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更に奥へ行く

 ぺしぺしぺし……。

 ふみふみふみ……。

 カリカリカリ……。

 つんつんつん……。

「おう……起きてるよ……」

 ぼんやりとした頭で返事をした俺は、大きな欠伸をして、もふもふのニニの腹毛に顔を埋めた。

「こら、起きなさい」

 頭を叩くシャムエル様の言葉に、俺はうつ伏せのまま返事をした。



「ふああ、まだ眠いよ……」

 そう呟いて、何とか起き上がって大きな欠伸と共に立ち上がる。

「ああ、まだ私達が起こしてないのにご主人起きちゃった」

「ええ、つまんないの」

「ヤスリ掛けはやめてくださ〜い」

 笑いながら文句を言うソレイユとフォールの二匹を捕まえて、両手でおにぎりの刑に処する。

 戯れていると、タロンとフランマも乱入してきたので、交互にこちらもおにぎりにしてやる。

 うん、こうやって比べると、フォールの首の太さが半端ねえよ。

「ご主人、私も」

 そう言ってニニが俺の背中に頭突きをしてくる。

「こらこら、また落ちるって」

 笑って大きなニニの首に抱きついて首回りのもふもふを堪能する。

 うん、今日も良いもふもふっぷりだね。



 ゴソゴソと、あちこちで起きてきた気配がする。

「おはよう、起きてるか?」

 テントの外からギイの声が聞こえて、テントの垂れ幕が捲り上げられる。

「おはよう。特に寝ている間も問題無かったみたいだな」

「おはよう。言っただろが、此処はもう安全だとな」

 笑ってテントを片付けるギイの言葉に、俺も立ち上がって大きく伸びをした。

 寝ていたスライムベッドは、あっという間に分解してバラバラになる。

「ご主人綺麗にするね〜!」

 ニュルンと伸びてきたサクラの声と同時に、俺の身体は包まれてすぐにすっかり綺麗になる。

 脱いであった防具を手早く身に付けるまでが朝のルーティーンだ。

「よし、完璧」

 最後の籠手をはめて出しっぱなしだった机を見る。

「それじゃあ朝は、サンドイッチで良いかな」

 跳ね飛んで机に乗ったサクラから、適当にいろいろ出しておく。

 それからベリー達には、果物の箱もな。




 ハスフェル達も起きてきたので、作り置きのアイスコーヒーを出してやり、各自好きなサンドイッチを取って食べてもらう。

 タマゴサンドの横で自己主張しているシャムエル様のもふもふ尻尾を突っついて、俺はいつものベーグルサンドとタマゴサンドを取って席に着いた。

「それじゃあこの後は、言ってたみたいにこの奥へ行くのか?」

 コーヒーを飲みながらそう尋ねると、ハスフェルとギイは顔を見合わせてから頷いた。

「もう大丈夫だと思うが、念の為な」

「了解。じゃあ食ったらテントを片付けないとな」

 ステップを踏みながらお皿を差し出すシャムエル様に、タマゴサンドの真ん中部分を切ってやり、アイスコーヒーも盃に入れてやる。

 残りのタマゴサンドを食べながら、諦めのため息を吐く。

「もうこうなったら、早いところ行って安全を確認して戻って来よう。うん、それが良い」

 最後の一口を飲み込んで、残りのコーヒーを飲み干した。



 テントを撤収してその場を後にした俺達は、姿を現したベリーとフランマと一緒にどんどん奥へ進んで行った。

「そう言えば、あの大きな木の場所以外には、ジェムモンスターの出る場所って無いのか?」

「あるよ。このあとで行くからね」

 右肩に座ったシャムエル様に言われて、マックスの背から落ちそうになった俺は、慌てたスライム達に支えてもらって何とか起き上がった。

「あはは、やっぱりあるんだ」

「此処に出現するジェムモンスターは混ぜたからね。何処で何が出るのかは、行ってみてのお楽しみだね」

「そうなんだ。まあ、芋虫以外なら何でも良いよ」

 もう諦めの境地だ。この飛び地へ来てから、ろくな事無いもんな。

 早くここから出たいです!




 更に奥へ進み、何となく見覚えのある起伏に富んだ草地に到着する。

 段差部分に生えている茂みや低木樹があるのは前回と一緒だが、明らかに果物の大きさが違っていた。

 どれも普通のリンゴサイズで、やや色が赤いくらいで、よくあるリンゴとそれ程変わらない様に見える。

 そしてぶどうの方は、最初に見つけた時くらいの小粒に戻っていて、まさしく種無しぶどうだった。

「小さくなったな」

「味はどうだ?」

 恐る恐る、ぶどうを一粒取って口に入れてみる。

「ん、普通に美味しい。うん、めっちゃ甘いぞ」

 ベリーがリンゴを一つもいで齧る。

「ああ、マナの濃さはほとんど変わっていませんね。小粒ですがこれも素晴らしいですよ」

 一瞬身震いするみたいに大きく震えて、軽く足踏みする。

 硬い蹄の音が辺りに響く。



「どうする、採っていくか?」

 振り返ろうとしたその時、足元に小さな新芽が出ているのに気付いた。

 双葉からその次の芽が出たところだから、まさに芽吹いたばかりって感じだ。

「へえ、こんな風に出てくるんだ。これも種から育つんだよな?」

 そう言って小さな双葉を突っついてやる。

 その時、あのイケボのミミズの声が頭の中に聞こえた。


『その双葉を、少しの土ごと掘り返して外の世界に持っていってやってくれぬか。そして、外の森のどこでも良い故、植えてやって欲しい。頼めるか?』


 思わず足元を見る。

 もしかして、さっきのイケボミミズのウェルミスさん、一緒に地下を進んで来てるのか。

 シャムエル様を見ると、笑って頷いている。

「ええと、どうやって掘れば良い? 何か使えそうな物はあるかな?」

 丁度アルファが足元に来ていて、その新芽を覗き込んでいる。

「あ、そっか、スライムに……あ、なあシャムエル様。これってこのまま収納に入れられる?」

「残念だけど、収納して枯れなくする事は出来るけど、それだともう植えても新芽は出ないよ。種の状態だと休眠しているから収納しても使えるけど、芽吹いちゃったら生きてるから収納は不可です」

 ちっこい手でばつ印を作る。

「それじゃあ駄目じゃん。じゃあどうやって運ぶかなあ。これを外の世界に植えてくれって言われたのに」

 しばし新芽を前にして考える。

「最悪、布か何かで包んで……あ、俺、最初の頃に買った布の袋がどこかにまだあったはずだ」

 思わず手を打ちサクラを呼ぶ。

「なあ、サクラ。布の巾着ってまだあるか?」

「ええと、これだね」

 十枚ほど、大小様々な大きさの巾着を出してくれる。

「ええと、これかな」

 割と大きめのやつを手に取る。

 しかし、さすがにスコップは持ってないぞ。

 しかも、このあと違うジェムモンスターが出る場所へ向かうって聞いてるから、持っていくのも難しそうだ。外に出して持ってたら、戦ってる間に確実にぐちゃぐちゃになるぞ。

「困ったなあ、どうするかな」

 腕を組んで考えていると、また頭の中に声が聞こえた。

『すまんな、この後、まだ予定があったのか。では、また後ほど、其方達が帰る時に頼む事にしよう』

 そう聞こえた後、一瞬で地面に出ていた新芽は消えてしまった。



 思わず目を瞬き、地面を見回す。

 しかしもう、何処にも先ほどの新芽は無かった。

「へえ、こんな事も出来るんだ。まあ良いや、じゃあまた後でな」

 地面に向かってそう言うと、周りを見渡す。

 皆、黙々とリンゴとぶどうを収穫している真っ最中だった。

「そっか、もう一回ここで収穫祭をする訳か」

 苦笑いした俺も、目の前のリンゴとぶどうをせっせと収穫していった。



 時折、自分の方にも収納していったが、何故だか幾らでも入る。昨日もかなりの量を入れたと思ったけど、まだまだ入る気がする。

 ううん、俺の収納量ってどうなってるんだろうな?

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