンダントがありますから、今度はそれを贈らせてください」

「ええ、貰ってばかりで駄目だって」

「良いんですよ。これは御守りなんですから!」



 ようやく落ち着いたクーヘンと俺は、さっきから延々とこのやりとりを繰り返している。

 お金を払いたい俺と、贈るんだと言って聞かないクーヘン。

 見兼ねたハスフェルが仲裁に入ってくれた。

『ケン、それじゃあこうすれば良い。せっかくの好意なんだからそれは貰っておけ。そして、地下迷宮で見つけたアンモナイトの貝殻をお前からクーヘンに贈れば良い。あれなら、そのまま飾っても良いし、何なら郷に送って細工物の材料にしてもらっても良かろう?』

 念話で届いた言葉に思わず返事を仕掛けた俺は、慌てて口を噤み、誤魔化す様に咳払いをしてから仕方がないかの様に頷いた。

「分かった、じゃあ戻ったらそのペンダントを見せてくれるか」

「もちろんです。それじゃあ、家へ戻ってから話しましょう」

 最後の口直しの果物が配られ、そこでいったんこの話はおしまいになった。




 大満足の食事を終え、揃ってクーヘンの店へ戻る。

 そのまま、以前各自が内装を準備した部屋に当然の様に案内された。

「だって、ここは貴方達の為に用意した部屋なんですから、使ってくださらないと勿体無いですよ」

 笑ったクーヘンがそう言い、オンハルトの爺さんは、別に用意してある客室に案内した。

 部屋に荷物を置いた俺達は、クーヘンやお兄さん一家も一緒に、何と無く一番広い居間として使われている部屋に集まる。

 俺はいつもの鞄を背負ったままだ。だってここにはアクアゴールドが入ってるんだからさ。

 その部屋には、クライン族仕様の小さな椅子と机の他に、俺達サイズの机と椅子も用意されて、何だか嬉しくなった。




「ケン、これなんですが、貰っていただけますか。今見ると、これも拙い作ですね。お恥ずかしい」

 恥ずかしそうにクーヘンが持って来てくれた箱を開くと、前回の物とは違い、平らな円形の輪の中に、横を向いたドラゴンの姿が細かく彫り込まれているペンダントで、まるで生きているかのように立体に見えている。

 これも見事な作品だと素直に思った。



 シャムエル様も笑顔で頷いてくれたので、深呼吸をした俺は、大きく頷いて貰ったペンダントを革紐に通して結んで首に掛けた。

 それを見て、笑顔になったクーヘンに、俺も笑って頷いた。

「素敵なペンダントをありがとう。じゃあこれは新しい御守りとして貰って行くよ。代わりといっちゃあ何だけど、俺からも贈り物をさせてくれるか」

 何でもないことの様にそう言うと、安堵したようなため息を吐いたクーヘンが嬉しそうに頷いた。

「分かりました。贈り物の交換ですね。良い考えだと思います」

「よし、じゃあそれで商談成立だな」

 笑った俺が差し出した手を、苦笑いしたクーヘンがしっかりと握り返す。

「それで、何をくださるんですか?」

 興味津々のクーヘンの言葉に、俺は黙って考える。



 さて、どれを渡すべきだ? と。



「ええと、ちょっと待ってくれるか」

 鞄の中にいるアクアゴールドを覗き込む。

「なあ一番大きなアンモナイトって、どれくらいの大きさだ?」

 小さな声でそう尋ねた時、頭の中にベリーの声が聞こえた。

『それなら、クーヘンにはこれをあげてください。真珠層が一番分厚いアンモナイトですよ。細工師ならその値打ちは分かると思います』

 ゆらぎがすぐ近くに来て、一瞬鞄に触れた。

『渡しておきましたから、どうぞ』

 笑った声が念話で届き、ゆらぎが離れる。

『ありがとう、じゃあそうするよ』

 お礼を言って、クーヘンを見た。

「じゃあ、出して良いかな?」

「ええ、何ですか。勿体ぶらずにだしてくださいよ」

 笑ったクーヘンに俺は頷いて鞄に手を入れた。



「今、ベリーから貰ったアンモナイトを出してくれるか」

 小さくそう言うと、アクアがサッと出してくれた。

 それは直径50センチ程の、小振りなアンモナイトだった。

 以前見たアンモナイトは、どれも平たい巻き貝だったのだが、これはサザエみたいな縦型の円錐形の巻き貝で、かなり立体的で個性的な形だ。

「ケン……まさかそれは……」

「ええと、その死にかけた地下迷宮で手に入れた一品だよ」

 誤魔化すように笑って、机にそれを置く。

 外側部分は渦巻の背中部分にぐるっとゴツゴツとした短い突起があり、一見した所まるで岩の塊みたいだ。全体にゴツゴツした背の低い円錐形みたいになっている。

「岩? ……違いますね。何ですか。これは?」

 不思議そうなクーヘンがそう言って机の上に置いた岩みたいなアンモナイトを見る。

 しかし、後ろにいたルーカスさんは、俺がそれを取り出した瞬間から目を零れんばかりに見開き、言葉も無く固まっていたのだ。



「ケンさん……まさか、それは……」

 ようやく絞り出すようにそう言って、よろめく様にして机に駆け寄る。

「兄さん、どうしたんですか?」

 驚いたクーヘンが、駆け寄って来たルーカスさんを慌てて支える。

「交換だからな。もう、これを貰ったんだからそれはクーヘンの物だよ」

 お兄さんが何か言うより先に、そう言ってもらったペンダントを胸当ての中に入れる。

「ありがとうな、今度は無くさない様にするよ」

 笑ってそう言うと、クーヘンは分かりやすく笑顔になった。

「大丈夫ですよ。もしもまた無くしたら、また新しいのを差し上げますよ。何度でもね」

 笑って互いに拳をぶつけ合う。

「ケンさん! いけません。こんな、こんな立派な物を頂くなんて!」

 ようやく我に返ったらしいルーカスさんの叫びに、クーヘンが不思議そうに振り返る。

 無言でルーカスさんが岩の塊を持ち上げ、下側の口の内側部分を見せる。

 突然現れた物凄い虹色の輝きに、全員が絶句する。



 ええと、自分で出して言うのも何だが、ちょっとやり過ぎたかも……。

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