禍いを呼ぶ男?
「それにしても頑張ったな」
苦笑いしながら振り返った地面には、辺り一面ジェムと大きな硬い羽がゴロゴロ転がっている。
しかも、見渡していて気が付いた。大量のジェムの中に、僅かながら色が付いているのがある。
どうにも気になって、そこへ走って行きそのジェムを拾う。
「へえ、ちょっとだけ金色っぽい色がついてるんだけど、どう言う事だ? 透明なジェムが普通だよな。色付きなんてのがあるんだ?」
色付きと色無しの両方のジェムを持って首を傾げていると、ハスフェルが振り返って教えてくれた。
「この色付きが最上位種の亜種のジェムだよ。黄金虫のジェムは亜種の中でも特別な奴のジェムだけがごく薄いが色付きになるんだ。こいつもバイゼンへ持っていけば大喜びで買ってくれるぞ。王都でも評判が高いから、クーヘンの店にも少し渡してやろう。絶対に、王都の商人達が狂喜乱舞するぞ」
「へえ、そんな珍しいジェムなんだ。それならもうここでもうちょい頑張ってみようかな」
見上げた目の前の木々には、のんびり話をしている間にまたしても巨大な黄金虫が大量発生し始めている。
どうやらここは、同じジェムモンスターが数回は続けて出て来るみたいだ。
「それなら交代しよう。今度は俺が払ってやるよ」
オンハルトの爺さんがギイから棒を受け取り木の下へ行く。
慌てて持っていた水筒を片付けて、俺も定位置に付いて槍を構えた。
またしても、ワラワラと落ちてくる黄金虫を突き続け、三面目では俺とハスフェルが交代で叩き落とし役を務めて、かなりのジェムと前羽を確保する事が出来た。
「はあ、お疲れさん。かなり頑張ったな」
体力回復用の万能薬入りの水を飲みながらそう言うと、同じく水を飲んでいたハスフェル達も笑って頷いている。
「本来は、こうなんだよな」
「全くだ。本来、絶対に安全なはずの飛び地で、まさかあんな目に合うとはな。本当にどうなってるんだか」
「そりゃあお前、彼がいるからだろうさ」
最後のオンハルトの爺さんの言葉に、ハスフェルとギイが遠慮なく吹き出して大笑いしている。
「なんだよそれ、人を禍いを呼ぶ男みたいに言わないでくれよな」
俺も笑いながら文句言ってやると、三人同時に振り返られた。
「な、なんだよ。そのもの凄いシンクロ率は」
思わず仰け反ってそう言うと、三人は苦笑いしながら顔を見合わせてまた笑ってる。
「だってなあ、そもそも俺と初めて会った時、大量発生したオオサンショウウオに喰われかけてたし、その後、樹海で……」
ハスフェルがいきなり途中で吹き出して誤魔化すように咳き込む。
樹海でのあの夜を思い出した俺は、無言で思いっきりハスフェルの背中を一発殴っておいた。
はっきり言って、コンクリートの壁を殴ったくらいに手が痛かったぞ。
ハスフェル、お前の体は何製だ?
「次々と仲間を増やしたのも、ほぼどれも実質押し掛け状態だしな」
ギイの言葉にハスフェルとオンハルトの爺さんが揃って笑いながら頷く。
「ハンプールでの大騒ぎのレースの後、クーヘンの新店オープンの時は大活躍だったけど、その後のスライム大量テイムでうっかり死にかけ、地下迷宮に入った途端に、怪我はするわ穴に落ちるわ、挙句に恐竜に何度も殺されかけるわ。レアアイテムを手に入れるも、最後は危うく生き埋めになる所だったしなあ。ようやく安全な地上に出たと思って街へ行けば、下らない理由で誘拐事件に巻き込まれるし、口直しに収穫祭りをするつもりで飛び地へ来れば、いきなりその飛び地に喰われかけるし、再生して安全になった筈の飛び地では、丸腰でヘラクレスオオカブトに喧嘩売られてたしな。これを禍いを呼ぶと言う以外に何と言うんだ?」
ハスフェルが指を折って数えて読み上げてくれる最近の事件の数々に、俺は本気で遠い目になった。
凄い。マジでよく生きてたなあ……俺。
本気で黄昏てると、苦笑いしたハスフェルに背中を叩かれた。もちろん軽く。
「しかも、軽率な部分はあるが、そのほぼ全てでお前さんに非はないって言うんだからな。だけどまあ、ほぼ手に入れるのが不可能な程の貴重なアイテムを手に入れたりもしてるんだから、丸損って訳ではなかろう?」
「そう思ってないと、やってられないよ」
頭を抱えてそう言うと、ハスフェルたちが揃って大笑いしている。
「あ、どうやら次が出たみたいだぞ」
嬉しそうなギイの言葉に俺は慌てて木を見上げた。
しかし、次の瞬間、俺は悲鳴を上げてその場から走って逃げたよ。
だって、新しく出てきたジェムモンスターは、何と芋虫だったんだ。
しかも、一匹が1メートルクラス。はっきり言って悪夢以外の何者でもないよ。
「ごめんなさい!これは無理!これは無理です〜〜〜!」
叫んだ俺は、悪くないよな。
「ああ、そうだったな」
「芋虫は駄目なんだったな」
「せっかくレアなジェムを手に入れる絶好の機会だと言うに」
呆れたような三人の声が聞こえるが、俺はもう完全に戦意を喪失してペシャンコになってます。
「仕方無い。そこで大人しく見学してろ」
ため息と共にハスフェルがそう言い、剣を抜く。
そして、何と目の前の巨木を蹴飛ばしたのだ。
振動で、ボトボトと落ちて来る巨大芋虫。
俺はもうその場にしゃがみ込んで、必死になって小さくなっていた。
あれは無理。
見ただけで全身鳥肌です。今の俺は、どうぞそこらの石ころとでも思ってて下さい。
ドタンバタンと大喜びで暴れ回る従魔達の足音を聞きながら、虚無の目で座り込んでいたのだった。
お願いだから、早く消えてくれ……。
しかし俺の願いも虚しく、その後全面クリアーまでには、全部で五面クリアーしなければならなかったのだった。
その間、俺が何をしていたかと言うと……一面クリアーまでは死んだフリ、二面クリアーの時点で復活してもう少し離れ、三面目に突入した時点でシャムエル様に頭を叩かれてようやく復活して、サクラを呼んでとりあえず料理をする事にしたよ。
だって、今の俺に出来る事って言えば、どう考えてもこれしか無かったからさ。あはは……。
さて、頑張って戦ってるハスフェル達に、何を作ってやろうかね。