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お疲れ様の帰宅と夕食

「おかえり……って、どうしたんだ?」

 ただいまの言葉も無く、鍵の開いていた扉を開けて無言で部屋に入って来たハスフェルとギイが、二人揃って壁側に置いてあったソファーに倒れ込んだ。

 マッチョ二人が倒れ込んだお陰で、座る場所が無くなったソファーを見たオンハルトの爺さんなんか、奥にある俺のベッドに無言で転がったよ。で、突っ伏したまま動かなくなった。大丈夫か、おい。



「おいおい、どうしたんだよ」

 何やら疲れ切っている様子の三人を見て、側に来たニニの首や額を撫でてやる。すぐ横にマックスも来たので、手を伸ばしてマックスの眉間も、指を立てて掻いてやる。

 ニニが物凄い音で喉を鳴らし始め、いつもの猫サイズになったソレイユとフォール、それからタロンの三匹も、俺の足元に来て喉を鳴らしながら、こちらも足に交互に擦り寄っては転がっている。

 ファルコは俺の左肩に飛んで来て留まると、こちらも右を向いていた俺の後頭部に思いっきり頭を擦り付けている。

 プティラとラパンとコニーは、ソレイユ達の後ろで順番待ちをしているかのようだ。

 何というか、シリウス達も含めて全員が心底疲れ切っているみたいに見えた。

「なあハスフェル、皆もどうしたんだ? なんだか全員揃って、もの凄〜く疲れ切っているみたいに見えるんだけど?」

 俺の言葉に、三人が揃って呻くような声で返事をした。

「おう、みたいじゃ無くて、本気で疲れ切ってるよ。頼むから何か食わせてくれ。出来れば元気の出るやつを頼む……」

 ソファーに転がったままのハスフェルの言葉に、苦笑いした俺はグラスランドブラウンブルの肉で、大急ぎで分厚いステーキを焼いてやった。

 付け合わせは、ちぎった野菜とトマトとおからサラダ、汁がわりに作ったばかりの揚げ出し豆腐も出してやった。

 それから、足りないと可哀想なので、肉を焼いたフライパンの油を使って、同じくグラスランドブラウンブルの切り落とし肉を追加して、肉だけたっぷり入った炒飯も作ってやった。

 何故だか全員揃って、美味しい美味しいと何度も言いながら、かけらも残さず完食してくれたよ。

 取り敢えず、腹は膨れて落ち着いたみたいだね。



 何となく、一緒に食べるタイミングを逸してしまった俺は、まずは給仕に徹してやり、全員満足したのを見てから、作り置きの唐揚げと、おからサラダと揚げ出し豆腐の夕食を手早く用意した。

 取り敢えず俺は揚げ出し豆腐が食べたかったんだよ。さすがにステーキに揚げ出し豆腐のセットは、俺の腹には無理だって!

「何だか気を使わせたみたいで悪かったな、飲むか?」

 俺が自分の夕食を用意したのを見たギイが、飲んでいた赤ワインを見せる。

「いや、俺は冷えたビールを飲むから良いよ。どうぞ好きに飲んでてくれ」

 そう、そろそろ冷蔵庫に入れたビールが冷えている頃だ。

 ワクワクしながら取り敢えず一本取り出して、ビール用に買ってあった大きめのジョッキに注ぐ。

 即席の祭壇に、いつものようにシルヴァ達用に俺の分を並べて置いて、横にジョッキも並べる。それから目を閉じて手を合わせた。

 いつもの手が、俺の頭を撫でてから料理を撫でて消えていった。

「じゃあ、俺も食おうっと」

 そう言って、祭壇からテーブルへ持ってきて、まずは冷えたビールを口にした。

「おお、冷えてる冷えてる。やっぱりビールはこれじゃないとな」

 一口飲んで嬉しくなった俺は、シャムエル様が

 差し出すお皿に、唐揚げと豆腐サラダ、小さな盃には揚げ出し豆腐を入れてやってから、自分の分の唐揚げ定食を冷えたビールと一緒に楽しんだ。

 ううん、揚げ物と冷えたビール。最高だね。




 大満足の食事を終え、もう一本ビールを取り出して開けながら、赤ワインを終了してブランデーに突入しているハスフェル達を振り返った。

「で、一体何があって、あんなに全員揃ってくたびれ果てていたわけだ?」

 俺の言葉に三人が無言で顔を見合わせる。

「昨夜、小型のジェムモンスターがあちこちから一気に湧き出してるって話をしたろう」

「ああ、そんな事言ってたな……えっと、まさか……」

「そのまさかだよ。昨日とは比較にならん程の、とんでもない数のパープルバルーンラットが出てな。もう、大騒ぎだったんだ」

「とにかく、一匹一匹はそれほどの強さではないんだが、数がとんでもなくてな。本当に酷い目にあったよ」

 ギイも、心底嫌そうに天井を向いてそんな事を言う。オンハルトの爺さんは、無言で何度も頷いているだけだ。

「ええと、それってもしかしてあの……大繁殖ってやつ?」

 恐る恐る尋ねると、三人は揃って頷いた。

「しかも、最悪な事に出現場所が人間の領域のすぐ近くにだったものだから、当然、他にも討伐依頼を受けた冒険者達が大勢いてな。そのせいで、俺達だけならもっと簡単に駆逐出来たのに、そいつらと一緒に普通に戦う羽目になったんだ」

「おお……それはつまり、ブラウングラスホッパーの時みたいにメテオを落としたり、火の剣で叩き切ったり、この間の飛び地でハスフェルが、何だかもの凄い光る斬撃をお見舞いしたみたいな……あれ、って事?」

 ハスフェルとギイが無言で頷く。

「しかも、相手が下位のジェムモンスターであるバルーンラットだからと、本来なら大繁殖の討伐には参加しない程度の腕の奴らまでが大勢いてな。とにかく、誰も死なせないようにするのが大変だったんだ」

 これも無言でうんうんと頷いているオンハルトの爺さんを見て、俺はちょっと虚無の目になった。



 ハスフェル達だけでなく従魔達全員までが、疲れ切っていたのはそう言うわけか。



「うわあ、それはご苦労さんだったな。ってか、俺は行かなくて良かったと、今、本気で思ったよ。ごめん」

 最後の俺の言葉に、三人が苦笑いしている。

「いや、本音を言えば、来なくて正解だったよ」

「そうだな。ケンは、一対一、もしくはある程度までの数の相手は出来るだろうが、あれを相手にするのはちょっと無理があるだろうな。従魔を護衛につけたとしても、万能薬が確実に何度も出動しただろうさ」

「今回は相当使ったからな。俺の手持ちの万能薬がかなり少なくなって来た。ちょっと時間を取って集めに行かないとな」

 ハスフェルの言葉にギイも頷いている。

「ええと、サクラ、アクア、万能薬の在庫ってまだ余裕あるか?」

「あるよ。どうする、ちょっと渡しておく?」

 その言葉に頷いてハスフェル達を振り返った。

「ええと、俺はまだ余裕があるから、取り敢えず幾つか渡しておくよ。その、取りに行く万能薬の材料って、あのオレンジヒカリゴケだよな?」

 俺の視線に、机の上で尻尾の手入れをしていたシャムエル様は、顔を上げて目を細めてうんうんと頷いた。

「じゃあ、また皆で行けばいいんじゃないかな。また繁殖場所が広がっているから、今なら相当量が収穫出来ると思うよ」

 その言葉にハスフェル達が安堵したように笑った。しかし、すぐにその顔は真剣なものになった。

「どうも最近、大繁殖の頻度が上がっているような気がする。まあ、これも地脈が整ったからこそなんだがな」

 ギイの言葉にハスフェルとオンハルトの爺さんも頷いている。

「常に対応出来るように警戒はしておくべきだからな。万能薬は欠かす訳にはいかん。じゃあ悪いが、クーヘンの店に寄った後、バイゼンへ行く前に。先に行っても良いか?」

「ああ、構わないよ」

 って事で、また予定が変更されたみたいだ。



 何だか、いつまで経ってもバイゼンに辿り着けないような気がしてきたよ。

 苦笑いした俺は、冷えたビールを飲み干して、ふかふかになったシャムエル様の尻尾を背後から突っついたのだった。

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