夕食はドライカレー
「じゃあ、ちょっと早いけど、皆で協力して作ったカレーを食べる事にするか」
俺の言葉に、三人が大喜びで手を叩いている。
「準備するから、ちょっと待ってくれよな」
そう言ってフライパンを綺麗にしてもらって、軽く油を入れて火にかける。
「ええと、サクラ、生卵4つ出して、順番に割ってくれるか。白ご飯もな。それとワカメと豆腐の味噌汁と、サラダとおからサラダも頼むよ」
フライパンを揺すって油を馴染ませながらそう言うと、サクラが出した卵を横にいたアクアがサッと割ってくれる。
受け取って、順番にそのままフライパンに流し入れて、四つ入れたところで少しだけ水を入れて蓋をして蒸し焼きにする。
「その間に、ご飯の用意だな」
取り出したご飯は、大きめのお皿の真ん中に大きなお椀に入れて形作ってポンとひっくり返して取り出す。お皿の真ん中にご飯の山が出来上がる。
「おお〜!」
何故だか、それを見た三人から歓声が上がった。子供か。
自分の分は、いつものお茶碗に使っている木製のお碗だ。三人とはご飯の量が違う。これが普通サイズだと思うぞ。
ワカメの味噌汁は、片手鍋に人数分取って火にかけておく。
サラダは、サラダボウルに使っている木製のお碗に盛り合わせればいいだけだ。
これはハスフェル達がそれぞれ自分の分を好きに取ってくれるから、俺は何もしなくて良い。出すだけだ。
よしよし、野菜も食おうな。
その時、ノックの音がしてご飯屋さんが今日のご飯を配達に来てくれた。それに他にも声がしているから、パン屋と米屋も配達に来てくれたみたいだ。
「アルファ、鍵開けてやってくれるか。それとお金……」
手が離せなくて困っていると、扉に近い位置に座っていたオンハルトの爺さんが対応して金額を聞いて自分の財布から出してくれた。
「悪いな」
「気にするな。俺も食ってるんだからな」
笑ってお礼を言い、届いた焼き立てパンと、今日の分のご飯や精米の済んだ米の袋をサクラに全部飲み込んでもらう。
最近のサクラは、特に教えたわけでも無いのにちゃんと在庫がダブってると古いものから取り出してくれている。つまりファーストインファーストアウト、いわゆる先入れ先出し。搬入の基本である。
在庫管理は完璧。凄いぞサクラ。
「おお、そろそろ目玉焼きが出来たかな」
綺麗な半熟目玉焼きになったところで、フライパンの火を止める。
ご飯の周りにドライカレーを山状に盛り付け、上に半熟目玉焼きを乗せる。
「はいどうぞ。大盛りドライカレー半熟卵乗せだよ。端から崩して混ぜながら食ってくれよな」
自分の分のサラダと味噌汁をよそり、いつもの簡易祭壇にカトラリーまで綺麗に揃えて並べる。
それから、そっと手を合わせて目を閉じる。
「新作の、ドライカレー半熟卵乗せです。ちょっと辛いよ。サラダは生野菜とおからとツナのサラダです。どうぞ」
小さく呟いた時、頭を撫でられる感触があった。
目を開くと、ドライカレーを撫でる収めの手が見え、順番にサラダや味噌汁もそっと撫でてから消えていった。
「さて、辛いものはシルヴァ達は大丈夫なのかね?」
小さく笑って、自分の分を持って来て席に座った。
「ご苦労さん。飲むか?」
「いや、俺は冷えたビールを飲むからいいよ」
差し出してくれた赤ワインを断って、俺はサクラが出してくれた冷えたビールをグラスに注いだ。
「この間も思ったけど、わざわざ白ビールを冷やすのか」
ハスフェルの言葉に、頷いた俺は冷えたビールの入ったグラスを上げて見せた。
「俺がいた世界では、ビールは冷やして飲むのが一般的だったんだよな。ここへ来て常温のビールを初めて飲んだ時、実はちょっと残念に思ったんだ。それで、せっかく冷蔵庫を買ったんだからさ。俺は冷やして飲む事にしたんだ」
「成る程な。それなら俺が持ってる白と黒のビールをサクラに渡しておくよ。ケンはどうやらワインよりビールや米の酒の方が好きみたいだしな」
「俺達は、確かにビールよりワインやブランデー、ウイスキーの方が好きだからな」
ハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんが揃って笑っている。
って事で、ワインとビールで乾杯して食べ始めた。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ、じ、み!ったら、あっじっみ!」
シャムエル様はさっき味見したのに、これまた奇妙なリズムで歌いながらお皿を出して踊ってたよ。一緒にも食べたいらしい。
「はいはい、じゃあ目玉焼きもいるよな」
笑って、さっきと同じくらいご飯とドライカレーを取ってやり、目玉焼きの黄身の部分を多めにちぎって乗せてやる。それからレタスの上におからサラダも一塊り取り分けて乗せてやり、いつもの杯には味噌汁を入れてやった。
「冷えたビールも! あ、じ、み!」
追加のステップを踏むシャムエル様を見てふきだし、小さなガラスのショットグラスをハスフェルが出してくれたので、それに冷えたビールもちょっとだけ入れてやった。
「乾杯!」
グラスを差し出して嬉しそうにそう言うので、俺は持っていたグラスを上げてちょっとだけ一緒に乾杯した。
「おお、ちょっとピリッとするが、これは美味いな」
「これは美味い。目玉焼きを崩して混ぜると、また味が変わるな」
「ふむ、カリーは焼いた肉でなら食べた事はあるが、全く違うな。これは美味い」
どうやら三人とも、カレーは大丈夫みたいだ。
よしよし、じゃあ作り置きメニューにカレーも追加だな。
俺も、自分のドライカレーをせっせと平らげた。
「冷えたビールとドライカレー、最高だな」
ハスフェル達の分は、俺の三倍くらいの量を用意したので、どうやら一度でお腹は一杯になったらしい。
まあ、相当量作ったつもりだったけど、かなり無くなったので、今日作った量の最低倍量は仕込まないと速攻無くなりそうだ。
苦笑いしつつ、早くも食べ終えて新しいウイスキーを取り出してる彼らを見て、俺は作ってあったカレーの鍋を見た。
「これはこのまま一晩置くか。だけど、この気温だからなあ……ううん、このまま冷蔵庫に入るかな?」
小さく呟き、蓋をした大鍋を冷蔵庫の前に持っていく。
「よし、入るな。じゃあこれは寝る前に冷蔵庫に入れておこう。まあ、ビールはまだ少しは冷えたのがあるからな」
小さくそう呟いて、いったん鍋を戻す。
「この冷蔵庫、出来ればもう一つ欲しいな。だけど確かあそこの店には一つしか入ってないって言ってたもんな」
「もしかして、これか?」
俺の呟きを聞いたハスフェルが、いきなり大きな箱を取り出して俺の冷蔵庫の横に置いた。
「あれ? ハスフェルも持ってたのか?」
「おお。以前、バイゼンにいる知り合いが最新作だって言ってた物だよ。それなりの値段だったからあまり売れなかったらしい。それで付き合いで一つ買ったんだ。たまに米の酒を冷やしたくらいで、正直ほとんど存在を忘れてたな。進呈するから、良かったら使ってくれ。ジェムは入ってるぞ」
これは縦型の、いわゆる普通のワンドアタイプの冷蔵庫型だ。
開いてみると、中に入っていたのはチーズのかけらが一つっきり。
「いつのチーズだよこれ」
笑って取り出したチーズはカピカピに乾いていて、ちょっと食べるのは無理っぽいレベルだ。
「さあて、いつだったかなあ」
誤魔化すように笑ったハスフェルを遠くから殴る振りをして、カピカピのチーズは足元に来たサクラにあげたよ。スライム達が集まって大喜びで仲良く分けてるのを見てハスフェルが大笑いしていた。
サクラに冷蔵庫の中を綺麗にしてもらって、扉部分にある氷を作る部分に水を入れて凍らせておく。
「うん、いまさらだけど、氷の能力って、俺にはぴったりの能力だよな。本当に有り難い」
小さく笑って、冷蔵庫の扉を閉めたのだった。