寝坊した朝
「それじゃあゆっくり休んでくれよな」
部屋に戻るハスフェル達にそういうと、三人は振り返って苦笑いしながら肩を竦めた。
「今日ほど、ケンがいてくれて有難いと思った事は無かったな」
「全くだ。とにかく帰りさえすれば旨い飯があると分かっていたんだからな」
ハスフェルとギイの言葉に、オンハルトの爺さんも何度も頷いている。
「ほんにその通りだな。そうで無かったら、街まで戻るのはやめて、確実にそこらで倒れてそのまま寝てるぞ」
「気温的には外で寝ても良いけど、そのまま寝るのはやめてくれ」
オンハルトの爺さんの言葉に、思わず真顔で突っ込んだよ。野宿するにしても、やりようがあるって。
俺の突っ込みに三人が同時に吹き出し、大爆笑になった。
「明日はもう、休みにしよう。さすがにちょっと疲れたよ」
ため息と共にハスフェルがそう言い、二人も揃って頷いている。
「じゃあ、明日はゆっくり休んでくれよな。俺はもう少し買いたいものがあるから、いくつか買い物をしてから、後はまた料理の仕込みだな」
「悪いがそっちは任せるよ。それじゃあおやすみ」
「おう、お疲れさん」
笑って部屋に戻る三人を見送った。
「それじゃあお前達も、今日はお疲れだったんだな」
既にニニはベッドに転がっているし、タロンとソレイユとフォールもニニとくっついて一緒に団子になってベッドで既に熟睡状態だ。
同じくベッドに上がったマックスも、ニニの横で既に寝息を立てている。
ラパンとコニーも、ニニの顔の横でそれぞれ丸くなってくっついて既に眠ってるみたいだし、ファルコとプティラも、いつもの定位置の椅子の背に留まって目を閉じている。二匹とも、いつもより羽毛がふっくらと膨らんでいるのを見ると、皆本当に、相当疲れているのだろう。
出来るだけ静かにベリー達に果物を出してやると、匂いに気づいたのか、鼻をひくひくさせたラパンとコニーが寝ぼけ眼で起き出してきた。交互にしっかり撫でて労ってやり、蜜桃を丸ごと一個切って出してやった。
「明日は、ゆっくり寝てくれて良いからな」
朝市での買い物は、一通り済ませているので、俺も明日はゆっくりさせてもらう事にした。
「さてと、俺も、もう休もうかね」
水場で手と顔を洗い、いつものようにサクラに綺麗にしてもらう。
「それじゃあ、入れてくれよな」
そう言って、ニニとマックスの間に潜り込む。
最近寝るときに使っている薄毛布を引き上げている間に、ラパンとコニーがいつもの俺の背中側の定位置に大きくなって潜り込んできてくれる。
「あ、もう寝るの?ご主人」
顔を上げたタロンが嬉しそうにそう言うと、俺の腕の中に潜り込んで来た。
タロンが起きた事で目を覚ましたソレイユとフォールも俺にくっついて来たので、結局、猫族軍団は全員俺の腕の間と顔の横に潜り込んでまた丸くなった。
「お疲れさん。明日は朝市には行かないからゆっくりで良いな」
タロンのしなやかな背中を撫でてやりながら、俺も小さな欠伸を一つして目を閉じた。
いつも以上のもふもふに囲まれた俺は、そのまま気持ち良く眠りの国へ旅立って行ったよ。
「よく寝てるね」
「そうですね、どうしますか?」
「起こして良いなら張り切って起こしますよ!」
耳元でシャムエル様とソレイユとフォールの最強めざましコンビの声が聞こえて、うつらうつらしていた俺は、慌てて目を開いた。
カーテンはいつの間にか開かれていて、明るい日差しが差し込んで来る。
ベリーとフランマは、庭に出て朝日に当たってるいるみたいだ。
「ええと、いつもよりちょっと寝坊したかな?」
起き上がって大きく伸びをする。だけど、いつもなら俺が起きたらすぐに起き出すニニとマックスが、二匹ともちょっと耳をピクピクさせただけで、起きる気配が無い。
「お疲れだもんな。良いぞ、ゆっくり休んでてくれて」
順番に頭に抱きついて何度も撫でてやると、マックスは甘えるように鼻で鳴いて俺に頭を押し付けてきたし、ニニも、もの凄い音で喉を鳴らして俺に擦り寄って来た。
しばらく、交互に撫でて抱きしめてやり、俺も、久し振りのもふもふを堪能した。
「ずるい!、ご主人。私も〜!」
「私も私も!」
「あ、ずるい! 私も入れてください!」
いきなり、俺の脇に、後ろからタロンが頭を突っ込んで来て、こちらもすごい音で喉を鳴らし始めた。
出遅れたとばかりに、ソレイユとフォールも俺に飛びついて来て、そのまま寝ていた場所に押し倒される。
起き上がったニニとマックスまで飛びついて来たもんだから、ベッドに転がった俺は、もう従魔達に揉みくちゃにされてしまい、声を上げて笑った。
「ちょっ、待って、おまえら……くすぐったい! 待て! 待てったら!」
ようやく解放された時には、着ていた服は半分以上脱げかけて完全に腹が出ている。ちょっと、半ケツになってた気もする。何とか起き上がってズボンを引き上げた。
「もう勘弁してくれって。うわあ!」
振り返った瞬間に、またしても勢い良く突撃して来たマックスを始めとした猫族軍団を、全部まとめて受けとめ勢い余った俺は、受け身を取る間も無く後ろ向きにベッドから転がり落ちた。
しかし、覚悟した衝撃は無く、その代わりにポヨンポヨンのスライムベッドに受け止められた俺は、そのあまりの気持ち良さに撃沈した。
「ご主人、ゲット〜!」
嬉しそうなアクアの声に、俺は笑ってうつ伏せになる。
「お前ら最高だな。ああ駄目だ……このスライムベッドが俺を駄目にする……」
そのまま俺は、気持ち良く二度寝の海にダイブしたのだった。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
「うん、起きます……」
ぼんやりと目を開いた俺は、いつものもふもふのニニの腹毛では無く、目の前一面のスライムベッドに小さく吹き出した。
「二度寝最高だな」
横に転がって天井を見上げる。
「良い加減起きたら? もう日は高いよ」
額に座ったシャムエル様に、呆れたようにそう言われて、苦笑いした俺は腹筋だけで起き上がった。
「ええと、ハスフェル達はどうしてる?」
伸びをしながらそう尋ねると、予想通りの答えが返って来た。
「三人とも、死んでるんじゃ無いかと思うくらいに熟睡してるよ。まあ昨日は本当に大変だったみたいだからね。ゆっくり寝かせてあげて良いんじゃ無い?」
笑って目を細めるシャムエル様に、俺も笑って頷いた。
そのまま顔を洗いに行って、スライムベッドを分解してついて来たスライム達を、順番に二段目の水槽に放り込んでやった。いつのまにか、レース模様のクロッシェも出て来て一緒になって遊んでいる。
ここの水場はかなり大きめの水槽になっているので、スライム達が全員入ってもまだ余裕がある。
ファルコとプティラも飛んで来たので、二段目の水槽から流れる水でいつものように水を掛けてやる。
大喜びで羽ばたく二匹にマックスまで乱入して、俺は朝からびしょ濡れになったのだった。
まあ、皆楽しそうだったから良いけどな。
ニニ達猫族軍団は、いつも水浴びをしている俺達を見て、あいつら何やってるんだよ。って感じに、ものすごく嫌そうに見ているのも、毎度のお約束になっているのだ。
「気持ち良いんだぞ」
笑って部屋に戻った俺は、まだベッドに転がっている猫族軍団を、順番に心ゆくまで撫でくりまわしたのだった。