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爺さんの従魔をテイムする

「お待たせ。それじゃあ宿に戻ろう」

 買い込んだタマゴサンドを鞄に押し込みながら、俺はそう言って振り返った。



 作り置きの中でも、すぐに食べられるサンドイッチや串焼きなんかの在庫がかなり乏しくなっていたので、少しだけ時間をもらって、屋台で手当たり次第に有るだけ買い込んだのだ。

 一応、店主には許可は取ったよ。

 だけど、どこの屋台も大量買い大歓迎だと言ってありったけ売ってくれたので、もう遠慮せずに買いまくりました。

 一通り確保したところで、撤収して宿に戻った。

 留守番してくれていたマックス達と合流して、宿の鍵をギルドに返せばもう出発準備は完了だ。



 ギルドマスターのアーノルドさんには、待ってるから、戦利品の整理が出来たら確保した珍しいジェムと素材をよろしくな。と満面の笑みで言われたよ。

 ハスフェル達が苦笑いしつつ頷いていたので、どうやらバイゼンへ行くまでにもう一度ここに戻って来ないと駄目みたいだ。

 笑顔のアーノルドさんと、俺達が出発すると聞いたギルドにいた冒険者の人達が表まで出て見送ってくれた。


「それじゃあ、まずはカデリーだな」

 見送ってくれるアーノルドさん達に笑顔で手を振り返し、一気に俺達がそれぞれの従魔の背中に飛び乗ると、何故だか冒険者達からどよめきが起こった。

「すげえ。本当にあれに乗るんだ」

「うわあ、ヘルハウンドにラプトルだぜ。何度見ても凄えな」

 呆れた様な呟きに笑って肩を竦めて、もう一度鞍上から手を振った俺達は、街中の大注目の中を大人しくゆっくりと街の外へ出て行った。



「ふむ、こうなるとやはり俺も何か乗れる従魔が欲しいな。ケンよ、確保は自分でやるからテイムしてくれるか」

 ようやく街を出て、街道から外れたところで、苦笑いしながらオンハルトの爺さんがそんな事を言い出した。

 どうやら、俺達の従魔の全力疾走について行くのは、いくら優秀とは言え普通の馬にはちょっと荷が重いらしい。

 って事は、まだ当分の間一緒にいてくれるって事だよな。ちょっと嬉しい。

「ああ、良いぞ。自分で確保してくれるんならテイムくらいするよ」

 嬉しそうに頷いたオンハルトの爺さんは、笑って周りを見渡した。

「さて、この辺りに乗れそうなのはいるかな?」

「この辺りでなら、そうだな……あ、魔獣で良ければグリズリーはどうだ?」

 目を輝かせたハスフェルがとんでもない事を言うので、俺は慌ててばつ印を作って見せる。

「何故だ?、あれもよく走るぞ」

「いやいや、ちょっとは考えろよ。グリズリーって事はデカいんだろう? しかも魔獣? そんなのうっかり連れて街へ行ったらパニックになるぞ!」

「駄目か? それなら……あ、エルクはどうだ? ジェムモンスターだが、あれもよく走るぞ」


 エルク……?


 しばらく考えて手を打つ。

「あ、鹿か。へえ、それなら街へ行っても、それほど騒ぎにはならないよな」

 納得した俺を見て、ハスフェル頷いている。

「テイムするなら雄にしろよな、あの角は格好が良いぞ」

 ギイが目を輝かせて横からそんな事を言う。

「まあ確かに、鹿の角って格好良いよな。それじゃあそのエルクってのにしよう。ええと、生息地は近いのか?」

 俺がそう言うと、俺達のすぐ隣を走っていたベリーが、いきなり姿を現した。

「エルクなら、亜種が良いですよ。あれは良く走るし持久力も馬とは桁違いです。亜種なら攻撃力も高いですから旅の安全度も増しますよ。それじゃあ見つけてきてあげますから、先に行っていてください」

 同じく、姿を現したフランマも嬉しそうにベリーの後を追って走って行ってしまい、あっという間に見えなくなってしまった。

「あはは、なんだかまた手伝ってもらえるらしいぞ」

 笑って見送り、そう言って振り返ると、三人も頷いて笑っている。

「頼もしい援軍が貰えたところで、それじゃあエルクの生息地へ行こう。ここからならすぐだぞ」

 ハスフェルがそう言ってやや北に進路を取る。

 遅れずに俺達も後を追った。



 うん、鹿って言うから、つい奈良公園の鹿を思い出して、それなら大丈夫だと思った俺……いい加減学習しろよな。

 この世界のジェムモンスターが、俺の常識とは色々とかけ離れてるって事をさ!




「よし、ここなら広くて良いだろう。ここで待つぞ」

 雑木林が途切れた場所にあったのは、かなり広い草地で、ハスフェルの指示で、俺達は雑木林に潜んで待つ事になった。

 まだ高い日差しが眩しい。

 見上げるよく晴れた空には、雲一つ無い。

「さて、どんなのが来るかね?」

 そう呟いてゆっくりとマックスの背から降りた。



 しばらく大人しく待っていると、やや興奮したようなベリーの念話が届いた。

『エルクの亜種を見つけましたよ。少し弱らせてから追い込みますので、充分注意してくださいね』

『おう、待ってるからよろしくな』

 気軽に念話を返して身構える。マックスとニニが俺のすぐ側で身構え。猫族軍団を始め、従魔達全員が巨大化してやる気満々だ。

 ファルコは今回は参加しないらしく、頑張ってくださいねとだけ言って、雑木林の中にある木に留まって身繕いに精を出していた。



 いきなりのガサガサという茂みを掻き分ける音と共に、そいつは俺達の目の前に飛び出してきた。

「うわあ、ちょっと待ってくれよ! マジであれをテイムするのかよ!」

 思わず叫んだ俺は間違ってないと思う。

 だって、飛び出してきた巨大な角を持ったその鹿は、見かけは普通の鹿だったけど、大きさがおかしかった。

 だって、控えめに見てもマックス達と変わらないくらいの大きさだったんだぞ。いや、足や首が長い分、エルクの方が大きいくらいだ。

 額に生える二本の枝状に大きく広がった太い角は、先の部分が細くなって尖っている。あれに突撃されたら、マジで人生一瞬で終了だろう! って本気でビビるくらいだったよ。



 はい、白状します。エルク舐めてました。

 だって、以前のソレイユやフォール達をテイムした時の事を思い出して、今回は肉食じゃ無くて草食動物なんだから楽勝だと思ってたんだよ。

 なのに、まさかのマックスよりもデカいサイズ。しかも鋭利な角付き!

 本気で気が遠くなった俺だったが、残念ながら俺以外の他の三人の意見は違ったらしい。



 雑木林からエルクが飛び出して来た瞬間に、ハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さんは即座に飛び出し、三人掛かりでエルクの背中や首に飛び乗り、その太い首を腕や足を使って締め上げ始めたのだ。

 頭を振って嫌がるように何度も跳ね回るが、彼らはエルクの身体から全く落ちる気配がない。

 うん。相変わらず凄え筋肉だな。

 彼らが首を確保したのを見て、巨大化した猫属軍団が襲いかかり、見事なまでに爪も牙も使わずにエルクを横倒しにして押さえ込んでしまったのだ。

 俺なんか、何が起こったのか理解した時にはもう、全部終わってました。

 うん、分かってたけどテイムする相手の確保に関しては、俺は全く戦力に数えられていなかった模様。



 まあ当然だよな。戦力として当てにされても困るって……なあ?



 三人掛かりで首を絞められ、挙句に巨大な捕食者達に勢揃いで押さえ込まれてしまい、しばらくもがいていたエルクだったが、最後には大人しくなったよ。

「よし、もう大丈夫だな。ケン、頼むよ」

 首元を締め上げていたオンハルトの爺さんの言葉に、俺は頭を押さえつける様にして上から覗き込んだ。

「俺の仲間になるか?」

 嫌がる様にもがいていたが、ハスフェルとギイの二人にまたしても締め上げられて、悲しそうに鼻で鳴いてすっかり大人しくなった。

「分かりました。貴方に従います」

 一瞬光った後、意外に若々しい声で答える。うん、角があったから分かっていたけど、こいつは雄みたいだ。

 三人と従魔達が手や口を離してくれたので、その場にエルクはゆっくりと起き上がった。

「紋章はどこに付ける?」

 右の手袋を外しながらそう聞いてやると、エルクは嬉しそうに頭を下げた。

「ここにお願いします」

 丁度角の根元辺りを撫でてやり、オンハルトの爺さんを振り返る。

「名前の希望はあるか?」

「それならエラフィで頼むよ。古い言葉で鹿と言う意味を持つ言葉だ」

「了解。お前の名前はエラフィだよ。お前は俺じゃ無くて、別の凄い人のところへ行くんだ、可愛がってもらえよな」

 右手を額に当ててそう言ってやると、もう一度光った後、どんどん小さくなった。

「あ、丁度馬くらいになったな」

 笑ってそう言い、エラフィをオンハルトの爺さんの前へ連れて行く。

「ほら、この人がお前のご主人だよ。彼を背中に乗せてやって欲しいんだ。出来るか?」

「よろしくな」

 爺さんが嬉しそうに手を伸ばしてエラフィの鼻先を撫でる。

「よろしくお願いします。新しいご主人」

 嬉しそうにその手に頬擦りするエラフィを見て、俺も笑顔になる。



 ちょっと寄り道だったけど、これで全員に良い従魔が手に入ったので、良い事にするよ。

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