もふもふ復活作戦!
「それじゃあ今度こそ、本当に戻るぞ。お疲れさん」
ハスフェル達が声を揃えてそう言い、それぞれの部屋に戻って行った。
「あはは、なんだかものすごく疲れたよ」
三人を見送り、閉まった扉を見ながらソファーに座り込んで小さく笑った俺は、改めてフランマとベリーを見た。
揃って苦笑いしながら、俺を見ている。
「もう、腹は一杯になった?」
手を伸ばしてフランマを撫でながら聞いてやると、フランマは嬉しそうに目を細めて俺に頬擦りするみたいに擦り寄ってきた。
「おかげでお腹一杯だよ。これで一晩寝たら、もう完全回復ね」
「そっか、だけどその前に、ちょっと待っててくれるか?」
そっと優しくフランマを撫でた俺は、にっこり笑って立ち上がった。
サクラから大きめの手拭き用の布を出してもらった俺は、それを水場へ行って濡らして、軽く絞って戻ってきた。
「これでどうだ! 題して、もふもふ復活作戦!」
笑って中型犬くらいの大きさになってるフランマを抱き上げて、ソファに座った俺の膝の上に乗せる。
「何? 何をするの?」
不思議そうにしているフランマの頭に、濡れた布を大きく広げて被せてやる。
「はい、おとなしくじっとしててくれよな」
両手で布ごとフランマの毛を揉むみたいにして拭いてやる。
頭から首の部分が終わればそのまま体全体も同じように、一度逆毛を立てるみたいに擦ってやり、それから今度は綺麗に撫でつけるみたいにして拭いてやる。
そのまま、ふかふかの尻尾も同じように毛並みに逆らうように拭いてから、改めて毛並みに沿って撫でるようにして拭いてやる。
「最後は足とお尻!」
笑って、大喜びで悶えているフランマの脚を一本ずつ綺麗に拭いてやり、最後にこれまたフカフカのお尻の部分も綺麗にしてやる。
もう一枚出してもらった乾いた布で、もう一度、顔から順番に乾拭きしてやれば終了だ。
「ほら、ふかふかのフランマ復活だ!」
多分、自分でもグルーミング出来るんだろうけど、俺がやってやりたかったんだよ。って事で、以前、時々ニニにしてやってたみたいに濡れタオルで全身くまなく拭いてやった。
改めて抱きしめると、復活した最高のふかふかの毛に俺は埋もれた。
「ああ、これ最高だな……」
気持ち良くもふもふに埋もれて満喫していると、いきなり大きな何かにのし掛かられて悲鳴を上げた。
「ご主人ずるい! 私にも〜!」
ニニが物凄い力でグイグイ押してきて、俺はフランマごと潰されそうになって笑いながら悲鳴を上げた。
「分かった分かった! だからちょっと待てって! ステイ! ステイ!」
しかし残念ながら猫にステイは効かない。
転がるようにしてニニから逃げた俺はフランマを下ろしてやり、もう一度濡れた布を持って水場へ行った。
下の水槽でしっかり濯いで抜け毛を取ってから、一度絞って浮いた毛が流れるのを待つ。それからもう一度洗って緩めに絞って振り返った。
「ほら、おいで」
突進してくるニニを、広げた布で受けとめ、そのまま顔から首回りをしっかりと拭いてやる。さっきのフランマと同じように背中、お腹側、尻尾、そして最後に脚とお尻まわりと、力を込めて拭いてやった。
ニニは終始ご機嫌で喉を鳴らしていたよ。
しかし、綺麗そうに見えたが案外汚れていて、途中、布が汚れて何度も水で濯いだ程だった。
そして全部終わる頃には、俺の手が怠くなって来た程だった。
さすがに、この大きさを拭いてやるのは体力勝負だよ。
だけど、改めてアクアが綺麗にしてくれた乾いた布で乾拭きしてやると、もうこれ以上無いくらいにふかふかのピカピカになったニニが完成した。
「うわあ、これ最高だな。苦労した甲斐があるよ!」
力一杯叫んで大きな首に抱きつく。
「ああ、このもふもふ……最高かよ……」
ニニが鳴らす喉の音を聞きながら寛いでいると、なにやら視線を感じてふと隣を見る。
なんと、マックスが目を輝かせて良い子でお座りしている。しかし、その尻尾はものすごい勢いでブンブン左右に振り回されていてバタバタと音を立てている。
そしてその隣では、これも目をキラッキラに輝かせたラパンとコニーを筆頭に、従魔達全員が全員マックスと同じように良い子でお座りして並んでいたのだ。
この期待に満ち満ちた視線を無視出来る奴を、俺は知らない。
まあ、まだ寝るには早い……確かに、フランマとニニだけやって、他の子にやらないなんて不公平だよな!
って事で、まず、身体の大きなマックスは庭に出てもらって、自分が使うつもりで買ってあった大きめのブラシで、全身をブラッシングしてやった。
もうどれだけ毛が抜けたかは……積み上がった抜け毛の塊の山を見て、ちょっと本気で大笑いしたよ。
うん、異世界でもたまにはブラッシングもしてやれって事だな。よし、今度街へ出たら、従魔達用に、もっと大きなブラシを探してみる事にしよう。
マックスの抜け毛の山は、スライム達があっと言う間に片付けてくれた。
その後は、まあ小さい子達だからそれ程苦労も無く拭いてやる事が出来ると思ったら甘かった。
ソレイユを拭いていたら、フォールが邪魔しに来るし、フォールを拭いてたらソレイユが邪魔をする。ラパンとコニー、ファルコとプティラも全く同じで、普段はすごく仲が良い癖に、こう言うときだけは相手が構われてると何故だか我慢が出来ないらしい。
「こらこら、だからちょっとそこで待てろって!」
頭突き攻撃に始まり、腕の間に顔を突っ込んでくる。拭いている布で遊ぼうとするなど、数々の邪魔攻撃に晒されつつ、ようやくソレイユとフォール、ラパンとコニー、ファルコとプティラまでは拭き終わった。モモンガのアヴィは簡単に拭いてやれたし、良い子で待っていたタロンも楽に拭いてやれた。
セルパンは蛇サイズになってもらって鱗を綺麗に拭いてやったよ。多分、作業自体はセルパンが一番楽だったと思う。
最後にスライム達を全員水場へ連れて行って、一匹ずつおにぎりの刑にしてから水槽に放り込んでやった。この時ばかりは大喜びでクロッシェも姿を表していたから、一緒におにぎりの刑にしてから水槽に放り込んでやったよ。
こうしておけば、抜け毛で汚れた水槽も、全部スライム達が綺麗にしてくれるからな。
「はあ、これだけ一気に拭いてやったら、さすがに疲れたな」
大きく欠伸をして、靴と靴下を脱ぐ。
「サクラ、綺麗にしてくれるか」
正直かなり汗をかいてる。それに、袖口の部分やお腹の辺りは跳ねた水で濡れている。
気付いてそう言うと、水場から跳ね飛んで来たサクラが一瞬で俺を包んで綺麗にしてくれた。
多分、スライム達に頼めば、さっきの俺みたいな事をしなくても、従魔達の毛並みだってあっという間に綺麗なったんだろう。
だけど、あれは大事なスキンシップの一つだからな。
「いつもありがとうな」
そう言って撫でてやり、ベッドを振り返った。
ニニとマックスを始め、全員が目を輝かせて俺を見ている。
「では、綺麗になったもふもふパラダイスに入らせていただきます!」
笑顔でそう言い、文字通りニニとマックスの間に飛び込んだ。巨大化したラパンとコニーが俺の背中側に、フランマがもの凄い勢いで突っ込んできて俺の腕の中をキープ。出遅れたタロンは俺の腕の上に張り付いた。ソレイユとフォールは俺の顔の横で丸くなり、ファルコとプティラは定位置の椅子の背中に、アヴィはマックスの頭の上で丸くなった。どうやら最近はここが寝る時の定位置らしい。
うん、アヴィは小さいから、もしも寝ていて踏んだりしたら大変だから離れて寝ててくれよな。
「じゃあ消すね」
アクアの声がして、ランプが消される。
「うん、おやすみ……」
もふもふの海に撃沈した俺は、あっという間に眠りの国へ旅立って行ったのだった。
「良いなあ……」
「ねえ、良いよねえ。私も、して欲しかったなあ」
真っ暗な中、小さく呟かれたベリーの言葉と、それに同意するようなシャムエル様の言葉は、残念ながらあっという間に寝てしまった俺の耳には届かなかったのだった。