レアキャラ発見!
「な、何なんだよこいつ!」
咄嗟に後ろに下がった俺は、一動作で腰の剣を抜いて身構えた。
ハスフェル達も剣を抜く音が聞こえて、俺はパニックになりそうな自分を落ち着かせるためにゆっくりと息を吐く。
剣を構えたまま少し下がったところで、再びレース模様が動いた。
動きを止めると、レース模様も動きを止める。
その時、足音を忍ばせてニニと巨大化した猫族軍団が俺のすぐそばまでやって来た。
「大丈夫?ご主人」
小さな声でニニにそう聞かれて、俺は剣を構えたまま頷いた。
「ああ、驚いただけだよ」
答えつつも、視線は茂みの中にいるレース模様から離さない。
しばし睨み合い、と言うか双方動けないまま時間だけが過ぎる。
「なあ……あれって、素材じゃなくてジェムモンスターなんだよな?」
隣にいるニニに小さな声で質問する。
「もちろん。だけど妙ね。絶対にこちらに気づいてる筈なのに襲ってくる訳じゃなく、かと言って逃げもしないなんてね」
「って事は、危険なジェムモンスターじゃ無い可能性もある?」
「ご主人。何を以って危険というかは、相手によるわね」
呆れたようにそう言われてしまい、苦笑いした俺は、剣を一旦下ろした。
何故だか分からないけど、危険は無い。そう感じたからだ。
「じゃあ俺が相手ならどうだろう。危険かな?」
すると、いつの間にか消えていたシャムエル様が、また俺の右肩に現れた。
「ケンは、あれに危険は無いと感じた?」
真剣な声でそう聞かれて、戸惑いつつも頷く。
「うん、何故かは分からないけど、何となくそう思ったんだよな」
改めてレース模様を見ていると、いきなりそいつは茂みの中に消えていなくなった。
「あ! 消えたぞおい」
思わずシャムエル様を見ると、何故だか嬉しそうに目を輝かせている。
「ほら、大丈夫だからもう一度見に行って!」
「お、おう」
剣は手にしたまま、茂みにゆっくり近づく。
ハスフェル達は、後ろで様子見のつもりみたいだ。
まあ、俺が第一発見者だから、俺が見て来いって事なんだろうけどさ。
ゆっくりと剣の先で茂みをかき分ける。
その時、ガサガサと音がして、左側の茂みが大きく動いたのだ。
「いたか!」
剣を構えたら、茂みからレース模様がチラッとだけ見えて、すぐにまた見えなくなった。
「あれ? なんて言うか……もの凄く覚えがあるぞ。この展開……」
そう呟き、パタパタと俺の顔の横に飛んできたアクアゴールドを見る。
うん、間違いない。こいつらをテイムした時と状況が全く同じだ。
深い茂み、小さな気配とガサガサとした音。
そして。ここに危険は全く感じない事。
ひとまず抜いていた剣をゆっくりと鞘に戻し、鞘ごと剣帯から外す。
『おい、何をしてる?』
『何故武器を仕舞うんだ?』
心配そうなハスフェルとギイの念話が届く。
『うん、多分危険は無いから、見ててくれるか』
念話でそう答えて、鞘ごとの剣を持ったまま、俺はゆっくりと前に出る。
「さて、何処にいるのかな?」
探るようにゆっくりと茂みをかき分けていき、気配を感じたところで一気に大きく茂みを剣で切るように草を倒した。
「いた!」
予想通り、そこにいたのは、何とも可愛い完全に透明で、レースのような見事なまでに細やかな網目模様の入ったスライムだった。
しかも、よく見るとその模様は単一では無く、本物のレースの様に葉っぱの様な模様や三角っぽい柄も見えた。
「ええ、レース模様のスライムかよ」
笑った俺はゆっくりと見つけたスライムに近付く。
スライムはすっかり怯えて縮こまっているが、ここは貴重な飛び地。いきなり巨大化して襲ってくる可能性だって無い訳じゃない。
そう思ってスライムから目を離さずにゆっくり剣を振りかぶった俺は、狙いを定めてレース模様のスライムを剣の横面でぶん殴った。
スポーンと間抜けな音を立ててレーススライムが吹っ飛ぶ。
そのまま奥にあった木の幹にぶち当たって、へしゃげた状態のままずり落ちていく。
うん、この展開も見覚えありありだって。
レース模様になった木の幹に駆け寄ると、足元にずり落ちていったレーススライムはその場に丸くなって震え出した。
左手で、バレーボールくらいになったそいつを掴んでやる。
「お前、俺の仲間になるか?」
いつものように、声に力を込めて、スライムをじっと見つめてそう言う。
一瞬嫌がるように身動ぎして逃げようとしたので、力を込めて握ってやると、一瞬だけ光ってすぐに戻った。
「はあい、よろしくです! ご主人!」
これまた妙に可愛い声でそう答える。
「紋章は何処につける?」
そう聞いてやると、その瞬間にアクアゴールドが一瞬でばらけて地面に転がった。
コロコロと転がった後、全員がレース模様に見せるかのように一列に並んだ。見事なまでに同じ位置に、肉球模様が整列している。
「同じ所にお願いします!」
その声に笑って掴んでいた左手を上に向けて離してやると、手のひらの上でモゾモゾと動いた後、俺に向かって伸び上がった。
「ここに、ここにお願いします!」
「ここで良いか?」
右手で上の部分を撫でてやるとうんうんと言わんばかりに上下に動いた。
「お前の名前はクロッシェだよ。よろしくな、クロッシェ」
そう言って、手袋を外した右手で軽く押さえてやる。ピカッと光って元に戻った時にはもう、額に俺の紋章が刻まれていた。
「ありがとうございます! わあい、名前貰った!」
ポヨンポヨンと手の上で跳ねていたクロッシェを撫でてやると、細い触手が出て俺の腕に遠慮がちに絡みついた。
何だよこれ、めちゃ可愛いじゃん。
「あ、そのままじっとしててね」
腕を伝って手首まで降りて来たシャムエル様がそう言い、ちっこい手を伸ばしてクロッシェに触れる。
「収納と保存、浄化の能力を与える。主人に尽くせ」
いつもの神様の声でそう言うと、もう一度スライムが光って元に戻った。
「おお、ありがとうな。シャムエル様」
また一瞬で右肩に戻ったシャムエル様にお礼を言って、足元に並ぶスライム達を見る。
俺の手の上からそれを見たクロッシェが、コロンと地面に落ちて並んでいるスライム達の所へ転がっていった。
「クロッシェです。よろしくですー!」
「はあい、よろしくね。アクアだよ」
「サクラだよ、よろしくね!」
全員が仲良く挨拶する声が聞こえた後、アクアとアルファがくっつくのが見えたら、もうそこにいたのは、いつもの金色に羽の生えたアクアゴールドだった。
「あれ、クロッシェは?」
「一緒にいま〜す」
細い触手がまたニョロんと伸びて俺の腕を突っついてすぐに引っ込む。
「へえ、金色合成したら模様は消えるんだ」
感心したようにそう呟き、アクアゴールドをおにぎりにしてやった。
「仲良くな」
「はあい!」
全員の揃った声で返事をされて、俺は堪えきれずに、吹き出して大笑いしたよ。
「何だかよく分からないけど、いかにもレアキャラっぽい模様入りのスライムをゲットしたぜ!」




