ジェムの買い取りと夕食
「待て待て。そんなに有るのか?」
「いや、だから言いましたよね。現状、無いジェムを探す方が早いって」
苦笑いした俺は、まずはウサギ、ネズミ、爬虫類系の単価の低いジェムを一つずつ取り出して並べた。
「幾つ要りますか? 正直言って、どれも万単位余裕でありますから、遠慮無くどうぞ」
「ま、万単位?」
「あ、これも好きなだけ買っていただけますよ」
ブラウングラスホッパーのジェムも出しておく。
「こんなに沢山、一体どうやって……」
言葉が続かないアンディさんに、俺は笑ってハスフェルの腕を突っついた。
「以前、仲間だったハスフェルの友人達が大張り切りしてくれましてね。まあ、普通の冒険者とはちょっと違う人達だったので、とんでもない数のジェムと素材が集まってるんです。あ、ご希望のジェムがあれば言ってください。探しますから」
「いや、グラスホッパーのジェムがあれば……ちなみに、装飾用のジェムって何があるか聞いて良いか?」
奥で爺さん達が相談を始めたのを見て、アンディさんが振り返る。
「ええと、主に地下洞窟で集めた恐竜のジェムですね」
その言葉に、物凄い勢いで全員が振り返った。
何そのシンクロ率、しかも真顔。怖いって。
「分かった、幸い今は予算は潤沢にあるんだ。今出してくれたこっちのジェムは、全種類五千個、亜種は千個ずつ買おう。グラスホッパーのジェムは一万個、亜種があれば五千個欲しい。それから、恐竜のジェムは、何が有るのか教えてくれ」
真顔のアンディさんにそう言われて、若干びびりつつ、アクアゴールドが入った鞄を覗き込む。
『恐竜のジェムは、アポンの洞窟で集めた程度までにしておけ』
苦笑いしたハスフェルの念話で届いた言葉に、俺も苦笑いして頷く。
「ええと、それならまずはブラックトライロバイトかな。亜種もあります。素材は角ですね」
身を乗り出す全員に見えるように、机の上に見本のジェムと角を置いた。
「数は相当ありますので、お好きなだけどうぞ」
「ちなみに、他には何が有る?」
爺さん達が沈黙する中、アンディさんが物凄〜く低い声で、唸るようにそう聞いてきた。
「ええと、それ以外なら……ブラックイグアノドン、ブラックラプトル、ブラックステゴザウルス……ですね!」
また念話でハスフェルから、そこまでにしておけとストップがかかった。
揃って唸ったアンディさんと爺さん達は、真顔で顔を見合わせる。
「悪い、ちょっと待ってくれるか」
分かります、相談するんですね。
主に予算的な部分で。
「ええ、もちろんです。どうぞ」
俺はそう言って、後ろに下がる。
一礼したアンディさんと爺さん達が、顔を突き合わせて真剣な顔で相談始める。
「……恐竜は、しかし……」
「いや、こんな機会は、滅多に無いのだから……」
「しかし、通常のジェムは絶対に確保しなければ……」
「後、使える予算は……」
困ったようなその話し合いの様子を見て、俺はため息を吐いて手を挙げた。
「あの、ちょっと待って下さい!」
俺の大声に、また全員同時に振り返る。
だから怖いって、そのシンクロ率。
「あのですね。まずは一般の方々向けのジェムを優先される事をお勧めします。恐竜のジェムは早々無くなりません。すっげえ数が有りますのでご心配無く。いつでも言っていただいたら、融通しますよ」
「本当か!」
「はい。あ、一応一週間程度はこの街にいる予定ですので、その間ならいつでも言って下さい」
「感謝するよ。それならまずは、さっき言った数で頼む。それから、恐竜については……トライロバイトは百個、亜種は五十個、素材の角は……百個頂こう。後の恐竜は、各種類十個ずつだけ貰おう」
「恐竜は亜種と素材も有りますよ」
「ならそれも、一先ず十個ずつ頼む」
「了解です、それじゃあ出しますね」
頷いた俺は、鞄を覗き込んだ。
とは言え、それだけでも相当な数だ。
まずは、ジャンパーの色を確認しながら順番に取り出していく。
俺が大量のジェムを、まるで鞄から大量の水が溢れ出すみたいに取り出すのを見て、全員の顎が落っこちた。
「お、お、お前さん……その収納……一体どれだけ入るんだ?」
副ギルドマスターの一人が、呆気に取られたようにそう呟く。
「いやあ、実は相当入るんですよね、ありがたい事に」
誤魔化すようにそう言って笑い、口元に指を立てる。
「って事なんで、これでお願いします」
苦笑いして頷く皆に一礼して、次はホーンラビットとダブルホーンラビット各色も取り出していく。途中で取り出したジェムが机に乗り切らなくなり、その頃になってようやく、呆然としていた副ギルドマスターの爺さん達が動き始めた。
大きな空の木箱と手押し車を持って来て、ジェムを種類別に分けて入れ始める。
俺も手伝って、ガンガン取り出していった。
おお、微々たるものだけど、これだけのジェムの種類を出せば、ちょっとは減ったと言って良いよな。
「恐竜のジェムは、それじゃあここに出しますね」
ハスフェル達が、壁際の棚から取ってきてくれた深めのトレーに並べていく。
「ええと、ご注文の数は、これで以上……ですかね?」
まだまだ種類も在庫もあるが、今回はこれくらいにしておいてやるぜ。ふう。
奥から何やら奇声が聞こえてきて、振り返った俺は思わず吹き出した。
「どうぞ気が済むまで鑑定でも何でもしてください。あ、ギルドマスター。買取り金は俺の口座にお願いします」
ギルドカードを取り出して見せると、アンディさんは頷いて一緒に出て来てくれた。
受付でカードを渡して手続きを取ってもらう。
「あれだけの数だからな。鑑定にちょっと時間が掛かるかもしれん。どうする? 全部鑑定出来たら連絡したほうが良いか?」
「あ、そこは信用してますので、後程明細を頂けたらそれで良いですよ」
「そうか。すまないな。時間を取らせてすまなかったな」
申し訳無さそうにそう言ってくれたので、腹の減り具合が限界になりつつあった俺達は、早々にギルドを後にしたのだった。
「それで、どこに食べにいくんだ?」
マックスのすぐ横を並んで歩きながら、同じくシリウスの首輪を掴んで隣を歩いているハスフェルを振り返る。
彼の案内で到着したそこは、以前、東アポンで行ったような屋台村っぽい作りになっている。しかも簡単な屋根があるだけの、簡易テントみたいな感じだ。
そう、つまりは全部外から丸見えな訳で。逆に言えば、すごくオープンな店だ。
「ここは、麺料理や米料理が沢山あるぞ。ケンはきっと気に入ると思うぞ」
道路に近い机を確保して、従魔達には端に固まって座っていてもらう。
でもまあ、マックスとシリウス、それからニニの三頭が並んで座っている時点で、外から注目を集めない訳はない。
もう気にしない事にしたよ。
だけど一応、ベリーに周囲への警戒だけはしておいてもらうように頼んだ。
「じゃあ、何が売ってるか見てくるから、ここで大人しく待っててくれよな」
順番に全員を撫でてやってから、俺は店を見に行った。
「うわあ、定食だ」
俺に取っては懐かしの定食屋メニューの店が二軒並んでいる。
「ふろふき大根とか、揚げ出し豆腐とか、ああ、どの店も最高だよ」
うん。俺、毎食ここでも全然オッケーだよ。
「ああ、焼きそばがある! って事はソースがあるんだな。よし、ここにしよう」
一人前用意してもらい、お箸をもらって席に戻る。一旦焼きそばを置いて、隣のご飯屋で、おにぎりと野菜のたっぷり入った味噌汁も買ってくる。
「麺とご飯ってめちゃ炭水化物メニューだな。まあ良いや」
だって、本場のお米がどれほどの物なのかを、まずは確認したかったんだ。
それと、いわゆるトンカツソースやウスターソースも探していたんだよな。なので、今夜のメニューは下調べを兼ねているんです!
と、脳内の誰かに向かって言い訳を並べ立てて、お箸を手にした俺はしっかりと手を合わせた。