ジェムの追加販売
大満足の夕食を終え、ついでに食料確保もした俺達は、店を出て宿泊所に向かっていた。
相変わらずの大注目だが、もうこうなったら変に気を使うよりも良いかと、それぞれの従魔達に乗って、ゆっくりと一列になってハスフェルとギイ、オンハルトの爺さんと俺の順で進んで行った。
マックスの背の上からなら、街の様子がよく見える。
すっかり暗くなった街の道路には、ジェムの街灯が付いているのだが、どうやらジェムが足りないようで、数個飛ばし程度にしか点灯されていない。
その為、街全体がやや薄暗い。
飲食店や居酒屋っぽい店には、煌々と明かりが灯っているので見えないわけでは無いが、例えば、奥の住宅地の辺りならもっと暗いのかもしれない。
「なあ、もしかして街灯用のジェム、足りて無さそうだよな。ハードロック各色も渡して来たほうが良さそうじゃないか?」
「ああ、確かにそうだな。この街灯の様子を見るに、確かにジェムの保有量はギリギリみたいだからな」
ハスフェルだけでなく、ギイとオンハルトの爺さんも苦笑いして頷いている。なので、宿泊所へ戻る前に、そのままもう一度ギルドの建物の中に入って行った。
やっぱりここでも冒険者達の大注目を集めながら、ギルドマスターのアンディさんを呼んでもらう。
「ああ、ケンか。どうした?」
さっきの部屋から出て来たところを見ると、おそらくジェムの鑑定をしていたんだろう。
「あの、街の様子を見ていて思ったんですけど……ハードロック各色もありますけど、要りますか?」
最後はアンディさんにだけ聞こえるように、ごく小さな声でそう言ってやる。
俺の言葉を理解したアンディさんの目が、これ以上ないくらいに見開かれてそのまま固まる。
「実はたった今、商人ギルドへ連絡して資金面で幾らでも協賛して貰えるとの確約を受けた。恐竜のジェムをもう少し譲ってもうつもりだったんだが、そう言う事なら話は別だ。数はあるのか?」
「好きなだけどうぞ」
苦笑いして、そう言ってやると、真顔で頷かれた。
「それなら奥へ来てくれ。詳しい話をしよう」
って事で、またしても奥の部屋に集合。
付いて来た従魔達は、部屋の入り口で大人しく待ってくれている。
「しかし、さっきも思ったが、本当にどの子も大人しいんだな。あれは初めて見る柄だが、レッドリンクスの亜種なんだろう? こっちはヘルハウンド、ハスフェルが連れているのはおそらくグレイハウンド、あの大きさなら間違いなくどちらも亜種。挙句にブラックラプトルの亜種にグレイエルクの亜種と来たもんだ。実際にこの目で見ても、なんの冗談だって叫びたくなるぞ」
苦笑いしてそう言うと、肩を竦める。しかし、視線はニニに向いたままだ。
「もしかして、レッドリンクスに何か思い出でもお有りですか?」
一瞬驚いたように俺を見たアンディさんだったが、もう一度ニニを見て小さく頷いた。
「一度、依頼を終えて仲間達と一緒に帰還途中に、森の中でいきなりグリーンリンクスに出くわした事がある」
当時を思い出すかのように、目を閉じて小さく首を振る。
「五人のパーティだったが、正直言って悪夢だったよ。幸い小さな個体だったようで、俺達でも何とか戦えた。だが……とにかく誰も死ななかったのが奇跡だったよ。文字通り死に物狂いで戦った。手持ちの、冒険者にとっては全財産とも言える貴重な万能薬を全部使い尽くして、何とか撃退したものの、仲間のうち三人が酷い怪我で動けない状態だった。万能薬は尽きた。もうその場から動けなくてな。他の魔獣に襲われたらもう一巻の終わりだ。本気で死を覚悟したんだがな……」
「ええ、どうなったんですか?」
思わずそう聞いてしまう。
確かに、ニニの運動能力を見れば、たとえ小さな個体でも人間なんてちょろい獲物だと思う。逆に五人で怪我を負いつつも撃退出来たのなら、アンディさんは間違いなく相当な腕の冒険者だったんだろう。
呆然とする俺を見て、アンディさんはチラリとハスフェルを見た。
「まさかとは思うけど、助けたの?」
「街へ行く途中だった。確かあの時は、別の騒ぎのおかげで馬を手放したところだった。で、徒歩で移動中に酷い血の匂いに気がついてな。間違いなくすぐ近くで誰かが魔獣に襲われてると分かった。で、大急ぎで辺りを調べて駆けつけたんだよ。地面に倒れている彼らを発見した時は、間に合わなかったのかと思ったよ。だがまだ息があったんでな。それで手持ちの万能薬で、何とか回復させてやったんだ」
「そりゃあ良かったな。また、まさしく神の助けだな」
思わずそう言うと、アンディさんは小さく吹き出した。
「確かにそうだな。暮れ始めた森からたった一人でいきなり出てきた彼を見た時、意識が朦朧としていた俺は、本気で俺を迎えに来てくれた戦神だと思ったんだからな」
いや、その認識、めっちゃ正解ですから。
って脳内で突っ込んでおき、笑っている二人を見た。
「俺に手を差し出すから、てっきり助けを求めているんだと思って駆け寄ったら、いきなり手にすがって懺悔を始めるもんで、俺は本気で驚いたんだからな」
「懺悔は街へ戻ってから祭壇の前でやれ、悪いが俺はそれは担当外だって、そう怒鳴られたんだよな。確か」
アンディさんの言葉に今度は二人揃って吹き出し、また大笑いしている。仲が良くて何より。
「ああ、すまんすまん。すっかり話が逸れたな。じゃあ、ここに出してくれるか。各色三千個ずつ買わせてもらう」
「了解、じゃあ出しますね」
そう言って鞄を覗き込んで、アクアが出してくれる大量のジェムをせっせと机に並べながら、不意に疑問に思った。
『なあハスフェル、ジェムって色違いでも性能は変わらないんだよな?』
『ああ、そうだぞ。色の違いは生息地の違いで、ジェム自体に優劣は無い』
『だったら全色各三千じゃ無くて、全部で三万個って言ったら良いんじゃね?』
『確かにな。だが、ジェムの保管や整理の際には、まず色別で管理するからな』
最後の1つを机の上に置いた俺は、思わずその山を見つめた。
そして、不意に疑問に思った。
今まであまり気にしていなかったけど、そういえばジェムモンスターの色って、ジェムモンスターの間は身体の色だったりパーツの色だったりで大抵分かるけど、ジェムになった後って、全部一緒だよな。
ジェムの場合は、大きさや形で何の種類か見分けていたけど、考えてみたら確かに色って何処で見分けているんだ?
突然の疑問に、俺は無言で右肩に座っているシャムエル様を見つめた。
「うん? どうしたの?」
尻尾の手入れをしていたシャムエル様が、不思議そうに顔を上げて俺を見る。
うん。これはどちらかと言うと、シャムエル様じゃ無くてハスフェルに聞いた方が良い質問だな。
後で宿泊所に戻ってから聞いてみよう。