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その後の話とお疲れ様

「アチアチ、こんなに沸かしてどうするんだよ」

 小さく呟きながら煮えたぎったヤカンを一旦火から下ろし、麦茶が入った麻袋を沈めて蓋をせずにもう一度火にかける。

「それで、このまま10分ほど弱火で炊くっと」

 沸いてくると懐かしい麦茶の香りが部屋中に広がり、ちょっと嬉しくなった。

 そのままソファーに座って、側に来てくれたニニを無意識で撫でながらぐつぐつ沸いているヤカンを黙って見つめていた。

「もう良いかな? おお、良い感じに麦茶が出来上がった」

 マイカップに少しだけ入れて、火から下ろしたヤカンに蓋をしておく。

 もう一度ソファーに座り、熱々の麦茶を啜りながら横目でハスフェル達を見た。



 先程からずっと、ハスフェルとギイ、そしてオンハルトの爺さんにシャムエル様まで加わって、ベリーとフランマは全員揃って真剣な顔で話をしている。



 うん、俺は聞かない聞こえな〜い。

 実際、聞いたところで俺なんかに何か出来るとは思えない。まあここは神様達にお任せしておこう。

 もしもその上で、彼らが俺にも何か手伝えって言って来たら……まあ、頑張るよ。うん。




 内心、一大決心をしていた俺だったが、どうやら取り越し苦労だった模様。

「ケン、このジェムの卵、一つ貰ってもいいか?」

「俺もせっかくだからひとつ欲しい」

「こっちにも一つお願いするぞ」

 ようやく話が終わったようで、振り返ったハスフェル達の嬉々とした言葉に、安堵のため息を吐いた俺は振り返って大きく頷いた。

「ジェムコレクター。頼むから一個と言わず、好きなだけ持っていってくれ。そんな物騒なジェム、俺は持ってるだけでも怖いって」

 思いっきり嫌そうにそう言ってから、アクアに、ハスフェル達に言われた数を渡すように頼む。

「大丈夫だよ。もうこれは固定化してるから、それこそ長期間に渡って地脈の吹き出し口に放置しない限り、成長してジェムモンスター化する事は無いって」

 笑ったシャムエル様の言葉に、ハスフェル達も平然と笑っている。

 まあ、あいつらが平常に戻ったって事は、もう本当に心配は無いのだろう。



「なあ、ちょっと聞いていいか?」

 さっきのシャムエル様の言葉にちょっと引っ掛かりを感じて、俺は追加の麦茶の袋を作りながらシャムエル様を見た。

 シャムエル様は、もう俺の右肩の定位置に戻って、尻尾の手入れなんか始めてたよ。

「どうしたの、改まって?」

 顔を上げたシャムエル様を見て、俺はまだ出しっぱなしになっていた巨大なジェムの塊を見た。

「さっき、例えばこれを長期間地脈の吹き出し口に放置したらって言ったよな?」

「ああ、万一再生するとしたら、それぐらいだろうね」

「じゃあ例えばさ。収納の能力なんて無い普通の冒険者が、自分の鞄に大きなジェムを入れていたとして、その上で、地脈の吹き出し口でテントを張って長期間そこに留まってジェムモンスター狩りをしたりしたら……そいつの鞄の中のジェムは、地脈の影響を受けてジェムモンスター化しちゃうんじゃないのか?」

 俺の質問に、シャムエル様は目を瞬き、ハスフェル達を振り返った。



「そう言えば、これも説明してなかったね。これもやっぱり私が悪い?」

 いきなり吹き出したハスフェルが、笑って首を振って立ち上がり、置いたままになっていた巨大なジェムの横に来た。

「地脈の吹き出し口にジェムを置くと、再度ジェムモンスター化する。これは分かるな?」

 頷く俺に、ハスフェルは小さなジェムを一つ取り出した。

「例えばこれは、普通のパープルバルーンラットのジェム。つまり、このジェムの成長後の姿だな」

 まあジェムとしてはそれ程の大きさじゃ無いので、最近の俺達は、あまり使わない大きさだ。



 これはクーヘンの店の売れ筋ラインだから、ハンプールに行ったら、また地下の金庫一杯に詰め込んで来よう。

 見せられたジェムを眺めて、頭の中でのんびりとそんな事を考えていた。



「仮にその冒険者が倒されて、鞄ごとその場に長期間に渡って放置されるような事態になれば、鞄の中のジェムも、いつかはジェムモンスター化する可能性はあるだろうな」

 ハスフェルの説明は、何とも回りくどい言い方だ。

「ええとつまり、狩りをする間に持っている程度なら、鞄の中のジェムはモンスター化はしない?」

 いまいちピンとこなくて、言い換えてみる。

「いや、この場合はどこにジェムがあるか、が、大事なんだよね」

 シャムエル様の言葉に、俺はもう一度考える。

「つまり、鞄の中にあると、モンスター化しない?」

「まあほぼ正解かな。モンスター化するには、地面に直接ジェムが触れていないと駄目なんだよね」

「ああ成る程。地面に接してる部分から、地脈の影響を受ける訳か」

 納得した俺は、巨大なジェムの塊を見る。

「つまり、こいつを故意に地脈の吹き出し口近辺の地面に放置しておけば、モンスター化する。だけど、アクアの中にあったり、まあ物理的に無理があるけど、俺がこいつを背負って持っていたりしたら関係無いって事だよな?」

「そうだね、その認識で間違ってないよ。あ、スライム達の中は、外とは完全に切り離されている収納空間だからね、スライム達が地面にいても関係無いよ」

「それを聞いて安心したよ。あ、そっか。以前も言ってた、大繁殖を駆逐した後、出来た大量のジェムを絶対に集めておかないと駄目だって言ってたのは、そういう意味か!」

 もう一度納得して頷いた俺を見て、ベリーが苦笑いしている。

「大繁殖を駆逐した後、何が大変ってジェムの回収が本当に大変なんですよね。スライムがいる貴方達が羨ましいですよ。まあ今回は塊で手に入りましたから、回収は楽でしたけどね」

 隣でフランマも頷いているのを見て、俺は出したままの巨大なジェムの塊に触れた。

「まあ何であれ、危機が去って良かったよ。感謝するよ、ベリー、フランマ」

 アクアに出していたジェムを片付けてもらい、座ろうとして何か言いたげなサクラと目が合った。

「ん? どうした……ああ! ベリーとフランマに果物出してやるって言ってて忘れてるじゃんか! ごめんごめん、疲れてるのに悪かったな。どうぞしっかり食べてください! お疲れ様でした!」

 サクラが取り出してくれた木箱を渡しながら、慌てた俺は必死になって謝った。

「いえ。これは大事な事ですからね。情報共有は必要です」

 そう言いつつも、ベリーが嬉しそうに木箱を開ける。

「おや、これはあの飛び地で見つけた果物ですね。嬉しいです、これならすぐに元気になりますよ」

 嬉しそうなベリーの声に、フランマだけでなく、肉食チーム以外の従魔達までが嬉しそうに目を輝かせて駆け寄って行った。

「ええと、それで足りるか?」

「ええ充分です。ありがとうございます」

 嬉しそうなベリーの言葉に、笑った俺は、サクラが出してくれた飛び地のリンゴを手早く皮を剥いて切り分けてやった。

「じゃあ、夜食を食ったら解散な。遅くに呼び出したりして悪かったな」

 お皿を渡してやると、三人は笑ってお皿を受け取って首を振った。

「いや、呼んでくれて感謝だ。今回はベリーとフランマが頑張ってくれたが、これは本来なら俺達の務めだからな」

 おお、やっぱりこういう対応をいつも裏でしてくれてたんだ。

「こっちこそ感謝だよ。世界を守ってくれてありがとうございます」

 最後は、少し改まってそう言うと、三人はわかり易く笑顔になった。



「まあ、平和が一番だよ」

「そうだな。毎回これでは身が持たんよ」

 ギイと、オンハルトの爺さんの言葉に、苦笑いしたハスフェルも大きく頷いている。



 そんな彼らを見て肩を竦めた俺は、自分用に切ったリンゴをシャムエル様に齧らせてやりながら、大きな欠伸をしたのだった。

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