ソウルフード登場!
「よしっと、これでいいかな」
豆腐屋を二軒まわって大量購入した後、教えてもらった味噌と醤油を売っている店へ行き、店主おすすめの味噌と醤油を大量に購入した俺は、鞄を持ち直して店を出たところで大きく伸びをした。
醤油はいわゆる一升瓶サイズの大瓶を大量購入した。
だって、ここの醤油は、他で買った醤油より色も薄くて風味もバッチリ、すごく美味しかったんだよ。
薄口醤油程ではないが、これなら煮物が黒くならずに済みそうで、ちょっと嬉しくなったよ。
味噌は、これも味見させてもらったら思った以上に美味かったので、相談した結果、小サイズだが樽があったのでそれを買う事にした。これなら当分の間在庫の心配はしなくて済みそうだからね。
夜で良ければ配達してくれると言うので、ギルドの宿泊所への配達をお願いして、前金で半分払っておいた。
宿泊所に戻った俺は、窮屈な防具を脱いで身軽になると、しっかり手を洗ってサクラに綺麗にしてもらった。
「それじゃあ作って行くとするか」
サクラに頼んで取り出した材料を見て、俺は満足気に頷いた。そう、今から作るメニューには必須の材料である長芋だ。
長芋って、そのまま皮を剥いて刻んで醤油をかけても美味しいんだけど、すりおろして使うとまた美味しいんだよな。
今日の朝市でこれを見つけて、今から作るメニューを思いついたのだ。
それは粉物の代表! 関西人のソウルフード。ずばり! お好み焼きである。
「ええと、これの皮を剥いてすりおろして欲しいんだよ。で、ここに出してくれるか」
一応、道具屋で大きめのすり鉢とすりこぎも見つけてあるので、見本は俺がするべきだろう。すり鉢を見せながらそう言うと、アクアがサクッと長芋をすりおろしてくれた。
「こんな感じで、すりおろした長芋をすり混ぜて空気を含ませるんだ」
すりこぎでせっせとすり混ぜながら説明すると、レインボースライム達とクロッシェが全員揃ってガン見している。
「それでこんな感じでふんわりしたら、卵を割り入れる。で、また混ぜるんだよ」
説明しながらアクアが割ってくれた卵を順番に入れてまた混ぜる。
ゴリゴリと音を立てながら、卵が馴染んで全体に黄色っぽくなるまで混ぜ続けた。
「やるやる!」
アルファ達が大はしゃぎし始めたので、後は任せて俺は粉を混ぜる事にした。
「ええと、小麦粉に塩、それから鰹節の粉末、それを二番出汁で混ぜる」
泡立て器を使って、まずは粉の状態で綺麗に混ぜ合わせてから二番出汁と水を一対一で混ぜて入れていく。
「ダマにならないように綺麗になるまで混ぜますよ」
そう呟きながらしっかり混ぜ、その間にサクラとアクアには他の材料を切っておいてもらう。
「ご主人、こんな感じで良いですか?」
綺麗に混ざった長芋の入ったすり鉢をアルファとベータが持ってくる。
「おお、完璧。それじゃあ、ここにこぼさないように入れてくれるか」
綺麗に混ざった小麦粉の持っていたボウルに長芋を入れてまた混ぜる。
滑らかになるまで綺麗に混ぜたら、一旦そのまま置いておき、平たいフライパンに菜種油を入れて火を付ける。
別の小さなお椀に小麦粉と塩少々を入れて、水で緩めに溶いておき、油が熱くなって来たら箸で適当に散らして天かすを作る、要するに天ぷらの衣だけの粒々だ。
それを小さな金ザルですくって油を切って、これもまとめて置いておく。
「ええとこれで全部かな? あ、サクラ、豚肉の油が多いところ、バラ肉を生姜焼きサイズに切ってくれるか」
ボウルに入った材料を確認しながら、肝心なものを忘れているの気付いて慌てて出してもらうように頼んだ。
平たいフライパンに、軽く油を引いて弱火にかけておく。
「で、材料を混ぜるぞ!」
手にしたお椀に、みじん切りにしたキャベツをたっぷり掴んで入れ、青ネギもたっぷりと入れる、卵を一つ割り入れて、天かすと刻んだ竹輪、それから乾物屋で見つけた小さな干し海老も入れてみる。色は付いてないけど桜海老代わりだ。
「イカも欲しいんだけど、さすがに無かったなあ。探すなら海沿いの街かな?」
そんな事を呟きながら、小麦粉と長芋を混ぜた種をたっぷりと入れて一気に混ぜていく。
それから、色は薄いが紅生姜も細かく刻んだのをひと摘み入れる。
仕上げに鰹節の粉末を振り入れて一混ぜしたら、暖まったフライパンにこんもりと丸くなるように流し入れる。
「で、ここに豚肉を乗せて蓋をするっと」
切ってもらった厚めの豚バラ肉をたっぷりと並べて蓋をしておく。
「さすがにお好み用のコテは無かったけど、これでなんとかなるだろう」
手にしたのは二本の大きめのフライ返しだが、面が平らで真っ直ぐなので、お好み焼きをひっくり返すのにも使えるだろう。
しばらくしてチリチリと音がして来たら、蓋を開けて左右に持ったフライ返しで一気にひっくり返す。
バッチリ綺麗にひっくり返ったぜ。
「よし、焼け具合もバッチリじゃん!」
綺麗に焼けた表面を見て、ちょっとドヤ顔になったね。
そのままもう一度蓋をして、肉を乗せた面もしっかり焼いていく。
「サクラ、大きめの平たいお皿を出しておいてくれるか」
「じゃあこれだね、はいどうぞ」
とりあえず一枚出してくれたので、もう一度ひっくり返して肉の付いた面を上にして、中までしっかり焼けている事を確認してからお皿に乗せて、すぐにサクラに預かってもらう。
「これはお好み焼きだよ。どんどん焼くから冷めないうちに預かってくれるか」
「はあい、じゃあ次のお皿を出しておくね」
サクラが出してくれたお皿を置いて、次を作ろうと振り替えると、レインボースライム達が、既に材料を綺麗に混ぜ合わせたお椀を差し出してくれていた。
「お前ら最高だな。よし、じゃあどんどん焼くから準備はよろしく!」
笑った俺は、もう後二台コンロを取り出して、それぞれにフライパンをセットして、後はもうひたすら材料が無くなるまでお好み焼きを焼き続けたのだった。
「よし、これが最後の一枚だな。お、ほぼ材料が綺麗に無くなったな」
適当に予想して材料を準備したが、ほぼ完璧な目分量だったようだ。
後半の何枚かはチーズ入りや、刻んだ肉を混ぜて入れたのも焼いてみた。それから思い出して焼きそばを少し入れたモダン焼きも何枚か作ったぞ。
「まあこれも、ハスフェル達は食べるかどうか分からないから、駄目なら俺が食うよ」
最後に焼いたチーズ入りの一枚だけを残して、後は全部サクラに預かってもらった。
とんかつソースとマヨネーズ、それから鰹節と青のりを出してもらい、コテはないので諦めて箸で食べる事にする。
「ちょっと遅くなったけど、昼飯にお好み焼き!」
そう言って、とんかつソースとマヨネーズを塗り、鰹節と青のりをたっぷり振りかける。
「うわあ、何それ、動いてる〜〜!」
興味津々で見ていたシャムエル様が、突然そう叫んで俺の腕にしがみついた。
「あはは、子供みたいな事言ってる。これは薄く削った鰹節が熱々の湯気に揺らめいてるだけで、別に害はないって」
笑ってふかふかの尻尾を突っついてから、いつもの祭壇にお好み焼きと冷えた麦茶を並べた。
「これはお好み焼きです。熱いうちにどうぞ」
目を閉じてそう言い、いつもの収めの手が、俺の頭を撫でるのを感じた。
お好み焼きと麦茶を撫でて消える収めの手を見送ってから、お皿と麦茶の入ったグラスを持って席に着く。
「いただきます!」
手を合わせてそう言ってから、横を見る。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ!! わっしょい!」
お皿を持って、わっしょいわっしょいと、これまた新バージョンのダンスを踊っていたシャムエル様からお皿を受け取る。
フライ返しで真ん中から二つに押すようにして切り分け、豚肉の付いた真ん中の所を箸で大きく一切れ取ってやる。
盃には麦茶を入れてシャムエル様の前に並べた。
「はいどうぞ。熱いから気をつけてな」
「うわあい、美味しそう! いっただっきま〜す!」
お皿を両手で持ってそう叫ぶと、やっぱり顔面からお好み焼きにダイブしていったよ。
それを見ながら、俺も笑って自分の分を口に入れたのだった。
うん、やっぱり母さんのレシピで作るお好み焼きは美味しい。
懐かしさのあまりちょっとだけ出た涙も一緒に飲み込んで、俺は久しぶりの懐かしい味を堪能したのだった。