おから三昧
第八回ネット小説大賞、一次選考に通過しました。
いつもお読みいただいている、皆様に感謝感謝です。
まだまだケンと愉快な仲間達の旅は続きます。もふもふでむくむくでふわふわでツルツル。そしてむさ苦しいマッチョでイケオジな仲間達との旅を、どうぞ暖かく見守ってやってください。
これからも、どうぞよろしくお願い致します!
「さあて、何からするかな」
鞄から出て来て、バラバラに戻ったスライム達は、期待に満ち満ちた感じで全員俺に向かってプルプルしている。
「よし、やっぱりまずは豆腐料理だよな」
にんまり笑って、まずは俺がよく食べていたおからを使ったサラダを作る事にした。
サクラに材料を出してもらい。買ったばかりの大きなボウルを取り出す。
「まずはここに生のおからを大量投入っと」
そう言って、大きな容器に入れてくれた大量のおからをボウルに取り分ける。
「で、ここにツナ缶……じゃなくてマグロの油漬けを油ごと投入。ざくざく混ぜる」
箸を使って、せっせとマグロの塊を潰しながら混ぜていく。
「で、ここにスライスした玉ねぎと茹でた豆を入れる。後はマヨネーズで和えて、しっかりめに塩胡椒をするっと。で、食べるときに鰹節を振りかければ完成だ」
最後に黒胡椒を多めに振りかけてもう一度しっかり混ぜ合わせれば完成だ。ちょっとだけ手に取って、味見をしてみる。
「おお、豆の味がしっかりあってめちゃ美味い。これはおからの味がダイレクトに出るんだよなあ」
満足して、大きめのお椀に出来上がったおからサラダを入れて、サクラに預ける。
「ええと、次は何を作ろうかな。ううん、せっかくおからがあるんだから卯の花も作りたいなあ……あ、駄目だ竹輪が無い」
ちょっと考えて、ふと思いつき以前買ったおでんの鍋を取り出す。
「これ、味が染みてるからこのまま使えるな。よし、じゃあ卯の花も作ろう」
そう呟いて鍋から竹輪と蒟蒻を取り出した。
これも、定食屋のサイドメニューでいつも作ってたからレシピは覚えている。
まずは取り出した竹輪と蒟蒻を、少しだけ細かく刻んで後はサクラとアクアにやってもらう。それからニンジンのみじん切りもお願いしておく。
椎茸は無いけど、それっぽいキノコがあったので、これも千切りにしてもらう。
同じく薄揚げも少し刻んで見せて、残りは先に終わったアクアにやってもらった。
もう材料を切るのは、俺は見本でちょっとやるだけで、優秀なアシスタントのアクアとサクラが全部やってくれる。
本当に最高だよ、お前ら。
「ええと、味付けは二番出汁と酒、砂糖と醤油、みりん、それから塩少々」
取り出した調味料を小さめのボウルに計って入れ混ぜ合わせておく。
「で、大きめのフライパンに油を引いて、まずは野菜を炒める。火が通ったら蒟蒻を入れてまたひと炒め。油揚げも加えて更に炒める」
レシピを復唱しながらせっせと炒めていく。
「で、ここにおからを投入っと」
どっさりおからを入れて軽く炒め、おからがバラけたらさっき作っておいた調味料を回し入れる。そのまま強火で炒めて、軽く水気を飛ばせば完成だ。
「おお、なかなか上手く出来たじゃん」
久々に、店で作ってたくらいの量を仕込んだよ。
「ひじきも探してみよう。これにひじきを入れたのも美味いんだよな」
これも大きめのお椀に盛り付けてサクラに預けておく。
汚れた道具は、待ち構えていたカラースライム達があっという間に綺麗にしてくれたよ。
「ありがとうな」
順番に撫でてやり、机の上を見ると、目を輝かせたシャムエル様が、お皿を片手にいつもの味見ダンスを踊っていた。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャ〜ン!」
今日のポーズは片手に持ったお皿を突き出し、尻尾でバランスを取りつつ片足でポーズを決めている。
ちょっと面白かったので、サクラに出してもらったおからサラダと卯の花の入ったお椀を持って黙って眺めていた。
「は、早くちょうだい……もう、駄目……」
足がプルプルと震えて、そのままバッタリと机に倒れる。
「せめてひとくち〜!」
倒れたまま、お皿を差し出してジタバタしている。
「はいはい、どうぞ。まずはこっちがおからのサラダだよ」
焦らしたお詫びに山盛り入れてやる。
「おからって何?」
お皿に盛られた、山盛りのおからサラダを見て首を傾げる。
「ええと、この前豆腐の作り方を説明しただろう?」
うんうんと頷くシャムエル様に、俺は取り出したおからを見せる。
「最初の、茹でた大豆をすり潰して布で濾して豆乳を取った残りの搾りかすの事だよ」
「へえ、それも食べるんだ」
感心したようなその言葉に、俺はちょっと笑った。
「まあ、豆腐作りで出来る副産物だな。栄養は豊富なんだけどヘルシーだからさ、俺もよく食べてた」
しかも、安いんだよな。
住んでいた地元の寂れた商店街の中にあった、老夫婦がやってた豆腐屋が美味しかったんだよ。仕事が忙しくてしばらく自炊どころじゃなくて、ようやくの休みに食べたくて買いに行ったら、店が無くなっててその一帯が大きなマンションに変わってたのに気づいた時には、本気で悲しかったな。
でも、このおからはあの店と同じ味がする。
もう一口、俺もおからサラダを口にして嬉しくなった。
うん、これは大事に食べよう。そして、明日も買いに行こう。ってか、ここにいる間は毎日買いに行こう。
おからで他に何が作れるか考えながら、改めて出した料理とおからをサクラに預けた。
「後は何をつくろうかな……あ、業務スーパーで豆板醤とか甜麺醤が無いか聞いてみればよかった。あそこならありそうだったのに! それがあれば麻婆豆腐が作れる。よし、探そう」
それは明日以降にする事にして、もう一品、揚げ出し豆腐をつくっておく事にした。使うのは、最初に買った方の木綿豆腐だ。
「ええと、これちょっとだけ水分を抜いて欲しいんだけど、そんなのって出来るか?」
サクラが、ちょっと考えて一つ豆腐を飲み込んでからすぐに出してくれた。
「おお、完璧。これでお願いします!」
「これが水切りだね」
豆腐を半分飲み込んだサクラがそう言って、残りを飲み込んだアクアにくっ付き、一緒にもぐもぐやり出した。
呆然と見ていると、すぐにそれぞれ綺麗に水切りされた豆腐を吐き出してくれた。
「ええと、今、何やったの?」
思わずそう尋ねると、二匹は得意気に伸び上がって教えてくれた。
「サクラが分かった事は、くっつけばアクアに教えてあげられるの」
「アクアも同じようにサクラに教えてあげられるよ。だけどまだアルファ達とはそこまで上手くいかないの」
思わぬ答えに目を瞬いた俺は、机の上に並んでこっちを見ているレインボースライム達を振り返った。
全員揃ってなんだか悔しそうにプルプルと震えている。
「そっか、仲間になった時期に差があるから、きっとまだ出来ないんだな。もうちょっと頑張ったらきっと出来るようになるよ」
そう言って撫でてやりながらシャムエル様を見ると、笑顔で頷いてくれた。
「そうだね。まだこの子達はサクラちゃんやアクアちゃん程賢く無いから、そこはこれからに期待だね」
「やっぱりそうなんだ。あ、でも焦らなくて良いからな。ちょっとずつ、ゆっくり覚えていこうな」
そう言ってもう一度撫でてやると、嬉しそうに机の上から床に飛び降りてポンポンと辺りを跳ね回ってたよ。