カデリーの街と冒険者ギルド
「それじゃあまずは、冒険者ギルドへ行って登録と、エラフィの従魔登録をしないとな」
城門の兵士からもらった新規登録特典の割引チケットを見ながら言うと、三人も笑って頷いた。
ここのギルドに初めて登録するのは、俺とオンハルトの爺さんの二人だけだ。当然既に登録をしているハスフェルとギイは、ここでも上位冒険者らしい。
ま、俺も登録したら、勝手に上位冒険者扱いなんだよな。良いのかね?
「それじゃあ、ギルドの建物ならこっちだ」
ハスフェル達の案内で、夕焼けに照らされて赤く染まった街を歩いて行った。
「あはは……やっぱり大注目じゃん、しかも皆めっちゃビビってるし」
夕方の人が多い時間帯だったんだろうけれど、俺達が歩き始めると、ぎっしりと道にいた人達がいっせいに後ろに下がった。中には走って逃げる人までいるよ。
「ああ、まただよ。こんなに可愛いのになあ」
そう言って笑い、ニニの首に抱きついてやると周りからどよめきが沸き起こった。
「すっげえ、あれをテイムしたのかよ」
「いやいや、有り得ないだろう?」
「待て、あの後ろにいるのは、恐竜じゃないか?」
「うわあ、なあ……あれってハウンドだよな。どれも有り得ねえだろう。あんなのどうやってテイムしたんだよ」
恐らく冒険者なのだろう。腰に剣を装備した全部で六人くらいのまだ若そうな人達が、俺達の従魔を見てドン引きしている。
「まあ、気にするな。行こう」
彼らの言葉に苦笑いするハスフェルに頷き、黙ってマックスの首輪を掴んで横を歩いた。ニニはマックスの後ろを大人しくついて来ている。
街中の大注目を集めつつ、俺達はとにかく冒険者ギルドの建物に向かった。
「へえ、なんて言うか……今までで一番、いるだけで違和感を感じる街かも」
周りを見回しながら思わずそう呟いた。
そう。それはこのカデリーの街へ入った時からめちゃめちゃ感じてた違和感。
これは無い。いやマジです。
まず俺の目に見えるのは、メイン通りと思われる道沿いに建つ、石造りの建物。……なんだけど、これがどれも妙に昭和モダンの建物っぽい。まあ、あれは建てられたのは明治時代とからしいけど。
例えば、装飾的な綺麗な細工のされた金属製の窓枠だったり、石の壁面に唐草模様みたいなのが延々と彫り込まれていたりする。なんだかおしゃれだ、
だけど、時々、無機質な飾りも何も無い四角い石造りの、いかにもビルっぽい建物もある。
合間には全面タイルを敷き詰められた建物もあったよ。うん、これもザ・昭和って感じだ。
それから今までの街と違い、馬車や馬達用の道路の横に、歩行者用の歩道がある。
交差点は円形だが、今までの街よりも全体的に店舗の種類もそれほどきっちりと分かれておらず、全体に街が雑然としている。店の横に屋台が出ていたりして、これも全体に妙にアジアンチックだ。
それと、円形交差点から見た時に気が付いたんだけど、住宅地らしき一帯には木造の平屋、もしくは二階建て程度の小さな家がいくつも並んでいる。しかもどう見ても瓦葺き。
時に大きい建物もあるが、よく見ると……真ん中に階段があって左右に廊下があって、等間隔に扉が並んでいる。いわゆる昭和の長屋っぽい集合住宅だったりする。
それに、もう一つ特徴的なのが街の人の顔立ちだ。
今までは、いわゆるハスフェルやギイ、オンハルトの爺さんの様な、彫りの深い白人の顔立ちの人が多かった。俺みたいな黒髪に茶色の目の人も、いないわけではなかったが少数派だった。
だけど、この街の人は圧倒的に黒髪アンド茶色の目の人が多い。そして顔が妙に平らだ。あはは、ここでなら俺のモブ顔も違和感無いぞ。よしよし。
その、妙に見覚えのある懐かしい街並みと同族感満載な顔の人達。
そこに、鋲の打たれた見事な細工の革の胸当てや籠手や脛当て、腰には剣を装備して、有り得ない大きさの従魔達や、モデルか芸能人でないとおかしい様な容姿の仲間達と一緒にいる俺……。
そりゃあ、これは違和感を感じない方がおかしいよ。
もう俺は、歩きながら途中から笑いを堪えるのに必死だった。
うん、間違い無くこの街なら俺が欲しい物は全部手に入るって。理由は無いけどそう確信出来たね。
ようやく到着したギルドの建物は、これまた立派な石造りの建物だった。
だけどなんと言うか……以前会社の資料室で見た、本社の昭和初期の頃の写真で見た、近隣の銀行にそっくりだ。
立ち止まって建物を見上げる振りをして、深呼吸をして何とか笑いを治めた。
俺達が従魔達と一緒にギルドの建物の中に入ると、予想通り、物凄いどよめきと共に、そこにいた冒険者全員が武器を手にいっせいに身構えた。
「ああ、もうやだ〜! 毎回毎回、苛めかよ!」
思わず叫んでマックスの大きな頭に縋り付く。背後からニニが頬擦りしてくれるのが分かり、顔を上げてニニにも抱きついた。
「はい注目!」
ハスフェルが一度だけ力一杯手を打ち大きな声で叫ぶ。
「この場で紹介しておく。彼はケン。ご覧の通り、超一流の魔獣使いだ。ここにいる従魔達は全員彼がテイムした従魔達だぞ。よく見てみろ、紋章が有るだろうが!」
その言葉に全員が驚いた様にハスフェルを見て、それからマックス達従魔の紋章を見て、俺を見る。
苦笑いした俺が一礼すると、全員納得したのか武器をしまってくれた。
「ほら、さっさと登録して来い」
笑ったギイに背中を叩かれて、俺とオンハルトの爺さんは、急いで新規登録受付の席に座った。
「あの、登録をお願いします!」
「登録と、従魔の登録も頼むよ」
それぞれにギルドカードを出してそう言うと、受付に座ってくれた若い男性スタッフさんが、手早く書類を取り出してくれた。
とは言え、書くのは従魔登録のあるオンハルトの爺さんだけだけどな。
いつものポイントカードみたいなあれにより、無事に裏書きの文字が書き換えられました。
それから割引券にサインを貰って返してもらう。
指定の店で使うと、金券として使えるんだってさ。
それから全員分の宿泊所の部屋をお願いする。
だけどここで問題発生。ここの宿泊所は、そもそも庭付きの部屋がふた部屋だけしかないらしい。
まあ、もともと一人部屋が宿泊所では一番人気だって言ってたもんなあ。
で、相談の結果、俺とハスフェルが庭付きの部屋を借りて、ギイとオンハルトの爺さんは一人部屋に泊まる事にした。
ギイのデネブとオンハルトの爺さんのエラフィは、ハスフェルの部屋に一緒に泊まる事で話がまとまったよ。