食事と買い出し
「さてと、ハスフェル達はまだ寝てるみたいだから、俺だけでも先に何か食うか。ええと、何にするかな?」
思いっきり寝過ごしているので、今から食べたらほぼ朝昼兼用だ。
「じゃあ、あのキャベツサンドとコーヒーにしよう。多分あれを食ったらもう腹一杯になるだろうからな」
サクラに、キャベツサンドを出してもらい、コーヒーをマイカップにたっぷり注ぐ。
それから、即席の祭壇にしている小さい方の机に、一旦並べて手を合わせる。
いつもの半透明の手が、俺の頭を撫でてからサンドイッチとコーヒーを撫でて消えていった。
半分に切ったキャベツサンドの真ん中部分を、まずシャムエル様に齧らせてやる。
嬉々として、差し出したキャベツサンドの断面部分を物凄い勢いで、全面1センチくらい齧ったシャムエル様は、満足気にゲップをしてから俺の手を叩いた。
「お先。これやっぱり美味しいね。タマゴサンドとどっちにしようか悩むくらいに気に入ってるから、在庫は切らさない様にお願いね!」
「了解。これは俺も気に入ってるから、在庫は切らさない様にするよ。ま、しばらくは買った分があるから大丈夫だって」
「この街にいる間に、もっと買っておかないとね」
「へいへい、それじゃあ後で買いに行くか」
そう言って笑い合った時、眠そうなハスフェルからの念話が届いた。
『おはよう。すっかり寝過ごしたよ。何か食わせてくれるか』
『おはようさん。まあもう日は高いけどな。サンドイッチで良かったらすぐにあるぞ』
『おお、それじゃあ、顔を洗ってそっちへ行くよ』
『俺も行くよ、よろしく』
ギイの眠そうな声も聞こえた直後、オンハルトの爺さんからも念話が届いた。
『もう一人前よろしく頼むよ』
すぐに気配が消えて、俺は笑って新しいコーヒーのピッチャーを取り出した。
「あ、コーヒーもそろそろ在庫が無くなりそうだな。じゃあ今日は、買い出しに行って戻ったら、まずは飲み物の仕込みだな。ええと、その後は何をするかな?」
昨日から出したままの冷蔵庫を見る。
「なあ、シャムエル様、ちょっと聞いていいか?」
「何、どうしたの?」
キャベツまみれだった顔を綺麗にしていたシャムエル様が、不思議そうに振り返る。
「あの冷蔵庫って、あのまま収納したら、中身ってどうなる?」
「どうもならないよ。中身も入れた時の状態そのままで保存されるよ」
「つまり、冷えたものが入ってれば、そのまま冷たいし、逆に、入れてすぐだったら、冷えずにずっとそのまま?」
「そうだよ。時間停止ってのは、そういうものだからね」
「成る程、じゃあ普段はああやって外に出しておいて、冷えた中身を順番に収納すれば良いな。で、旅に出る時は、冷蔵庫の中は空にして収納しておけば良いわけか」
納得した俺は、冷蔵庫の扉を開いて、中に入っていた冷えたビールを全部取り出した。
「サクラ、こっちが冷えた白ビール。こっちが冷えた黒ビールだよ。常温の物とは別に管理してくれよな」
俺の言葉に、机の上に並べた冷えたビール瓶を、サクラの触手がニュルンと伸びて来てどんどん取り込んでいった。
「冷えた白ビールと、冷えた黒ビールだね。了解、こっちとは別に管理します」
「昨日買った、白ビールと黒ビールの残りも出してくれるか」
「はいどうぞ。これで全部だよ」
サクラが出してくれたビール瓶を順番に冷蔵庫へ入れていく。
「ううん、ビールしか入っていない冷蔵庫になったぞ」
ちょっと笑ってそのまま扉を閉めた。このまま夕方くらいまで冷やせば、バッチリ冷えるだろう。多分。
その時、ノックの音がして俺は振り返った。
「アルファ。開けてやって」
扉近くにいたアルファに鍵を開けて貰う。
「おはよう。すっかり寝過ごしたよ」
「おはようさんいやあ、気持ちよく昼まで寝たな」
「全くだ。だがおかげですっかり元気になったな」
笑った三人の言葉に俺も笑って、サンドイッチを色々出してやる。
だけど、出していたキャベツサンドは誰も取らず、新メニューのソースカツサンドは大人気だった。
何であれ喜んで食ってくれるのは嬉しいけど、一言言わせろ。
お前ら、マジで野菜も食え。
「さてと、それじゃあ俺はちょっとこの後、買い出しに出るよ」
「ああ、よろしくな。俺達はもう、今日はゆっくりさせて貰うよ」
笑ってそれぞれの部屋に帰る三人を見送り、俺は出掛ける為に、いつものように装備を整えて剣帯を装着した。もう、手早く装備を整えるのも慣れたものだ。
「さて、それじゃあ出掛けるけど、お前らはどうする?」
マックス達にそう尋ねると、てっきり留守番すると思っていたら、なんと全員一緒に行くと言って起き出して来た。
「そっか、じゃあよろしくな」
笑って順番に全員を撫でててやり、ベリーとフランマに留守番をお願いして、俺は部屋を後にした。
「ううん。やっぱりこいつらと一緒だと大注目だな」
外に出た途端に、道路にいた全員から大注目を浴びた。苦笑いしつつ、もう気にせずに屋台が出ている中央広場に向かう。
コーヒーの屋台が出ていたので、空いたピッチャー五個渡してホットコーヒーを淹れてもらうようにお願いした。
大体ピッチャー一つで十杯分位だから、まあしばらくは保つだろう。
それからキャベツサンドの店へ行って、在庫のサンドイッチをありったけ買わせてもらった。もちろん、キャベツサンド以外もね。
その後は屋台を見て周り、ハスフェル達が好きそうな串焼き各種や、焼肉、焼き魚など、それから焼きそばもまた大量買いした。
戻ったら、この焼きそばで、悪魔の食い物である焼きそばドッグを作っておこう。疲れた時の即エネルギー食だからな。
それからあの蕎麦の屋台へ行き、今度はざる蕎麦用の冷たいつゆと蕎麦をこれまた大量に買わせてもらおうとしたら、あまり在庫がないから今は駄目だと言われてしまった。
残念に思いつつ引き上げようとしたら、明日以降で良ければ、本店に来てくれたら好きなだけ分けてやると言われて、俺は大喜びで希望の数を注文して本店の場所を聞いたよ。
何でも、この屋台はいわば二号店で、別の通りにある店が本店なんだって。
よし、まだしばらくはこの街にいる予定だから、遠慮無くガンガン買わせていただきましょう。主に俺の為に。
「そう言えば、こっちへ来てから食生活ってかなり変わったよな。まあ、インスタント食品が無いから、メニューが変わるのは当然なんだけど、考えてみたら唐揚げとか炭水化物もバンバン食ってるのに、あんまり体型が変わってないな。それに、筋トレとかもあまりやってないのに、筋肉が落ちる様子も無い」
自分の腕を見て、何と無くふと思いついてそう呟く。
「ケンの身体を作った時に、現状維持の効果を付与してあるからね。余程の不摂生な生活をしない限り、そう体型の変化は無いと思うよ。どう? 上手く作ったでしょう?」
ドヤ顔のシャムエル様に突然そう言われて、思わず俺は右肩を見た。
「マジ?」
「マジマジ」
「おお、そりゃあ有難いな。だけど俺は野菜も食うよ」
笑ってもふもふの尻尾を突っついてから、鞄を持ち直した。
「さてと、それじゃあ出来合い品の買い出しはこれくらいにして、あの業務用スーパーにもう一度行ってみるか。豆板醤と甜麺醤を探さないとな。あ、カレー粉とか無いかな? 有ったらカレーライスも作れるじゃん」
理由は無いけど、ここでなら俺の知ってる他の料理の材料も手に入るような気がして、俺は張り切って業務用スーパーを目指して広場を後にしたのだった。