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ブラウンロックトード狩りは大騒ぎ

 こっそりと気配を消して池に近寄る。唸るような鳴き声は更にデカくなって至る所から聞こえる。

 茂みからゆっくりと顔を出した俺は、思わず二度見した。

「あれ? 何にもいないぞ?」

 思わず呟いて見回した景色は、池の手前側に、高さ30センチくらいの細い葉の雑草が生い茂り、隙間からどんより濁った池の水面が太陽に照らされて光っているだけだったのだ。


 気が付くと、あの大合唱が止まっている。


 右肩を見るが、いつの間にかシャムエル様はいなくなっていた。相変わらずいきなり出たり消えたりお忙しいことで。


 しかし、目を凝らすと妙に真ん中に盛り上がった小島が気になった。何だか、全体に色が違う。

「あれ? あの小島って……」

 もう少し近付いて確認しようと思い立ち上がったら、隣で伏せていたマックスが驚いたように顔を上げた。

「あ! 駄目ですご主人!」

「え? 何がだ?」

 立ち上がっていた俺がその声に振り返った瞬間、突然池の小島が爆発した。


「うわわわわわー!」


 直径50センチぐらいの岩が四方に飛び散る。咄嗟にしゃがんだ俺の顔面に、飛んできた岩が激突した。

「げふっ!」

 物凄い衝撃に、勢い余ってひっくり返る。

「……カエルの池でひっくりかえる……」

 草地に仰向けに転がったまま、思わず呟き、自分で恥ずかしくなって顔を覆った。

 ごめん、わざとじゃないんです。スルーして……。


「うわあ、寒すぎるよ。ケンってセンス無いなあ」

 胸の上にいきなり現れたシャムエル様に呆れたように言われて、腹筋だけで起き上がる。そして文句を言おうとして絶句した。

 池の岩が無くなっている。そして、周り中にいたのは以前のマックスよりも大きい、中型犬くらいはありそうな巨大なガマガエルだったのだ。

 その全員が、無言で身じろぎもせずにこっちを見ている。


「怖っ……」

 一切鳴き声の聞こえない沈黙の空間に、俺の呟きが聞こえる。


「ゲコー!」

 唐突に一匹が大声で鳴き、物凄い高さに跳ねたのだ。

 うわあ、多分、二階建ての窓に余裕で飛び込める高さだよ、あれ。

「ゲコーゲロゲロゲロ! グキュルグゲチュー!」

 奇妙な鳴き声のそいつの声を合図にしたかのように、一斉に全部のカエルが跳ねまわり始めた。

 周りが全く見えなくて状況が何だかよくわからない、妙に鈍いぶつかる音があちこちでして、マックスとニニが怒って唸る低い声が聞こえる。


 到底カエルと思えないような超デカいのが一匹、俺に向かって物凄い速さで飛び込んで来るのが見えた。

「こっち来んなー!」

 とにかく、剣を抜いてこっちへ来るそのカエルに斬りかかった。偶然かもしれないが、頭上にいたそのデカいカエルを見事に真っ二つに叩き斬った。

「よっしゃー!」

 拳を握って叫んだ。攻撃して来ないなら怖く無いもんねー!


 ……と思って次に向かおうとした時、俺の斬ったカエルが、ジェムに変化して上から落ちてきたのだ。


「げふっ!」


 落ちてきたジェムは見事に俺の無防備な頭を直撃。目の前に星が散った。いやあ、本気で頭が真っ二つに割れたかと思ったよ……。

 そして俺の頭をかち割ろうとしたそのジェムは、そのままの勢いで地面を転がっていった。

あれ、俺の拳よりも大きかったよ。うん、よく死ななかったね。偉いぞ俺の頭。


 転がったまま頭を抑えて痛みに悶絶していると、サクラが寄って来て水を掛けてくれた。

 一瞬で痛みが無くなり、俺は驚いて顔を上げる。

「おお、これはあのオレンジヒカリゴケで作った万能薬か。そうか、打ち身にも効くんだ。ありがとうな、サクラ。おかげで痛くなくなったぞ」

 笑って紋章の辺りを撫でてやると、嬉しそうにポンポンと飛び跳ねている。

 その時、また別のカエルが勢いよく飛び込んできて、起き上がった俺はまたしてもカエルと激突して地面に仰向けに転がった。

「もうやだー! 前見て跳ねろよ! お前ら!」

 文句を言いつつも、必死で起き上がって戦いに参戦した。

 周りを見ると、マックスとニニだけでなく、セルパンやラパンも巨大化して戦ってる。ファルコは、跳ねたカエルを上空で見事にキャッチしては投げ落としている。うん、どの子も本当に強いなあ。

 あちこちに落っこちて転がる巨大なジェム。うん、今度街へ戻ったらヘルメットを探そう。頭の痛みを思い出して、若干遠い目になった俺は……間違ってないよな?


 それからは、とにかく斬ったら素早くその場から逃げる事を心掛けた。

 飛び下がってもいいし、転がって逃げるのもあり。そうしないと、またさっきの二の舞だよ。貴重な万能薬、無駄使いは控えましょう。


「よっと!」

 真っ二つになったカエルが消滅して、現れたジェムが、弾かれたように横に飛んで転がった。

 カエルを斬る時に横から払うようにして斬ると、ジェムが横に飛ぶことが分かってからは、剣を水平に振り回して、とにかく跳ねるカエルを斬りまくった。

 そろそろ腕が痛くなってきた頃、目に見えてカエルが減ってた。池に戻るカエルは放置したので、もうそろそろ終わりかな?

 マックス達も暴れるのをやめて、セルパンとラパンは元の大きさに戻ってそれぞれの定位置へ戻った。ファルコも俺の左肩に戻って来た。

「お疲れさん。あ、そう言えばお前らの飯は? 腹減ってるんじゃないのか?」

 まだ念の為剣は持ったまま、俺はマックスを振り返った。

「この所、毎日しっかり食べていますからね。別に行かなくても大丈夫ですよ。ニニはどうだ?」

「私も大丈夫だよ」

 セルパン達も、揃って首を振っている。

 そうか、あいつらは毎日食わなくても平気だって言ってたな。

「本当に大丈夫か? それなら、もうそろそろ街へ戻った方が良いんじゃないか?」

 見上げる空はまだ暮れてはいないが、かなり陽は傾いているような気がする。

「そうですね。じゃあそろそろ戻りましょうか」

 ジェムを拾ってくれていたアクアとサクラも戻って来たので、日が暮れて城門が閉じられてしまう前に、まずは街へ戻る事にした。


 その前に、疲れたのでサクラに頼んでチョコレートの箱を出してもらう。疲れた時は、甘いものだよね。

 ありがとうログインボーナス。隙間なくぎっしりに戻っていたので、遠慮なく二粒食べ、蓋を閉めかけて不意に思い付いた。

「なあ。これって、箱から取り出しておいたらどうなるんだ?」

 振り返って、またいつの間にか俺の右肩に座っているシャムエル様に聞いてみる。

「え? どういう事?」

 意味がわからなかったらしく、不思議そうにゆっくりと俺を見ながら首を傾げる。

 ……可愛いな、おい。

 もふもふの尻尾に手を伸ばしそうになり、咳払いをして誤魔化した俺は、手にしたチョコの入った箱を見せた。

「例えば、この中に入っているチョコを取り出して箱を空にしておいたら、どうなる?」

「別にどうもしないよ。明日になったら、またチョコが一粒増えるだけだよ」

「ええと、取り出した方は?」

「別に、取り出したのはそのままどうもしないよ」

「消えたりしない?」

「うん、それは君にあげたものだからね」

 ……って事は、もう一つ入れ物を用意して、そっちに今あるチョコを移しておくべきだな。毎日一粒食べるとしても、忘れる日だってあるだろうし、箱が満杯になってログインボーナス貰えなかったら悲しいもんな。頷いた俺は、ひとまずサクラに箱を返した。

「お待たせ。じゃあ急いで街へ戻ろう」

 マックスの背中に乗って手綱を握る。

「では行きますね」

 マックスがそう言い一気に駆け出して池から離れた。背後では、またブラウンロックトードの鳴き声が聞こえ始めていた。


「なあ、アクア、サクラ。今日のジェムは幾つあった?」

 走るマックスの背の上で、隣のニニの背中に並んでいる二匹に俺は声を掛けた。

「129個だよ!」

「こっちは148個!」

 アクアとサクラの返事に、小さく吹き出す。ジェムを大量買い取りに出しても、それ以上にまた増えるって……。

「ありがとうな、おかげで資金の心配は当分しなくてすみそうだよ」

 ドワーフの工房都市で、ヘラクレスオオカブトの剣を作ってもらうのに、おそらく金がかかるだろうから、それを目指して、頑張って貯めようっと。

 顔を上げて、その思い付きに、我ながら満足した。

 うん、頑張ってジェムを集める理由が出来たよ。

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