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夕食はカツカレー

 スライム達に準備してもらった材料をアクアとサクラに切ってもらい、沸かしたお湯で順番に軽く下茹でしていく。

「レンコンもどきとゴボウもどきは、お酢を入れて茹でるんですよっと」

 この辺りは、定食屋で下ごしらえを手伝ってたから適当でも出来る。

「今考えたら、料理のノウハウを教えてくれた定食屋のご主人と奥さんに感謝だな。俺、初めてバイトに入った時にキュウリの皮を剥いてって言われて、全部綺麗に剥いて大笑いされたんだよ。あの表面のボコボコを軽く削るだけで良いなんて、その時初めて知ったんだっけ」

 レンコンをザルに取りながら小さくそう呟き、あの時の小さくなったきゅうりを見たご主人の顔を思い出して俺は思わず笑った。



 下味をつけた鶏肉を深めの鍋に入れて、まずは軽く油を敷いて炒めて火を通す。

「火が通ったら下茹でした具材を入れていくよっと」

 独り言で手順を確認しながら材料を入れていき、最後に一口サイズに切った厚揚げを入れる。

「で、ここにさっきのお出汁を入れるっと」

 温めたお出汁を入れて、これも落とし蓋をして十分ほど煮たら完成だ。

「あ、そろそろ夕食の時間じゃね? まだ来ないけど、ハスフェル達は何してるのかな?」

 お鍋に蓋をしながら呟くと、蓋の上にシャムエル様が現れた。

「武器や装備の手入れをしたりしてるね。ギイはもう終わってうたた寝してるよ」

 そう言って、もふもふの尻尾の手入れをしながら鍋を見下ろす。

「で、このお鍋の煮物はまだ食べないの?」

 そう言いつつも、さり気なく小皿を取り出すあたり、味見する気満々じゃん。

「今日は食べないよ。こういう煮物は、一旦冷ましてからもう一回火を入れたほうが味が染みて美味しくなるんだよ。だから、後でもう一回火を入れて、食べるのは明日以降だな」

「なあんだ。じゃあ、夕食は何にするの?」

 これまた興味津々でそう聞かれて、俺は最初に温めて置いてあったカレーの入った大鍋を指差した。

「今日もカレー。ただし昨日のとは全然違うよ。あいつらの意見も聞きたくてさ」

 そろそろ念話でハスフェル達を呼ぼうと思ってたら、その前に本人から連絡が来た。

『なあ、腹が減って来たよ。そろそろそっちへ行っても良いか?』

『おう、そろそろ呼ぼうかと思ってたところだよ。どうぞ』

『じゃあ行かせてもらうよ』

 嬉しそうな声が聞こえた直後に、ギイとオンハルトの爺さんからも同意する声が届いて、そっちにも返事をしておいた。



「じゃあ、これは一旦置いておいて、もう一回カレーを温めておくか」

 カレーの大鍋を、火をつけたコンロに乗せてかき混ぜてる。

「サクラ、サラダセットとサラダボウル、それから大きめのお皿を出してくれるか」

「はあい、これだね」

「それから、おからサラダと切ったトマト。後は、とんかつを……七枚出してくれるか」

 あいつらなら二杯は余裕で食うだろうから、とんかつも二枚ずつ用意しておく。

 俺はもちろん一枚あれば十分だって。

 とんかつを切ろうとしたら廊下で何やら話をする声が聞こえて、俺は顔を上げた。

「開けて……あ、クロッシェは戻れよ!」

 扉の近くにいたアクアのすぐ側にクロッシェが出ていて、俺は慌てた。万一、廊下にハスフェルたち以外に誰かいたら大変だ。

 その瞬間、クロッシェがアクアにくっついて消える。

「よし、大丈夫だな。開けてくれるか」

 アクアが扉の鍵を開けると、いつものご飯屋さんの声が聞こえて、俺は思わず安堵のため息を吐いたよ。

 それからパン屋さんの声も聞こえていなくなる。

「おおい、ご飯とパンの配達が来てたぞ」

 そう言って、ハスフェル達が抱えた大量のご飯とパンが入った箱を並べてくれる。

「ああ、受け取ってくれたのか。悪かったな」

 どうやら、今日のパン代も誰かが払ってくれたみたいだ。

 サクラが、届いたご飯とパンをガンガン飲み込むのを見てから、炊きたてご飯を出してもらう。

「サラダは好きに取ってくれよな」

 とんかつを切りながらそう言うと、ハスフェルが手元を覗き込んできた。

「あれ、サラダは別に取るのか?」

 いつもとんかつの時は一つのお皿に盛り付けていたので、そう思ったのだろう。

 笑った俺はカレーの入った鍋を見せた。

「今夜は、カツカレーだよ」

「カツカレー?」

 三人の声がハモる。

「おう、まずはお皿にご飯を入れます」

 縁が少し上がった大きく深めのお皿の真ん中に、昨日と同じように、別に取り出したお椀にご飯を入れてパカっとお皿に伏せる。

 お皿の真ん中に出来た型取りした山盛りのご飯を見て、また三人が喜んでる。やっぱり子供かよ!

「ここに、とんかつを乗せます」

 ご飯に半分乗るようにして、一枚分のとんかつを並べる。

「で、ここにカレーをたっぷりとかけます!」

 温めたカレーの鍋の蓋を開け、お玉ですくってとんかつの上にたっぷりとかけてやる。

「混ぜながらどうぞ。昨日のとはまた違うからさ」

 三人に渡しながら説明すると、スプーンを手にした三人は分かりやすく笑顔になった。

「これは美味しそうだな。いただきます」

 それぞれ手を合わせて食べ始める。

 それを見ながら、俺は自分の分を手早く用意していつもの祭壇にサラダと一緒に綺麗に並べた。

「それから、これもな」

 サクラに出してもらった冷えたビールを開けて、新しいグラスに注ぐ。

「今日はカツカレーです。これも辛いから好みがあるかもです」

 そう呟いて目を閉じて祭壇に手を合わせる。

 いつもの撫でられる感覚の後に目を開けると、カレーを撫でたいつもの収めの手が消えていくところだった。

「よし、食うぞ」

 自分の前に、祭壇からお皿とビールを持ってきて、もう一度手を合わせてから食べ始めた。

 待ち構えていたように、小皿を持ったシャムエル様が踊り出す。

「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」

 今日のダンスはなかなかに激しい。最後に両足を前後に開いて体を半捻りにしたポーズで止まる。

 尻尾が上手い具合にバランスを取るかのように床に平たく伸びている。

「はいはい、今日も格好良いぞ」

 笑って差し出されたお皿に、ご飯ととんかつを一切れ、それからカレーもたっぷりとかけてやる。ご飯の横に、おからサラダをレタスの上に乗せて添えてやった。

「はいどうぞ。カツカレーとサラダだよ」

 それから、嬉々として取り出したショットグラスに、冷えたビールも入れてやる。

「わあい、昨日から食べてみたかったんだ。いっただっきま〜す!」

 両手でお皿を持ったシャムエル様は、そう言うとやっぱり顔面からお皿にダイブしていった。

 俺だけじゃなく、見ていたハスフェル達まで揃って噴き出し、咳き込む音が聞こえた。

 カレー食っててむせたら、鼻の奥とか痛そうだな。

 他人事なので、笑ってスルーしてせっせと自分の分を食べ始める。

 水を飲んで落ち着いたハスフェル達も、笑ってまた食べ始める。

「昨日のとは、全く違うね。これも美味しい」

 嬉しそうなシャムエル様の声に、ハスフェルだけでなく、ギイとオンハルトの爺さんも笑顔で頷いている。

 どうやら、定番カレーライスも気に入ってもらえたみたいだ。

「足りなかったら、お代わりもあるからな」

 食べながらそう言ってやると、揃って嬉しそうな顔になった。



 結局、俺が半分ほど食べ終わったところで三人分のお代わりを用意してやり、食べ終わるのはほぼ同時だった。

 お前ら、食う量が多い上に早食いって……。

 食後のデザートに、飛び地の甘いリンゴを出してやりながら、もう笑うしかない俺だったよ。

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