またしても大量買い取り
「ごちそうさまでした」
厚揚げ焼きを完食した俺は、サクラにお茶セットを出してもらい、お湯を沸かしてゆっくりと一番良い緑茶を淹れた。
シャムエル様用の小さな盃にも淹れてやって、俺は黙って緑茶を味わった。
「さて、それじゃあギルドへ行ってくるか。恐竜のジェムを商人ギルドのギルドマスターが見たいって言ってたらしいからな」
そう呟き、足元で寛いでいたラパンとコニーを撫でてやる。
モモンガのアヴィは、俺が椅子に座っている間にいつもの定位置の左腕にしがみ付いている。
「ベリー、フランマ、ちょっと商談にギルドへ行ってくるから留守番よろしくな」
日向ぼっこしているベリー達に声を掛けて、立ち上がって大きく伸びをした俺は、アクアゴールドの入った鞄を持って、ギルドへ向かった。
「すみません。ええと、ギルドマスターは……」
ギルドの建物の中に入って、カウンターの中の人に声を掛けた瞬間、いきなり受付の人は立ち上がって満面の笑みになった。
「はい、お伺いしております。どうぞこちらへ!」
いそいそと言った感じで奥に案内される。
しかし、マックス達を連れていなかったら、誰も、俺に対して全然反応しない。
ああ、モブの幸せ……。
「おお、来てくれたな。まあ座ってくれ」
部屋には、アンディさんともう一人、やや痩せ型のひょろっとした印象の男性がいた、年齢は多分俺より少し上ぐらいかな?
目つきの鋭い、いかにもやり手の商人、って感じの人だ。
「はじめまして、魔獣使い。エルケントと申します。お噂はかねがね伺っておりましたよ」
「早駆け祭りの英雄だからな」
からかうようなアンディさんの言葉にエルケントさんも笑って頷いている。
「それより、早速で申し訳ないが、どんなジェムがあるのか見せてもらっても良いかい?」
身を乗り出すエルケントさんの言葉に笑って頷いた俺は、鞄を手に勧められた椅子に座った。
どうやら俺が来るのが待ちきれず、昼前にはもう来ていて、一緒に昼食を食べ終えたところだったらしい。
そりゃあ、お待たせしちゃってもうしわけありませんねえ。
「ええと、恐竜のジェムをご希望なんですよね?」
鞄の口を開きながらそう聞くと、エルケントさんは満面の笑みになった。
「他にも、凄い数のジェムをお持ちだそうで」
「ええ、良いですよ。何から行きますか?」
正直言って、ちょっとでも減らして貰えるのなら、俺としてはありがたい。
「冒険者ギルドにも相当な数のジェムを融通して頂けたとの事。本当に感謝します。あれらは主に街の住民達が日常生活に使うジェムなのです。それで、こちらとしては農協から頼まれて稼働機械の燃料用のジェムが早急に必要なんです」
「の、農協?」
あまりにも聞き覚えのある言葉に、思わず反応してしまう。
「ああ、農協は近隣の村も含めて農業や酪農に携わる者達で作られた職業ギルドだ。正確には農業協同組合。何となく皆、農協と呼んでいるな。商人ギルドのギルドマスターが副組合長を務め、農協の組合長が、商人ギルドの副ギルドマスターを務めているのが伝統さ」
エルケントさんの説明に納得して頷く。
成る程、例えば、野菜を作った人が、例えば市場で販売しようとしたら商人ギルドの出番って訳か。色々と、権利とか縄張りとか、大人の事情がありそうだ。
ま、定住しない俺には関係無いけどさ。
「じゃあ、機械を動かすのに使うのなら、強力なのが良いですよね。それならこの辺りですかね?」
取り出したのは、ブラウングラスホッパーと、ブラウンキラーマンティス、それから、以前ベリーが大量に退治してくれた、大繁殖したダークグリーンオオサンショウウオだ。
あ、出したのはもちろん結晶化したのじゃ無くて普通のジェムだ。それも、出来るだけ小さめのジェムを出してもらった。
例の地下迷宮のとんでもなくデカい恐竜達のジェムを見慣れた後だと、ダークグリーンオオサンショウウオでも大した事ないように感じたが。平然と取り出したそれらを見て、エルケントさんとアンディさんは二人揃って絶句したまま固まってしまった。
見開かれた目が、今にも転がり落ちそうだ。
「あれ……これは出しちゃマズかったかな?」
ええと、もしかしてやらかしたかな?
苦笑いしながら、固まったまま動かない二人を横目で見る。
最後のダークグリーンオオサンショウウオも、相当数があるもんだから気にせず出したけど、まあこの大きさのジェムは確かに普通じゃ無かったかも……。
「ケン! いったいこれをどうやって!」
物凄い勢いで聞かれて、俺は誤魔化すように笑ってエルケントさんを見る。
「これも、ハスフェル達の知り合いが……その、ね」
「了解だ。エルケント、貴重なジェムを融通してくれるんだから、それ以上聞くな」
アンディさんに背中を叩かれて、ようやく我に返ったエルケントさんは何度も頷いた。
「失礼した。それで、どれくらい融通していただける?」
「ええと、幾つでもありますよ。それこそ万単位で」
また絶句する。
「まあ、正直言って、現状無いジェムを探すほうが早いくらいなんで、俺としては、幾つでも引き取っていただけるのなら有り難いです」
「ちなみに、恐竜のジェムは何があるのか聞いても良いか?」
「ええと、ブラックトライロバイト。亜種と素材は角ですね。それからブラックイグアノドン。亜種もあります。素材は爪。ブラックラプトル。亜種もありますよ、素材はこれも爪ですね。後は……ブラックステゴザウルス。亜種もあります。素材は背板ですね」
見本用に、一つずつ取り出して大きな机の上に並べる。
「これは……」
ジェムを前にして腕を組んだまま、エルケントさんは黙り込んでしまった。
「ううむ、これは難題だ。どれを取るか……」
アンディさんと顔を寄せて、真剣に相談を始める。
で、相談の結果。
ブラウングラスホッパーと、ブラウンキラーマンティスは各一万個。亜種は三千個ずつ。キラーマンティスの素材の鎌は二千個。
ダークグリーンオオサンショウウオは三千個、亜種は五百個を引き取ってもらった。
それから恐竜は、ブラックトライロバイトは三百個、亜種は百個素材の角は二百個。それ以外の恐竜は各種百個ずつと亜種は二十個ずつ、素材もそれぞれに十個ずつに決定した。
またしても、大量のジェムを鞄からどんどん取り出す俺を見て、エルケントさんが固まる。
無言で笑ったアンディさんに背中を叩かれても、何とか頷くだけで、何だか申し訳なくなった俺でした。
まあ、これらのジェムも、秋には米を刈り取る機械にも使われると聞いたから、俺としては是非とも頑張って沢山お米を収穫してくださいってお願いしておいたよ。
そして帰りに、米を売ってるお勧めの店を始め、この街の商店のお勧めや、買ったほうが良い食材なんかを色々と教えてもらった。
そりゃあ専門家が目の前にいるんだから、お願いしない手は無いよな。
最後に揃って満面の笑みで握手を交わして、俺はギルドを後にしたのだった。
よしよし。
色々と情報を仕入れたので、明日はまた、まずは買い物三昧からだな。