カレーを作る
「さて、何を作ろうかな?」
食べ終わったお皿やカップを片付けてるハスフェル達を見ながら、サクラを見てちょっと考える。
「やっぱり、ここはカレーだよな」
大きく頷き。サクラに材料を一通り出してもらう。
片付けの終わった三人も、部屋に帰る様子はなく興味津々で俺のする事を見ている。
「じゃあこれ、皮を剥いてくれるか」
ジャガイモとニンジンを持ってそう言うと、アクアが張り切ってすぐにスルッと皮を剥いてくれた。
「切るのはこんな感じな。乱切りだよ」
一つだけ見本で切って見せ、後はそのまま任せる。
「じゃあ、これをまずは軽く炒めてっと」
取り出した普通サイズのフライパンに、オリーブオイルと小麦粉を入れて弱火で炒めていく。
「それは何をしてるんだ?」
不思議そうに、ギイがフライパンの中を覗き込んでいる。
「カレールウを作るんだよ。カレー粉を手に入れたからさ」
これまた不思議そうに目を瞬く彼らに、手に入れたカレー粉を見せてやる。
「これだよ、知ってるだろう?」
「たまに、肉の味付けに付いてるあれか?」
「多分、そうだと思うぞ。香りが同じだ」
全く料理の出来ない彼らには、どうやらカレー粉は未知のものだったようだ。
「俺のいた世界では、これは一番人気のある料理だったな。俺はあんまり辛くない方が好きだから、こっちを買ったんだ。これはミンチと一緒に炒めたらドライカレーっていう別の料理にもなるし、他にも色々とアレンジがきくからさ、それも今度作るよ」
焦がさないようにせっせと混ぜながら答えると、ハスフェル達は嬉しそうに顔を見合わせた。
「楽しみにしてるよ」
「おう、これは俺も楽しみだよ。もちろん好みはあるだろうから、口に合わない時は遠慮無くそう言ってくれよな」
その言葉に、三人が笑っている。
「今のところ、口に合わないものは一つも無いぞ」
「そりゃあ光栄だな。じゃあ今後もそうであるように願ってるよ」
冗談めかしてそう言うと、笑った三人が揃ってサムズアップしてくれたよ。
俺もサムズアップで返してから、小さく笑ってすっかり滑らかになった小麦粉ペーストをかき混ぜた。
喜んで食べてくれるのは嬉しいけど、好みは人それぞれだからな。
そう。確か、勤めていた事務所にも一人いたんだよ。まさかのカレーが苦手だって人がさ。
聞くと、団体生活とかでかなり苦労したらしい。
まあそうだよな。修学旅行とか、林間学習とかだと、たいていカレーが出るもんな。
皆が好きな物が苦手っていうのは、確かに苦労しそうだ。
そんな事を考えながら、ハスフェル達を見る。
だけどまあ、彼らはカレーの味を知ってるみたいだから味は大丈夫だろう。……多分。
「何か、俺達でも手伝えそうな事があったら言ってくれよな」
ギイの言葉に、ちょっと考える。
「じゃあ、これ炒めてくれるか。焦がさないように、こんな感じでひたすら混ぜるだけだからさ」
横に来たギイに、見本で見せてから任せてみる。
「こんな感じで良いんだな。いつまでやるんだ?」
意外に器用に満遍なく混ぜているのを見て、ちょっと嬉しくなった。
火を使うのは、簡単な事は任せられる事もありそうだな。よしよし。
「全体に薄茶色になって来たらカレー粉を入れるんだ。だからもうちょっとな」
「了解。それじゃあひたすら混ぜてりゃ良いんだな」
「おう、それでよろしく」
って事で、カレールウ作りはギイに任せて、俺は大鍋を取り出した。
「じゃあ、まずは肉を炒めるか」
そう呟き、サクラに出してもらったグラスランドブラウンボアの肉を、大きめの一口サイズに切ってもらい、油で炒めていく。これはハスフェルがやってくれた。
「俺にも何か手伝えることってあるか?」
オンハルトの爺さんの言葉に、大きな鍋を渡す。
「それじゃあ俺が材料を入れていくから、この鍋で炒めてくれるか」
コンロに乗せた大鍋にも油を入れてから、まずは大きく切った玉ねぎを炒めてもらう。そこにこれも乱切りに切ったニンジンを入れ、ハスフェルが炒めてくれたグラスランドブラウンブルのサイコロ肉を入れる。塩と砕いた黒胡椒も多めに入れる。そこに干し肉で取っただし汁をたっぷりと加えて、適当に束にしたハーブも入れる。これは俺が作った適当ブーケガルニもどきだ。
そのまま蓋をして弱火で煮込んでいく。
「そっちはどうなった? おお良い感じに炒まってきたな」
ギイが炒めてくれているフライパンの中は、さっきのパンケーキみたいな綺麗な薄茶色い色になってる。
そこに、二種類のカレー粉を振り入れてまた混ぜる。
それから、ケチャップと中濃ソースを入れ、さらに蜂蜜と、すりおろしてもらったリンゴも少しだけ加える。
また炒めて、全体に柔らかな塊になったら完成だ。
これを、さっきの鍋に入れてカレー味ととろみをつける。そのまま弱火でもう少し煮込めば完成だ。
これは、弱火専用のコンロに掛けておく。
「じゃあ、ドライカレーも作っとくか。これはパンに挟んだりオムレツに使ったりも出来るもんな」
そう呟き、サクラに合い挽きミンチを出してもらう。
「じゃあこれをみじん切りにしてくれるか」
ニンジンと玉ねぎを見せると、サクラとアクアがあっという間に綺麗なみじん切りにしてくれた。
「おう、ありがとうな」
そう言って、今度は先ほど使った大きい方のフライパンに、みじん切りにした玉ねぎとニンジンを入れて炒めていく。
「ここに挽肉を投入……誰か入れてくれるか」
フライパンを混ぜながらそう言うと、笑ったハスフェルが側に来て、置いてあった挽肉をどんと入れてくれた。
「協力感謝! それでこれを炒めて行くっと」
フライパンを大きく揺すりながら、挽肉を砕くようにして火を通していく。
「ごめん、味付けするからちょっとこのまま混ぜててくれるか」
ハスフェルと交代して、横からカレー粉を全体に振りかけていく。これも二種類ブレンドだ。それから中濃ソースととんかつソース、それからケチャップもちょっとずつ加えてさらに混ぜる。
ハスフェルと交代して、少し火を強くして一気に炒めて香りを出す。
「こんな感じでどうかな?」
スプーンで少しすくって食べてみる。
「お、良い感じの味になったな。よし、じゃあこれで完成だ」
手を止めて顔を上げると、机の上で目を輝かせたシャムエル様と目が合った。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ!ジャン!」
またしてもお皿を両手で持って見事なステップを踏んでいる。
最後はお皿を差し出して片足立ちポーズで止まった。
「おお、お見事」
笑って拍手をしてから、フライパンを見た。
「ドライカレーで良いか? あっちはもうちょっと置いた方が美味しくなるからさ」
満面の笑みで大きく頷いたので、ご飯を出して、ちょっとだけ盛り付けてやる。
「はいどうぞ。ドライカレーだよ」
「良い香りだね、じゃあいただきます!」
そう言うと、やっぱり顔面からドライカレーの山に突っ込んでいった。
「おお、ピリッと辛くて美味しい! これは初めて食べる味だね」
カレーまみれの顔を上げて、目を輝かせて嬉しそうだ。
「あはは、気に入ってくれたなら良かったよ。あ、そろそろ暗くなってきたな」
窓の外は、陽が傾き始めている。
ハスフェル達が手分けしてランタンに火を入れてくれた。一気に部屋が明るくなる。
「鑑識眼のおかげで、ちょっとくらいなら、暗くなってても気にならないんだよな」
椅子に座ったハスフェル達と顔を見合わせて笑い合った。
「で、まだそれは食べないのか?」
揃ってフライパンに作った山盛りのドライカレーを見る三人に、俺は思わず吹き出した。
「さっきパンケーキ食ったところじゃないのかよ」
「あれはおやつだ」
即座にドヤ顔の三人に言われて、俺はもう一度吹き出したのだった、