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次のジェムモンスターと今夜の寝場所

「なあ。あの花畑はここから見たら綺麗だけど、よく見ると花の形が見えるんだよな。って事は、あれもヒトヨスミレみたいに一本一本は大きいのか?」

「ああ、あの花畑? 勿論、どれもケンの背丈なんかよりはるかに大きいよ。それであの花畑は、シルバーレースバタフライの大切な餌場なんだよね。どの花も蜜が豊富な種類だからさ。大食漢のシルバーレースバタフライにとってはご馳走の花畑な訳」



 得意気に答えたシャムエル様の言葉に、食後のお茶をのんびり飲んでいたの三人の手が止まる。



「おい、シャムエル。今、シルバーレースバタフライと言ったか?」

「そうだよ。これも貴重なジェムモンスターだから、頑張って集めてね。あ、出て来るのはあの森の横にある大岩の大穴からだよ。今日の分はもう終わっちゃったみたいだから、出るのは明日だけどね」

 シャムエル様の言葉に、三人が一斉に指差す方を振り返る。

 そこにある大岩の亀裂のような箇所には、確かに底が見えない巨大な穴がポッカリと口を開けていた。多分、幅は1メートルくらいだろうけど、長さは20メートル位はありそうだ。

「それならもう一泊して行こう、シルバーレースバタフライなら絶対に羽根は確保したいからな」

「バイゼンヘ行くんでしょう。そう聞いたから、良さげな素材が取れるジェムモンスターを集めたんだからね。感謝してよね」

 得意気に胸を張るシャムエル様に、満面の笑みのハスフェル達が何度も頷く。



「何、そんなに珍しいジェムモンスターなのか?」

 唯一、全く状況が分かっていない俺を見て、オンハルトの爺さんが教えてくれた。

「そうだ。シルバーレースバタフライは、鱗粉を持たない透明で繊細な翅を持った蝶だよ。蝶にしては身体が太くて大きいのも特徴だな。まあ、狩る側にしてみれば、出会えさえすれば狩る事自体は難しくは無い」

「へえ、蝶なのに鱗粉を持たない透明な翅って事は、セミ……じゃ無くて、さっきのカメレオンシケイダの翅みたいなやつか?」

「ああ、あれよりももっと繊細で綺麗な翅だぞ。翅はとても薄くて壊れやすいので、地面に落ちただけでも衝撃で割れり欠けたりするんだよな。だから、傷がない状態で確保するのが難しいんだ。さて、どうするかな」

 ハスフェルがそう言って、大穴を見ながら腕を組んで考え込む。

 ギイと、オンハルトの爺さんまでもが困ったように考え込むのを見て、俺も必死になって解決策を考えた。




「あ、それならスライム達に働いてもらうべきじゃね?」

 不意に思い付いて俺は手を打った。

「剣か槍で、俺達がまずはその蝶をやっつける。普段だったら、地面に落ちてから適当にスライム達が回収してくれるけど、今の俺達は、ばらけたら九匹以上のスライムを全員が連れてるんだからさ。蝶って事は、翅の数は四枚なんだよな。それならスライム達に、それぞれの主人の倒したシルバーレースバタフライの翅が地面に落ちる前に、手分けして収納して貰えば良いんじゃないかな。ええと、出来るよな?」

「もちろん出来るよ! 地面に落ちる前に収納すれば良いんだね」

「そうそう、出来るだけ壊さないようにな」

「分かった〜!」

「集めるよ〜!」

 そう答えて、アクアゴールドから一瞬でバラけたスライム達が、地面にボトボトと落ちて一斉に騒ぎ出した。



「はあい。いっぱい集めるね!」

 大張り切りで、今にも花畑に飛んで行きそうなスライム達を慌てて止める。

「まあ、蝶が出てくるのは明日らしいからさ。やってもらうのは今すぐじゃないぞ。それは明日のお願いだよ」

「ええ〜、今すぐやりたい!」

「やりたい、やりたい!」

 足元で、文句を言いながら飛び跳ねるスライム達を撫でてやりながら、笑って三人を振り返る。

「なあ、このアイデアでどうだ?」

「確かにそれが一番安全そうだな。それじゃあ、翅集めはスライム達に任せよう」

「うむ。確かにそれが一番安全に翅を集められる方法だな」

 ギイとオンハルトの爺さんの言葉に、ハスフェルも大きく頷いた。

「じゃあ、そう言う事で行こう。さてと、そうなると野営地まで戻っていたら時間が無くなりそうだな」

 またしても困ったようなハスフェルの言葉に、思わず彼を見る。

「え?ドユコト?」

「シルバーレースバタフライなら、出るのは夜明けから真昼までの間、つまり午前中だけなんだ。もう、外の世界では深夜を確実に過ぎているから、このまま野営地まで戻ってたら、はっきり言ってとんぼ返りで戻って来ないと最初の出現に間に合わん。となると、寝る時間が無いんだよ」

「あ、そう言う事か。確かにさっきからかなり眠いもんな」

 納得して、花畑を振り返る。

「夜でも、ここでは花は閉じないんだな」

「言ったでしょう、ここは外とは時間が切り離されているから、ある意味ずっと昼だし、ずっと夜なんだよ。だから、それぞれ好きなように育つんだ」

 何となく思った事を言っただけだったが、俺のその言葉に、右肩に現れたシャムエル様が花畑を指差して教えてくれた。

 ほお、成る程。うん、さっぱり分からん。

 って事で、これもいつもの如く明後日の方向にまとめてぶん投げておく。

「じゃあどうする。ここで仮眠を取るのか?」

 ハスフェルとギイが、顔を見合わせて何やら真剣に相談を始めた。



「どう思う、ここで過ごしても問題無いだろうか?」

「確かにな。一応安全らしいが……」

 腕を組んで二人揃って双子か!と突っ込みたくなるレベルのシンクロ率で悩んでいる。

「なあ、何がそんなに問題なんだ? ここにテントを張るのは駄目なのか?」

 隣にいたオンハルトの爺さんに、小さな声で質問する。

「飛び地の中は、まあ地下洞窟なんかよりは安全なんだが、逆に言えば、グリーンスポットが無い。つまり、いつ何時、はぐれのジェムモンスターに会うか知れんのだ。分かるか、洞窟のグリーンスポットなら、ミスリルの鈴の付いた縄を張れば、簡易ではあるが安全地帯が作れる。しかし、ここのジェムモンスターにはそれが効かない。つまり、全くの無防備な状態で夜明かししなければならんわけだよ」

「ああ、成る程、うっかりテントを張って寝ていたら、木から離れて彷徨ってるヘラクレスオオカブトに、いきなり突っ込まれる可能性を否定出来ない訳か」

 苦笑いして頷くオンハルトの爺さんを見て、俺はちょっと気が遠くなった。

 絶対、この場合……突っ込まれ役は俺だよな。

 もう、言われる前から予想が付くよ。

 そして絶対、またしてもテントがボロボロにされて下手すりゃスプラッタ再び……。



「うわあ、そんなの絶対嫌だぞ!」



 その状況を想像してしまい、頭を抱えて叫ぶ俺を見て、オンハルトの爺さんが遠慮無く盛大に吹き出した。

「ご主人、それならテントは張らずにここに野営してください。それなら私達には何か来たらすぐに分かりますよ」

 駆け寄って来たマックスがそう言ってくれた。

 その後ろでは、猫族軍団を始め、恐竜達や草食チームまで、全員揃ってドヤ顔で頷いている。

「あ、そうだよな。お前らはジェムモンスターの気配は判るんだもんな。それじゃあ、寝ている間の見張りは頼んでも良いか?」

「もちろんです。それでは私達が外側を囲みますから、ご主人達は、私達の輪の中で寝てくだされば良いですよ。今夜はスライムベッドで休んでくださいね」

「ああ、それじゃあそうさせてもらうよ」

 そう言ってマックスの鼻先を撫でてキスをしてやった。

 それから順番に猫族軍団や草食チーム、それからファルコやセルパン、アヴィも順番に心ゆくまで撫でまくった。



「それじゃあ見張りは従魔達に頼もう。そうだな、今の俺達には頼れる従魔達がいるんだから、ここは任せても良いな」

 ハスフェル達も笑顔でそう言ってくれたので、今夜はこのままここで野営する事になった。

 うん、若干不安は残るが、ここは気配に敏感な従魔達に任せるべきだよな。

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