大量購入万歳!
「ええと、確かこの通りを抜けた広場だって……あ。朝市発見」
教えてもらった道を通って出た広場は朝市の活気で賑わっていた。
新鮮な野菜、山盛りに積み上げられた果物、合間には屋台も出ていて、肉を焼いていたり何やらパンケーキのような物を焼いている店もあった。
「ううん、なかなか良いじゃないか。よし、がっつり買うぞ!」
一通り見回した俺は、嬉しくなって密かに拳を握った。
この街へ来た一番の目的は豆腐なんだけど、多分それは朝市の店より普通に店舗を探した方がありそうだ。なので、ここではいつものように野菜や果物、根菜類など、近隣の農家さんが持って来てくれている新鮮な土地の恵みを、手当たり次第にガンガン買い込んでいった。
一応、まとめ買いしても良いかどうか確認してから買ってるんだけど、何処も大喜びで協力してくれるもんだから、気が付いたら朝市中の大注目を集めるお客になっていたよ。
「お兄さん、うちも見て行っとくれ」
「こっちもよろしく!」
「うちの果物は街一番だよ!」
次々と掛かる声に苦笑いしつつ、俺はもう開き直ってがっつりと買い物を楽しんだ。
お陰で、俺が収納の能力持ちだって事は、ほぼ市場中の人が知る事になってしまった。
まあ、これだけ密集した市場で目の前で収納すれば、そりゃあ確かにバレるよ。
今までの街の朝市の人達も、多分見て見ぬ振りをしてくれていたんだろう。あはは……。
多分、ほぼすべての店で買い物をした気がする。うん、新鮮野菜と果物その他もろもろ、どれも相当な量が手に入ったぞ。
拍手で見送られて、俺は八百屋のおっさんに教えてもらった豆腐屋を目指して、別の通りへ向かった。
この街は、今までの街よりも、なんと言うかごちゃ混ぜ感が半端ない。
職人通りとか、肉屋が集まる通りとか、今までのように一箇所に同じ店が集まっていないのだ。
逆に言えば、一つの通りで一通りの買い物が出来る。
「へえ、住んでる人にすれば、こっちの方が住みやすそうだよな」
途中に見つけた店で、鶏肉と牛肉、豚肉各種を大量買いしながら、ふと思いついた俺は肉屋のおっさんに聞いてみる事にした。
「あの、ちょっとお聞きしても良いですか?」
「ん? どうした?」
お釣りを返してくれながら不思議そうに言われて、俺は店に並んでいる氷で冷やしている冷蔵庫を見た。
「こんなに大きく無くて良いんですが、冷蔵庫が欲しいんです。何処で売っていますか?」
「言っておくが、こいつは、買っても氷が無かったら使えねえぞ」
「あ、それは当てがあるんで大丈夫です」
俺の言葉に、おっさんは笑って道具屋の場所を教えてくれた。
お礼を言ってメモを受け取り、店を後にする。
「あれ? これって焼きそば屋のおっさんに教えてもらった、業務用の店の近くの場所じゃね?」
書いてもらった住所と地図を見比べて頷く。
「へえ、同じ通りだ。じゃあこれは明日にでも行ってみるか」
ちょっと考えて、次に見つけた牧場直営の店で、牛乳やチーズ各種を大量に買い込み、帰る際にそこで豆腐を売っているお勧めの店を教えてもらう。
元営業マンのコミュニケーション能力舐めるなよ。ふっ。
だけどその店は、老夫婦がやってる小さなお店らしく、その日に作った分が売り切れたら、もう店を閉めてしまうらしい。
それと、大量に買うならこっちが良いと、もう一軒、大きな店も教えてもらった。
多分、最初の店の方が美味しいだろうけど、急に大量購入したら常連さんに迷惑かけそうな気がする……。
ちょっと考えて、俺はまず、その老夫婦がやってるのだと言う店に行ってみた。
確かに小さな店で、だけど置いてある水槽は大きい。
少し離れて見ていると、お客の殆んどが自分で鍋やお皿を持ってきていて、そこに入れてもらっている。
いかにも、地元に密着した常連さん中心のお店って感じだ。
「ちょっと買ってみるか」
そう呟き、とりあえず店を見に行ってみる。
「いらっしゃい。おや、初めてみる顔だね。よかったら見て行っとくれ」
優しそうな笑顔のおばあさんが、少し曲がった腰を伸ばして俺を見てそう言ってくれた。
その言葉だけで、常連さんに支えられている良いお店なのが分かるね。
「冒険者なんで、この街にいるのは、期間限定です」
笑ってそう言うと、おばあさんは感心したように俺の腰の剣を見た。
「おや、そうなのかい。あんた達が身体を張ってジェムモンスターを倒してくれるおかげで、私らが暮らしていけるんだからね。無理はいけないけど、頑張っとくれ」
そんな事言われたのは初めてだったので、本気で驚いたよ。
何となく、冒険者って街に住む人とは違うって思われてるんだと思ってた。
「沢山、ジェムをギルドに渡しましたので、多分近いうちに流通しますよ。楽しみにしててください」
笑ってそう言うと、おばあさんは満面の笑みになった。
「ありがたい事だね。ジェムの道具が無いと、私らは水の浄化だってろくに出来やしないんだからね」
水槽を叩いてそう言う。
「ああ、ごめんよ。何にするね?」
誤魔化すようにそう言うと、壁に貼られたお品書きを示してくれる、
そこには、木綿豆腐、絹ごし豆腐、厚揚げ、薄揚げ、がんもどき、おから。とあった。
「ぜ、全部ください……」
思わずそう言い、おばあさんを見る。
「全部? 幾つずつだい?」
「ええと、いくつ売っていただけますか?」
俺がそう言うと、おばあさんは困ったように俺を見て、それから揃って豆腐の入った水槽を覗き込んだ。多分困ってる。
そりゃあそうだよな、幾つ欲しいかなんて、客が言わなくてどうするんだって。
「あ、じゃあ全種類十個ずつ……でどうですか?」
「ああ、構わないよ。ええと何か入れるものは持ってるかい?無ければ……」
「ああ、有ります有ります! ここにお願いします!」
今なら空の鍋は大量にある。まずは木綿と絹ごし豆腐をそれぞれ分けて鍋に入れてもらう。厚揚げと薄揚げ、がんもどきはお椀に、おからもまとめて鍋に山盛り入れてもらった。
よし、おからがあれば、これで卯の花がつくれる。おからサラダも、おからハンバーグも作れるぞ。
久々のヘルシーメニューを考えて嬉しくなった。
お礼を言って、店を後にして、もう一軒の大型店へ向かう。
「おお、ここは確かに大きい」
聞いた通り店構えも大きいし、店先にはいくつもの大きな水槽が並んでいて、中には大量の豆腐が並んでいる。
ここでは大量購入しても良いかを確認して、全種類五十個ずつお願いした。
実費で器を用意してくれると言われたのでお願いしたら、陶器の平べったい器に、豆腐が十個ずつ並べたのを出してきてくれた。
主に、店舗用に用意している入れ物らしい。
何これ、めちゃ良いじゃん。
って事で、予算は潤沢にあるので、全部この器に入れて貰う。
満面の笑みの店員さん達に見送られて、店を後にした。
「よし、取り敢えず欲しいものは手に入ったから一旦戻るか。昼は買った豆腐の食べ比べだ。ああ、こうなると某◯ーチキンとか欲しいよな。あれがあれば、おからでサラダが作れるのに」
レシピを考えながらふと思った。絶対この街なら有りそうだ。
思わずさっきの店に戻った俺は、店員さんに質問して予想通りの答えをもらった。
マグロやカツオの油漬けや水煮。有るよ。有ったよ。
って事で、これまた売ってるお店を教えて貰い、帰る前に行ってみる事にした。
で、結果。
瓶詰めのマグロとカツオの油漬けと水煮、どちらも大量に購入しました!
やったぜ、これでまたメニューが増える。
予想以上の大量購入の成果に、俺はご機嫌で宿泊所へ戻ったのだった。
よし、昼を食って、商人ギルドにジェムを売ったら、残りの時間は料理の仕込みをするぞ!